第46話 星空の下で
俺は部屋に戻った後も心ここにあらずといった状態で過ごしていた。周りの会話には入っているのだが、何を話しているのかは全く頭に入っていなかった。
「おい、聞いてるか
「あ、悪い聞いてなかった。もう一回言ってくれないか」
「この後肝試しあるけどお前はどうするんだ?」
「そうだな、今回は遠慮しとくよ」
「なんだ
「いや、今はそんな気分じゃないんだ」
今回の部屋割りはクラスごとということだったので、必然的に
健一は俺の体調を気にしていたが、その一方で小栗が気まずそうに下を向いていた。
「じゃあ、俺たち三人は肝試しに行ってくるから留守番よろしくな、ゆ・う・ま・く・ん」
「はいはい分かったよ」
「なあ高橋」
「ん?何だ?さっきのことなら気にしないで良いぞ」
「それもなんだけど、近くに星空が綺麗に見られる丘があるから行ってみたらどうだ?気分転換にもいいだろうし」
「そうだな、じゃあ行ってみることにするよ」
なんだか今は星を見たい気分だしな。俺も健一たちと一緒に部屋を出ることにした。
「あ、俺もう少しやることあるから待っててくれ」
「じゃあ、俺は行くな」
「なんだよ悠真先に行くのか?連れないなあ」
そんなふうに嘆いている健一のことを無視して俺は合宿所を後にした。
小栗が教えてくれた丘まではそこまで距離がないが、明かりはほとんど無いためスマホのライトを頼りに歩いていった。
丘について空を見上げてみると雲一つ無い夜空に満天の星が輝いていた。ずっと眺めていられるような、そんな美しさがあった。
「きれい」
そんな言葉が口から漏れた。そして改めて感じてしまった、自分は一人なのだということを。幾つもの星が輝く星空の下に一人、さっき口から出た言葉も誰の耳にも届かない。自分は孤独なのだと感じるには十分だった。
「そうですね。やっぱり星って美しいですよね」
そう思っていたのに、自分は一人なのだとそう思っていたのに。俺の耳に聞こえるはずがない声が届いた。驚きのあまり勢いよく後ろを振り返ると、そこには控えめに微笑んだ
「どうしてここに?」
「とある方からタレコミがあったんです。ここで悠真さんが一人で星を見ていると」
そう言って美月さんは俺の隣に腰を下ろした。
私は部屋に戻っても悠真さんのことが頭の中のほとんどを占めていました。あの去り際に見た悠真さんの物憂げな表情が頭からずっと離れないのです。
「はぁ」
「珍しいですね美月さんがため息をつくだなんて」
「そうそう。あ、もしかして恋人とのことで悩んでたのかな」
「こ、こ、恋人なんてまだそんな関係じゃありません」
「へぇ、まだ恋人じゃなくて好きな人ってだけなんだ」
考え込んでしまいため息をついてしまいました。同じ部屋の人に心配されてしまったのですが、そのタイミングで彼のことを考えてしまっていたこともあり、『恋人』という単語に非常に動揺してしまいました。そして、動揺のあまり自分で墓穴を掘ってしまいました。
「その人ってこの前の彼でしょ」
「あの運動会のときの人でしょ。たしか高橋・・・何だっけ」
「悠真さんです」
「そうそう。まさかこんなに簡単に引っ掛かって自白してもらえるとはね」
「あ」
私はまたやってしまいました。どうも悠真さんが関わっていると周りへの注意が散漫になってしまうようです。
そんなことを考えて冷静になろうとしていると、部屋と扉がノックされました。
「すみません、
「え、小栗さん!?」
何故か小栗さんが私の部屋を訪ねてきました。用事が何なのかは分からなかったのですが、無視するわけにもいかないので扉を開けて小栗さんの話を聞きに行きました。
「今って忙しかったりしますか?」
「特には。あ、でもこの後部屋のみんなと一緒に肝試しに行こうと思ってました」
「そうですよね。すみません、その肝試し行かないでもらうことって出来ますか」
一体どういう目的なのでしょうか。私が肝試しに行かないことで何があるのでしょうか。
「今、高橋がこの近くの星空がきれいに見れるところに居ます。どうかそこに行ってもらえませんか」
悠真さんが一人で星を見に?一体何があったのでしょうか。正直に言うと今すぐにでも悠真さんのところに行きたいです。でも先程約束してしまったばかりですし。
「早く行ってきなよ」
「え」
どうやら
「でも・・・」
「でもじゃないでしょ。ほら、早く行ってあげなさい。好きな人のところに行きたいんでしょ」
そう言って背中を押されました。最後の一言は小栗さんに聞こえないように私の耳元で。そして私はみんなから送り出されて悠真さんのところに向かいました。
「みたいな感じです」
「なんかすみません。友だちとの約束を反故させてしまって」
「いえ、みんなこころよく送り出してくれました」
美月さんはどうしてここに来たのかを説明してくれました。やっぱり俺の部屋の奴らが関わっていたようだ。美月さんとその友だちには本当に申し訳ないことをしてしまいました。
「もう俺は落ち込んでなんて無いですし帰りましょうか。外に長い時間居たら風邪引いてしまいますし」
そう言って俺は笑顔を作って立ち上がりました。美月さんに手を伸ばしたそのとき、
「嘘です」
「え、」
「嘘です。落ち込んで居ないなんて嘘です。じゃあなんでそんなに悲しそうな顔をしてるんですか」
そう言って俺の手をつかんで目で訴えかけてきた。
「そんなことはないよ。ほら、帰ろうか」
「私がどれだけ悠真さんのことを見ていると思ってるんですか。こんなにわかりやすい変化に気づかないわけがありません。私に話をしてくれませんか」
そう言われて俺の『こころ』の奥で何かが壊れる音がした。そして、いつの間にか美月さんの隣に座り口を開いていた。
「長い話になるけど聞いてもらえますか」
「はい、いつまでも聞きますよ」
「俺がまだ中学生のときの話です」
そう言って俺は語り始めた。俺の中学生の時に起きたあの出来事の話を。
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