第三章 期末試験〜夏祭り

第54話 変化

 林間学校も終わり授業も順調に進んでいく。学校自体がこの辺でも上位の進学校であるので授業の進行速度も早めである。

 俺はこの前の林間学校のときの美月みつきさんからの告白まがいの言葉に動揺していて授業が頭の中に半分くらいしか入っていなかった。


「・・・はし、おい、高橋たかはし

「は、はい」

「ったく、私の授業でぼーっとすんなよ」

「すみません」


 今は世界史の授業。つまり小林こばやし先生の授業だ。小林先生の授業は分かりやすいのだが授業の進むスピードが早い。そのため、少しでも気を抜くと授業に置いていかれてしまう。


「とりあえず今日はここまでにする。あ、来週ここまでのテストするから勉強しとくように」

「「「「えぇ・・・」」」」

「文句言うなら範囲広げるけど」

「「「「異論ないです」」」」


 やっぱり小林先生怖い。そして、誰も逆らえないこの現状とはいかに。


「よし、号令」

「起立、礼」

「「「「ありがとうございました」」」」


 授業が終わり休み時間になった。そして俺のもとにすぐさまあいつが寄ってくる。


「ちゃんと授業に集中しろよな」

「お前にだけは言われたくない」

「なんだと」

「どうせ分かんなかったから教えてくれって言いに来たんだろ」

「ご明察」


 健一けんいちは勉強は少し苦手だ。だから定期的に俺が勉強を教えている。


「あ、そうそう。高橋、ちょっといいか」

「え、なんですか」


 何故か教室を出ていこうとしている小林先生に名前を呼ばれた。


「授業で使う教材が届いたから運ぶの手伝え」

「なんで俺なんすか」

「今日の授業中の態度」

「うっ」


 授業中も注意されていたしそれを言われると従うしかない。たしかに今日の授業には身が入っていなかったしちょうどいいリフレッシュになるかもしれない。

 準備教室の中に入り机の上に置いてあった教材の入ったダンボールを持って教室に戻る。


「そういえば高橋、最近の学校はどうだ」

「どうってなんですか」

「入学した頃は周りとなんて絶対に関わらないなんて雰囲気を出していたからな」


 この先生は仕事を面倒くさがるが決して出来ないわけではない。周りのことはよく見えているし仕事もよくできる。だからこんなクラスでも隅の方にいる生徒のことまでしっかり見ている。


「特に変わりはないですよ」

「そうか?私から見てても入学してからだいぶ変わったように感じたから何かきっかけがあったのかと思ってな」


 そう簡単に変われていたら苦労しない。でも、この前の林間学校のときに美月さんに自分のことを話して改めて自分と向き合うことが出来た気がする。


「俺が変わってるわけが無いじゃないですか」

「それだよそれ。前まではそんなふうに笑うこともなかったんだぞお前は。気づいてないってことはこれは無自覚なのか」


 そう言って小林先生は俺の今の顔を指さした。自分でも気がついていなかったが俺は確かに笑っていた。前までの俺ならこんなときになにかに絶望したような顔をして笑うことはなかった。それにしても


「人の顔を指ささないでください。教師がそんなことしないでください」

「すまんすまん。高橋は運動会のあたりから変わり始めていたが、はっきり変わったのは林間学校の後か。何があったんだ、やっぱり女でもできたか」

「はぁぁぁぁぁ」


 な、な、なに言ってるんだこの先生は。なんでそんな予想になるんだよ。


「お、その動揺具合は当たりのようだな」

「何いってんだバカ教師」

「バカ教師とはなんだ、お前だけ課題増やしてやろうか」


 俺が変わったのは確かに美月さんがきっかけなのは認める。でも、それが男女の関係だなんてありえない。

『高橋悠真さん、あなたのことが好きです』

 いや、ありえないわけではないのか。いや、でも、俺と美月さんでは、でも、俺は美月さんが・・・

 なんて考えながら自分の頬が熱くなっていることを感じた。


 やっぱり俺はこの教師が苦手かもしれない。


「後は頼んだからな」


 そう言って小林先生は職員室に戻っていった。あの先生は言いたいこと言って、面倒なことを俺に押し付けて帰りやがって。そんな不満を持ちながらダンボールを持って教室に向かっていると


「大変そうですね。その荷物一緒に持ちますか」

「あ、お願いし・・・美月さん!?」

「はい、私です」


 隣に来た美月さんに声をかけられた。小林先生への不満からか周りが見えていなかったので気が付かなかった。


「この荷物はどちらへ?」

「いや、教室までなので大丈夫です」


 こんなところを他の生徒に見られては誤解されてしまう。それに、クラスも違うので手伝わせるのは申し訳なかった。


「で、なんでついてきてるんですか」


 手伝いを断ったら教室に戻るだろうと思っていたのだが、何故か俺の隣を一緒に歩いている。


「え、決まってるじゃないですか。一緒に居たいからですよ」


 そう言って笑顔を見せる美月さんのことを俺は直視できなかった。


「そんなことしてたら俺にも周りにも勘違いされますよ」

「いいんですよ、勘違いされても。それに悠真さんには私がどれだけ好きなのかを伝えていこうと思いますしね」


 林間学校以来、美月さんと会うことは今日までなかったのだが、なんだか距離感がいつもより近い気がする。


「このまま悠真ゆうまさんの教室に行くのもいいですが、次の授業もありますしこの辺りで戻ろうと思います」

「ああ、そうしてもらえると助かる」


 俺の精神的にもこれ以上美月さんの隣に居たらおかしくなりそうだ。


「むぅ、そんなこと言わないでください。悲しくなるじゃないですか」

「ご、ごめん」

「なんて嘘ですよ。あ、今日のお昼ご飯一緒に食べませんか?」

「え、」


 そんな顔されたら俺が悪いみたいになるじゃないか。少しは俺が悪いのかもしれないけど距離が近い美月さんが悪いでしょ。

 美月さんと二人きり?そんなの耐えられるわけがない。


美由みゆさんたちも一緒に四人でどうです?今日は三人で一緒に食べると美由さんから聞いていましたから」

「な、なんだ。うん、分かった」


 すみません、俺の勘違いでした。そうだよね、俺と二人きりなわけがないよね。うん、知ってた。


「それとも私と二人きりが良かったですか?」

「な、」


 美月さんは小悪魔的な笑顔を作りながら俺にだけ聞こえるよな声でそう言った。


「二人で食べるのはまた今度という事で。ではまたお昼休みに」

「お、おう」


 美月さんは自分の教室へと戻っていった。

 なんだか今日の美月さんは今までとは違う感じがした。そして、そんな美月さんにずっと振り回されていた。このままだったら俺の心臓がが何個あっても足りない、そう感じた。


 教室に戻ると健一に「顔が真っ赤だぞ」と指摘された。穴があったら入りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る