第47話 あの頃の日々
俺は中学生のときはもっと活発な感じだった。学年全体とまではいかないがクラスの中心人物になっていて教師からも好感を持たれていた。
「
「分かった。少し待っていてくれ」
四時間目終了のチャイムが鳴り、同じクラスで同じ部活の
俺たちの学校には珍しくテラスというものがあり、天気が良いとそこで昼食を取る人が多くいる。かく言う俺たちも今日はテラスで昼食を食べていた。
「今日の朝練なかなかハードじゃなかったか」
「そうだな。ほら、昨日の練習試合で後半にミスが増えて負けただろ」
「そうだよなぁ。いつもと比にならないくらい今日の練習は反復練習になりそうだな」
「でも楽しいから良いんじゃないか」
「そうだけどもさ」
俺たちはバスケットボール部に入っていた。この学校のバスケットボール部は県内でもトップクラスに強く、練習は少しきついものだった。でも俺はそんな練習が楽しかった。こんな風に部活に熱中出来るのは学生の特権だからな。
「次の数学当たるけど大丈夫か?」
「やっべ、なあ宿題見せてくんね?」
「やっぱりやってなかったか。その卵焼きで手を売ってやろう」
「うッ、背に腹変えられん」
俺は勇琉から卵焼きをもらって教室に戻ったらノートを見せる約束をした。それにしても勇琉の家の卵焼き美味いんだよな。
午後の授業を終えて放課後になり俺は体育館に向かった。ゴールの用意をしたら荷物を置きに部室にいく。着替えてシューズを履き替えて体育館に行くと後輩がモップをかけていた。
「あ、悠真さんオネシャス」
「おう
「はい、悠真さんたち先輩のために出来ることをしておきたいので」
そう元気な声を出して返事をしたのは近所に住んでいる一歳年下の後輩である
俺は部室から持ってきたバスケットボールを使いながらシュート練を始める。10本中7本か、調子は良さそうだな。
「なんだ一人でシュート練か?俺も入れろ」
そう言って勇琉が俺のディフェンスに入ろうとした。
「何言ってんだよ。みんなも集まってきたし全体練習を始めるぞ」
「でも部長まだ来てないじゃんかよ」
「今日は部長は病院だって昨日も言ってただろ」
「そうだったっけ」
俺は勇琉を含めた部員を集合させて今日の練習の指示を出す。今日は部長が居ないので副部長の俺がこの部活をまとめる。
今日は予想通り前半のほとんどがトレーニングのような練習だった。後半はもうすぐ県大会もあるので五対五での紅白戦をする。
夜6時50分になり部活は終わる。ただ、7時には学校をでなければならないので急いで片付けと着替えを済ませる。
「てか、もうすぐ中総体だな」
「そうだな。なんだかんだ言って寂しいもんだよな」
「大丈夫だ。今回勝ってまだ部活を続けるからな」
「お、うちのキャプテンは相当自信があるようで」
「最近の調子は良さげだからな」
「そうですよね。僕から見ても悠真さんの調子が良さそうです」
学校からの帰り道に勇琉と瑠偉と他の部員の数人と話していた。たしかに今調子は悪くはないしむしろ良い。だからこそ次の大会は勝てる気がしている。ただ、部長の怪我の調子がどうなのかにもよるのでなんとも言えないのだ。でも他の部員を心配させる訳にはいかない。だから俺と勇琉の二人で士気を上げるんだ。
そして俺は次の大会が最後にしない覚悟をした。
「よし、今日は本番だ。全員気引き締めていけよ」
数日が経過し、大会の日がやってきた。俺たちは大会会場に向かうためのバスに乗り込む前に円陣を組んでいた。
「それは部長ですよ。怪我してた足が痛くなったとか言って退場したりしないでくださいね」
「生意気だぞ瑠偉。まあ俺もそうならないようにしないとなって思ってるけどな」
「大丈夫だ。困ったら俺によこせ。全部決めてやるからよ」
「お、頼りになるキャプテンだこと」
今日負けたら明日は無い。今から始まるのは負けたら終わりの試合。そんな日だからこそいつも通りの動きが出来なければいけない。みんなの緊張が少しでも和らぐように少し大口を叩いた。でも、今の俺ならなんだかなんでも決められる気がしていた。
「そろそろ会場に向かうぞ。挨拶してからバスに乗り込むように」
「「「はい」」」
バスに乗り込み席に着いた後、俺は音楽を聞きながら平常心を保っていた。勇琉と
会場についた後、俺たちはウォーミングアップを済ませて一回戦が始まった。俺たちは強い、だから準々決勝までは危なげもなく勝利した。
「次の試合の前に昼休憩があるが食べすぎるなよ。食べすぎて動けなくなったとか洒落にならないからな。特に勇琉お前は気をつけろよ」
「なんで俺!?」
顧問からの話が終わった後昼食を食べ始めた。昼休憩が始まった時間が一時からだったということもあり、食べている間にクラスメイトがやってきた。
「おう悠真、応援しに来てやったぞ」
「何様だよ
「おいおい、俺たちのことも忘れんなよ」
「忘れてねぇよ。次の試合も勝つから応援よろしくな」
「楽しみにしとくわ」
他にも俺の友だちがたくさん応援しに来た。これは絶対に負けられないな。
そして準決勝が始まった。対戦相手は新人戦準優勝した学校だ。対して俺たちは新人戦ベスト4。戦績では負けているが直接対決の勝率は勝っている。それにやっぱり今日はなんだか負ける気がしない。
「6番チェックしろ。さっきからそいつにやられすぎてる」
試合が進むに連れて点数に差がついてきた。10点の差がついたところで俺に着くディフェンスがダブルチームになった。それでも今日の俺は止まらなかった。
テンポが良い。ボールにしっかり指がかかる。体が動く。周りが見える。今日の俺は誰にも負ける気がしない。
その後も俺たちのチームは相手チームを圧倒していた。試合終了のホイッスルが鳴った。結果は
「赤47-白62で白の勝ちです」
俺たちの圧勝だった。俺たちはその勢いのまま決勝戦に望んだ。ただ、相手は新人戦優勝チームだ。そんな簡単に勝てる相手ではなかった。
それでも俺は止まらなかった。向こうのチームとの点取り合戦が始まった。
時間は過ぎ後半残り一分。点差は俺たちのチームが1点差で負けていた。ボールをじっくり回して最後は中から孝太郎が決めた。
相手は速攻で攻めてくる。こっちもオールコートであたるが体力の限界も近く、残りわずかな時間で決められてしまった。
俺は孝太郎からボールを受け取り速攻でボールを運ぶ。ただ、相手も油断していない。すぐにディフェンスがしっかり出来ている。
俺は少し強引に中に詰めようとする。そして急ブレーキをしてディフェンダーから距離を取る。そしてシュートを放った。試合終了の合図とほぼ同じタイミングで放ったシュートは綺麗な放物線を描いてゴールネットに吸い込まれていった。
「シャーーーー」
俺は吠えた。だって県大会で優勝したのだから。
「試合終了。黒56-白57で白の勝ちです」
そしてチームメイト全員に飛びつかれた。
「よくやったぞ悠真。やっぱすげぇなお前」
「最後よく決めたな」
「悠真先輩凄すぎます」
「分かったからお前ら降りろ。重いんだよ」
褒められるのは嬉しいけど恥ずかしい。ただついさっきまで走っていたから疲労も溜まっていて正直重くて辛い。俺は上から降りてもらった後、部員全員で観客席の正面に行った。
「応援ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「すげぇなお前ら。優勝しちゃったじゃねか」
「悠真次も応援行くからな」
「おう、よろしくな」
「そうだぞ。悠真、次も頼んだぞ」
「おう」
応援に来ていた友だちからも褒められたし期待もされた。ただ、この約束が果たされることはなかった。
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