第49話 変わった周りと変わらない人、そして・・・
週の初めの登校日は気が重いものだった。数日前の出来事もあり、休んだ感じがあまりなく、疲れが抜けていない状態で学校に向かう。
「おはよー」
そう言って教室に入るとクラス内の視線がこっちを向く。この前のこともあり視線を向けられることに少しの不快感を覚えた。俺が席に着くと周りのクラスメイトたちがヒソヒソと話し始めた。今日の俺の髪型ってそんなに変なのか?
「なあ
「いや、いつも通りだぞ」
「だよな。じゃあなんでみんなこっち見てヒソヒソしてるんだ?」
最初は気のせいかもしれないと思った。でも周りの反応を見る限り気のせいではないだろう。しかも心なしか女子からの視線が辛い。
「あーそれ聞いちゃうか。いや、聞くのは良いんだけど多分大変なのはお前だろうし」
「何だよ、早く教えてくれよ」
「まあなんというか、この前の部活がオフの日のことって言ったら分かるか?」
この前のオフの日、俺は忘れているはずがない。あの冤罪についてこんな数日で忘れるわけが・・・待て、あの冤罪のことをみんなが知ってるってことなのか?
「たまたま同じ車両に乗り合わせたやつがいたらしい。まあ、近くにいたわけじゃないから詳しい状況は分からないらしいがな」
それでもある程度の状況を理解しているだろう。周りはこちらを見ていたし、あの女性も大声で痴漢と言っていた。冤罪が晴れたのも駅員室に行った後だ。電車で俺のことを見たという人は俺が痴漢したという断片的な情報だけしか無いので、その情報が間違っていることは知らないだろう。
でも、こんな風に話が広がっているところを見るにこの状況が非常に悪いことが分かる。もちろん勇琉みたいに俺がやっていないと思っているやつもいると思うが、回ってきている噂の方を信じる人のほうが断然多いだろう。その方が面白そうだからと理由だけで判断している者もいるはずだ。
「
「とりあえず勘違いだってことをみんなに説明する必要があるかもしれないな」
そう言って近くで話していた人たちに真実を話した。
「やっぱりそうだよな。
「それに案外悠真はビビリだからな」
「おい、失礼な。まあそれで信じてもらえるならいいのか?」
クラスの奴らの誤解は上手く解けたようだ。でも俺はまだ分かっていかった。クラスメイトに対して火消しをしたとしてもそんな行動が無駄だということが。
次の日学校に行くと昨日より視線を感じた。それも人のことを蔑む目線を。
「悠真!ちょっと来い」
「おい、いきなりなんだよ勇琉。無言で引っ張るなって」
俺は勇琉に引っ張られて空き教室につれてこられた。そして慌てた様子の勇琉は俺の隣に腰を下ろして言った。
「まずいことになった。噂が学校全体までに広がってしまってる」
「え、、、」
俺は驚きのあまり声が出なかった。もちろんこの前のことに関しては学校側にも報告してある。だから教師陣は冤罪だということは分かっている。
でも生徒たちは違う。何も知らない人が噂を聞きその噂を他の人に広める。そうやって一日もかからずに噂が学校全体に広まった。
「まあ、周りのことなんか気にしないから大丈夫だ」
「そうか、お前がそう言うならそれでいいが・・・」
「ああ、心配してくれてありがとな」
俺はここからだったのかもしれない。自分自身を仮面をつけて偽り始めたのは。
教室に入ると周りの奴らは心配して話しかけてくれた。
「大丈夫か高橋」
「あんま気にすんなよ」
「おう、心配かけて悪いな」
俺はまた仮面をつけて返答した。このまま自分の心を偽らないと、自分自身が壊れてしまいそうで。
その日から数日間周りが気になって仕方がなかった。俺に向けられる視線、言葉、感情、全てが俺のことを嘲笑ってるように感じてしまった。だから何も頭に入らなかった。
「なあ、聞いたか?この学校に犯罪者の先輩がいるらしぞ」
「そうそう、しかも痴漢らしいな」
「まじか」
そんな話が聞こえてきて嫌になって逃げ出した。
「痴漢とかまじで許せないんだけど」
「それな。私だったら耐えられない」
逃げ出した先でも同じ話題がされていた。だから気がついてしまった。どこにも逃げ場所はないってこと。居場所がないってこと。
俺はなんだか疲れてしまった。そして俺の中の何かがプチンと切れる音がした。
俺は次の日から学校に行かなくなってしまった。
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