第48話 打ち上げと冤罪

「よーし、今日の勝利を祝して乾杯」

「「「乾杯!」」」


 俺たちは大会の閉会式を終えた後、祝勝会という名の飲み会(?)をしていた。俺たちにとって県大会初優勝だったこともあり、部員はもちろん顧問も保護者も興奮していた。


「なに大人しくしてんだよ今日の最大の功労者さんよ」

「そうだぞ悠真ゆうま、いや最優秀選手MVPって言ったほうがいいか」

「からかうなよ、今回の優勝も俺じゃなくてみんなで取ったものなんだから」

「やめろよそうゆう風に言うの。お前が気を使うとなんか変」


 閉会式で俺たちは優勝したから表彰されてのだが、俺個人も最優秀選手賞を受賞した。それよりなんだコイツ等。ぶん殴るぞ。てか酒でも飲んだのか?なんかいつもよりテンション高いしノリも変だし。


「酒のんでないぞ。興奮が収まらないだけだ」

「人の思考を読むな。おい瑠偉るい、お前からも言ってやってくれ」

「僕は感激ですよ。悠真さんのおかげで勝てたんですから」

「お前もか!?」


 なんで俺の周りの奴らはこんなに変なんだ?!でも楽しいし面白いから俺はそれが嬉しかった。こんな風にみんなで馬鹿騒ぎする、当時の俺は。この後のあの事件が起きるまでは。



「昨日の練習もきつかったな」

「え?」

「あ、すみません」


 俺は疲労のあまり、気づかないうちに口から独り言が漏れてしまっていた。今日は練習続きだったこともあり久しぶりのオフだ。家で自主練をしてから買い物に出ていた。そのため、さっきの独り言が前の人に話しかけたのだと思われてしまった。前の人、すみません。

 先日の中総体で優勝したので俺たち三年生もまだ引退していない。次の大会でも一試合でも多く勝利することが出来るようにいつもよりハードな練習が続いていた。このままの調子ならもしかしたら次の大会も良い順位まで勝てるかもしれない。

 俺はテーピングに冷却スプレー等の身体のケアをする道具などを買った終えた後、近くにあったアイス屋でアイスを買って駅に向かいました。


「まもなく列車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックより下がってお待ちください」


 電車がやってきた。今日は休日だということもあり電車は割と混んでいた。俺は自宅の最寄り駅までは約15分乗ることにはなる。俺は電車の中から親に最寄り駅に何時頃に着くか連絡していた。妹用にもアイスを買ったし家でみんなで食べようかな。そんなことを考えながらスマホをポケットにしまった時、


「痴漢です!!この人痴漢です!!」


 俺が乗った駅の次の駅で乗ってきた目の前の女性が叫んでいた。物騒な世の中だななんて思っていたらその女性がこちらを指差しでいた。


「隠れないでください、あなたですよ」

「え?俺ですか?」

「とぼけないでください。私は触られてるんですから」


 痴漢が実際に起きた場合、ほとんどは女性の言葉が信じられてしまう。周りの人達からの視線が痛い。


「俺はやってないです。それにさっきまで手が塞がってたんですから」

「まだそうやってとぼけるのですか!!」

「次の駅で降りてはどうでしょうか。駅員の方を入れて話し合うべきだと思います」


 近くにいる男性達が俺のことを捕まえながら電車を降り、駅員室に向かった。

 痴漢の冤罪はほとんど覆らないと言われている。ただ、今回は俺の近くにも目撃者がいたのでどうにかなるかもしれない。


「だから言ってるでしょ。俺はやってない。それに俺はまだ中学生です、そんなことやる意味が無い」


 俺は手に持っていたドライアイスの入った買ったアイスの箱を見せた。そして親との連絡する履歴を見せて自分の両手が塞がっていたことを証明した。


「え、でも私は・・・」

「すみません、一言口を挟ませていただきます。私は彼の隣にいたんですけど彼はやってませんよ」


 俺と一緒に来てくれていた人の中の一人の男性がそう言った。直前に出した状況証拠も相まって俺の証言の信憑性が高まった。


「でも私は実際に触られました」

「あなたがそう言うのですから触られたのでしょう。ですが、触ったのは彼ではありません。それに中学生だという彼が痴漢するでしょうか?私の仕事での経験上そんなことは一切ありませんでした」


 俺の代わりに話を進めている男性から目が話せなかった。


「じゃあ誰が私を」

「それはわかりません。ですが私に依頼していただければできる限りのことはしましょう。私、弁護士ですから」


 そう言って男性は鞄の中から弁護士バッチを取り出した。俺と一緒に来てくれた男性は隣町に事務所を持つ弁護士の一人だった。


「でもよかったです。この場で冤罪を防ぐことが出来まして。ここは穏便に済ませませんか?そちらの彼もどうでしょうか」

「あ、はい。僕は任せます」


 俺には何が必要なのか分からないし、今回は冤罪の容疑が晴れることが出来ればいいので弁護士の男性に任せることにした。

 その後の手続きについては俺の代理で男性が女性と話を進めてくれた。俺は話を聞いて理解しようとしたが半分近くは理解できなかった。話がついた後、俺たちは三人で駅員室に残っていた。


「悠真、高橋たかはし悠真は大丈夫なのでしょうか?!」

「あ、母さん。今、話が終わったとこ」


 俺は遅くなってしまったし、まだ未成年なので保護者への説明が必要なので母親である高橋奈々なながやってきた。


「お母様、この度はご子息に対して大変失礼なことをしてしまいすみませんでした。後日お詫びの品を持って改めて伺わせていただきたい所存です」


 母さんが入ってきてすぐに隣にいた女性が深々と頭を下げた。母さんはその謝罪に対して一言返した後、隣に立っていた男性から今回のことについて詳しく説明を受けていた。

 そして母親と一緒に駅員室を後にして家に帰った。時間が経ちすぎたせいで少し溶けてしまっているアイスの箱を持ちながら。


 このときの俺は冤罪の容疑が晴れたことで無事解決したのだと思っていた。本当に被害が出るのはこの後だというのに。




今日の投稿が遅れてしまいすみません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る