第53話 あの丘の上での告白《冬城美月視点》

「こんな感じかな。昔とは全然考えも接し方も変わったんだ」


 悠真ゆうまさんはどこか遠くを見るような、後悔と悲しみが混ざった目をしながら自分の中学生の頃の話をしてくれました。

 そんな悠真さんの話を自分の事と重ねてしまいました。でも全然違います。悠真さんは自分の感情を押し殺さなくてはいけないためつけた高橋悠真じぶん仮面、私は周りの理想を勝手に決めつけてつけた冬城美月わたしという仮面。

 話を聞いた私は上手く言葉が出ませんでした。


「そうなんですね・・・」

「ご、ごめん。急にこんな重い話しちゃって。困るよね、忘れちゃっていいから」

「いえ、忘れませんよ」


 そんなことを言う悠真さんは泣き出す寸前で泣くことを我慢している子供のような顔をしていました。そんな悠真さんに私は一言言いたくなってしまいました。


「無理しないでくださいね」


 でも、悠真さんは普段からつけていた高橋悠真じぶんという仮面のせいで感情を押し殺してしまっています。私はそんな悠真さんの感情を表に出してもらうために悠真さんを自分の胸に引き寄せました。


「頑張りましたね。お疲れ様」


 悠真さんの目には涙が浮かんでいました。でも泣くのを必死に我慢しようとしています。もちろん男性が女性の胸の中で泣くのは恥ずかしいことは知っています。でも、それ以上に今の私は悠真さんの心の中を解き放ってもらいたかった。


「我慢しないでください」


 不器用な私にはそんな一言しか送ることが出来ませんでした。でも、この一言に私の今の想いをのせました。そんな想いが悠真さんの心には伝わりました。

 悠真さんは声を出さないままひたすら泣きました。私の胸元が濡れてしまうくらい泣きました。

 その様子はまるで今までの出すことの出来なかった悲しさや寂しさ、後悔を吐き出しているように見えました。




「本当にすみませんでした」


 悠真さんは涙が引いた後にすぐに私に頭を下げてきました。私の胸元は悠真さんの涙の跡がはっきりと残っていました。


「よかったらこれ着てください。俺、今寒くないんで」

「あ、ありがとうございます」


 悠真さんは自分の着ている上着を私に渡してきました。悠真さんからもらった上着からは悠真さんの匂いがしました。

 私は受け取った上着を羽織りました。なんだか悠真さんに包まれている感じがしてドキドキします。


「悠真さんの匂いがします」

「う、ごめんなさい」

「なんで謝るんですか。悠真さんに包まれている気がしてドキドキしますよ」


 何言っているんですか私。そんなこと言ったら悠真さんに引かれてしまうじゃないですか。でも、悠真さんの匂いが自分からしてドキドキしてるのは本当ですし・・・しょうがないです、悠真さんが魅力的なのが悪いです。


美月みつきさんの服を汚してしまったのでその服を着たまま戻ってください。デザインは女性でも使えるものなので大丈夫だと思います」

「でも悠真さんはどうするのですか」

「俺は大丈夫です。こんなに迷惑かけてしまったのですから少しでもお返しさせてください」


 私が頭の中で意味もなく悠真さんに弁解して八つ当たりをしていると、悠真さんがこのまま戻るように言ってきました。でも、悠真さんの言葉に間違っていることがあります。


「そんな、迷惑だなんて思っていませんよ。それに約束したじゃないですか、一緒に星をみるんだって」

「そうだったね」

「私は悠真さんと一緒に居たくてここに来たですから」


 私は迷惑だなんて少しも思っていません。そこだけは絶対に否定させてもらいます。


「それにみなさんが肝試しに行っているので暇でしたので」

「あ、そうですよね」


 でも、一緒に居たいとストレートに言うのは恥ずかしいので少し嘘ついてしまいました。


「そろそろ戻りますか?肝試しも終わるような頃合いですし」

「嫌です」

「え」


 悠真さんの言葉に反射的に否定してしまいました。自分でも驚いたのですが、ここまで来たらもう後戻りできません。


「もう少し一緒にいても良いですか?」

「は、はい」

「ありがとうございます」


 私は悠真さんの服の袖を引っ張りながらもう少し一緒に居たいと伝えました。空を見上げてみると流れ星が一つ降ってきました。


「見てください、流れ星ですよ」

「え、ホントだ。願い事しないと」


 流れ星に何を願いましょうか。健康?学業?それとも将来?そんな風に悩んでいる中で今渡しが一番欲しいものが頭の中に浮かびました。私はそれが手に入りますようにと願いました。


「ちゃんと願い事しましたか?」

「う、すぐに思いつかなくてその間に流れ星は消えちゃったから出来てない。美月さんは?」

「私は出来ましたよ」


 私は願い事出来たようですが悠真さんは出来なかったようです。


「どんな願い事をしたの?」

「それは・・・」


 悠真さんに聞かれた時に焦ってしまいました。でも、ここで答えるためにも私は願い事したのです。私はこれ以上逃げません。


「言いにくいことだったよね・・・」

「勇気です。私に勇気をくださいとお願いしました」


 そう言って私は自分で逃げ道を塞ぎました。


「私に勇気がないからここまで先延ばしにしてしまったのです」

「ごめん、話が見えないんだけど」

「少し聞いてもらえますか?」


 ここから先は上手くまとまってはいませんが想いのままに伝えるだけです。


「私は救われました。取り繕っている冬城美月わたしが求められているのであって素の冬城美月わたしが求められているのでは無いと思っていました。でも悠真さんたちと一緒に過ごすようになって、素の冬城美月わたしのことを好きだと言ってくれる人がいることを知りました」


 私のことを救ってくれた悠真さんたちに感謝の気持ちを。


「そして、そんな冬城美月わたしずっと一人の男性のことを頭の中で考えていました。見かければずっと目で追ってしまいますし、一緒にいるだけで緊張してしまいます。そして、その彼のことを考える度にある気持ちが大きくなっていくことを感じました」


 そして一人の男性として気になって、想い、好きになった彼に対して、ただ真っ直ぐに言葉を告げました。


高橋たかはし悠真ゆうまさん、あなたのことが好きです」


 私史上最も緊張した瞬間でもありました。


「返事はいりません。悠真さんが私の事を好きになった時に下さい。いつまでも待ってますから」


 もし、今悠真さんが私の言葉に対して答えをくれたとしても、今だからです。自分の心の奥に溜め込んでいたものを吐き出すことが出来た相手だからというだけなのです。だから私は、本当に心の底から好きになってもらった時に返事をもらいたいです。

 でも、今答えを聞くのが怖くて逃げてしまったのも事実です。やっぱり私の臆病は治っていないようです。


「合宿所に戻りましょうか」

「は、はい」


 ここにこれ以上いるとドキドキでどうにかなってしまいそうですし合宿所に帰り始めました。


「あ、ひとついいですか?」

「ん?どうした?」

「私いつまでも待ってますと言いましたけどいつまでも悠真さんのことを好きだと言ってませんからね」

「え、」

「せいぜいもう好きじゃないかもしれないなんてドキドキしながら返事してください!!」


 嘘です。でも、私だけが不安になりながら告白したのでは不公平なので悠真さんもドキドキしてください。でも、私はいつでも待っていますしいつまでも待っています。

 私はその場から逃げるように合宿所の中に入っていきました。いい答えをできる限り速く返ってくることを願いながら。

 私は、これからはもっと積極的に攻めていきたいと思います。悠真さんが私の事を好きになってくれるように。


 だって私は、冬城とうじょう美月みつき高橋たかはし悠真ゆうまさんのことが好きなのですから。



こんにちは狐の子です。

今回で林間学校編が終わりとなります。次回からは定期テストと夏休みまで一気に進めていくつもりです。

章ごと話をまとめてみました。良ければ読み直してみてください。

この章は悠真の過去や健一けんいち美由みゆの関係性、そしてなにより美月さんの想いの告白などがありました。次の章でも色々なことが起きる予定です。

この先も楽しんで読んでもらえれば幸いです。


フォローやコメントをしてもらえると励みになります。どうか今後ともよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る