第55話 お迎え
「あ、
「知ってる」
三時間目の授業が終わった後、美由が俺の机に来て言った。少し遅れて健一もやってきて会話に混ざってきた。
「何の話をしてたんだ?」
「美月ちゃんがお昼一緒に食べるって話」
「へー、了解」
「あれ?悠真は知ってたのにけんくんは知らなかったの?」
「俺は本人から聞いたからな」
「いつだよ」
「さっきの休み時間だよ」
「ああ、あの悠真が顔を真っ赤にして帰ってきたときか」
「おい、そんな記憶はない」
誰が顔を真っ赤にして帰ってくるだ。俺はそんなことした覚えは・・・なくもない。でも、勘違いだと思いたいから認めたくはない。
「美月ちゃんと会って顔が赤くなるとは何かあったのかな、ゆ・う・ま・く・ん」
「な、なにもないよ」
「悠真、そのリアクションはわかりやすぎるよ」
林間学校のことは誰にも話すわけにはいかない。なぜなら、俺が恥ずかしいからなのと美月さんのプライバシーにも関わるからだ。
「これはお昼に問い詰めだな」
「うん、けんくんと美月ちゃんと一緒に問い詰めるから」
そんな事を言って美由と健一は自分たちの机に戻っていった。今日のお昼はとんでもないことになりそうだ。
「起立、礼」
「「「「ありがとうございました」」」」
「悠真、さあ問い詰めるよ。あ、あとお昼ごはんも」
「なんで飯がついでなんだよ」
「まあまあ、気になってるんだよ。俺も気になってるし
四時間目になった瞬間に美由と
「そういえば美月さんって食堂で合流するのか?」
「違うよ、美月さんの教室に迎えに行くんだよ」
「三人で行くのか?」
「いや、私とけんくんで席取っておくから悠真が迎えに行くの」
「は?!」
なんで俺が迎えに行くの?!普通同性の美由とかが行ったりするかみんなで行くんじゃないの?
「みんなで行ったら四人席なんて埋まるだろ」
「う、でも美由が行けば」
「え、嫌だけど」
なんで断ってるのこの人は。しかも席取りなら俺と健一の方が良くないか?
「だって美月ちゃんは悠真のこと待ってるし」
「なんで俺なんだよ」
「だってねぇ、心当たりしか無いんじゃない?」
心当たりが無いはずがない。林間学校のときのあの言葉がまだ頭の中を反芻してる。
「あ、やっぱりあるんだ。カマかけてみるもんだね」
「ば、お前、は」
「これは引っかかる悠真が悪い。それにお前はすぐに顔に出るからな」
「そうそう、けんくんの言う通り。悠真ってわかりやすいリアクションばっかで助かるよ」
てっきり美月さんからこの前の事について話をされていたのだと思って油断してしまった。なんだか俺がわかりやすいって言われることに納得行かない。あんなに自分の事を偽っていられたのに。
いや、もしかして・・・今考えるのはやめよう。また顔に出る、何故かそんな予感がするから。
「じゃあ美月ちゃんのことはよろしくね。私はけんくんと二人きりで食堂で待ってるから」
「急に惚気んなや」
「まあまあ、悠真のことだから彼女が出来たらこれ以上にのろけるだろうに」
「そうそう。あ、でも悠真は尻に敷かれてそうなんだよね」
「うるさいぞ二人共。さっさと行け」
「はーい、言われなくても行きますよーだ」
俺たちは分かれて、俺は美月さんの教室、健一と美由は食堂に向かった。
一年一組の教室まではそこまで遠くはない。でも、どう声をかけるか悩みながら行っていたら少し時間がかかってしまった。昼食を取る時間もなくなってしまうので急がないと思いつつも、教室の中にいる美月さんのことを見つけると緊張してあと一歩が出ない。
「あ、悠真さん。待ってました」
「お、おう」
俺のことに気づいた美月さんがこっちにやってきた。
「遅かったですね。どうしたのですか」
「いや、特に何もなかったけど」
「そうですか。美由さんたちも待ってますし早めに食堂に向かいましょうか」
そう言って俺の隣にくっついて食堂に向かって歩き出した。それにしても美月さん、あなた近すぎませんか?さっき会ったときも思ったけど距離感がおかしくなったように感じるのですが。
「どうしたんですかそんなに顔を赤くして」
「なんでもないです」
「絶対嘘です。悠真さんの顔見たらすぐに分かります」
「そんなにわかりやすいのか」
「私が好きな人の顔の変化に気づかない鈍感なわけが無いじゃないですか」
「・・・」
「あ、また赤くなりました。もしかして照れてます?」
「うるさい」
この子はまたこんな事を言う。この距離感といい言葉といい、美月さんが俺のことを好きでいることを改めて感じさせてくる。だからこそ照れてしまうし、心臓がもたない。
俺も美月さんへの気持ちや自分の過去について早く整理をしないといけないと思いながら先送りにしてしまっている。まだ怖くて何も出来ていないのと自分の中にある気持ちがなんなのか名前がつけられていないからだ。
「じゃあ言いますけど、恥ずかしいんでもう少し離れてもらっても良いですか?」
「ん、嫌です。好きな人がすぐそこにいるのに離れたくないです」
その言葉を聞いて美月さんに何を言っても変わらないことを悟った。俺がこの状況になれるか、早く気持ちの整理をしなくてはと強く思った瞬間だった。
食堂に着いたときには全力で運動した後のように心臓が激しく動いていた。
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