第45話 食事と戸惑い

「うめぇなこれ」

「天ぷらサクサクだしすげえよな」

「焼き魚も身がふっくらしてて美味しいよね」


 日が少し傾いてきたタイミングで食事を始めた。グループごとに席があり、俺たちのグループは丸太の長机を囲んで食事をしていた。男子四人と女子四人に分けれて一列に並ぶ合コンのときのような感じで座っていた。俺合コン行ったこと無いけどこんな感じだろ。

 俺の料理はこの前美月みつきさんたちを呼んだときと同じで好評だった。褒められて悪い気もしないし料理人日和に尽きる。


「なあ高橋たかはし、この天ぷらどうやって揚げたんだ?俺の母ちゃんが作る天ぷらより美味いから気になってよ」

陽人はるとそれはひどくない?まぁ悠真ゆうまくんの料理が美味しいことは私も思うし作り方も気になるけど」

「天ぷら衣を作るときに水じゃなくて炭酸水を使ったんだよ。そうすると衣がカラッと揚がるし、一気に揚げられるから身もふっくらしたままなんだ」


 この天ぷらの揚げ方を聞かれて別に隠してるわけでも怪しいことをしているわけでもないからわかりやすく教えた。と言っても特に変わったことはしていないんだけどね。

 俺の話を聞いたグループメンバーが、特に女子が感心していた。


「悠真くんって料理得意なんだね」

「一人暮らしで自炊してるからね」

「どうしよう私より料理上手なんだけど。これでも私料理研究部に入ってるんだけどな」

「なあ、また俺に料理作ってくれないか?」

「あ、ずるい。私も食べたい」

「そうだぞ小栗おぐり、僕も食べたいに決まってるだろ」


 なんだか俺が蚊帳の外になった状態で俺のことで盛り上がっている。別に料理を作るのは良いんだけど家に呼ぶのは気が引ける。嫌では無いのだが少し抵抗がある。


「気が向いたらな。それより冷めないうちに今出してる料理を食べようぜ」

「それもそうだな。冷めても美味いだろうけどやっぱり出来立てだよな。って流星りゅうせい、一人で黙々と食べるなよ」

「ハッ、美味しくてつい」


 なんか会話にあんまり入ってこないなって思っていた木下きのしたは黙々と俺の料理を食べていた。そこまで美味しそうに食べているのを見ているとなんだか癒やされてくる。


「そういやみんなってなんの部活入ってるんだ?ちなみに俺はバスケ部」

「私はさっきも言ったけど料理研究部だよ」

「僕はテニス部だね」

「僕は科学部だよ」

「私はバレー部だよ」

「私は帰宅部ですね」

「あ、私も」

「俺も帰宅部だな」


 どうやら俺と美由みゆ、美月さんの三人以外は部活に所属していたらしい。部活に所属している生徒が学年全体の半分より少し多いので割合としてはあっている。


「私も部活入ろっかな」

「じゃあ美由ちゃんも料理研究部に入らない?」

「今から入っても大丈夫なの?なんか気まずくなりそうだからね」

「大丈夫大丈夫。私含めて四人しかいない部活だからむしろ大歓迎だよ」

「じゃあ考えてみる」


 美由は割と部活に入ることに乗り気なのかもしれない。一人暮らしだと放課後にやることが多くて部活に入る余裕があんまりないから俺は部活に入ることは恐らく無いだろう。


「私としては悠真くんにも入って欲しいんだけどね。今日の料理も美味しかったし教えてもらいたいんだ」

「うん、でも一人暮らしだし部活はちょっと厳しいんだよね」

「まじかよ、俺も高橋のことバスケ部に勧誘しようとしてたのに」


 そう小栗に言われた瞬間、全身の血の気が引いた。頭の中が真っ白になり喉から上手く声が出ない。気がついたら机に勢いよく手をついて立ち上がっていた。


「ど、どうしたんだ」

「あ、ごめん」

「いや、俺こそごめん。中学校の頃強豪のスタメンだったって聞いたからつい」

「あ、そのことか。みんなもごめん。さ、食べよっか」


 小栗は何も悪くはない。ただ俺が過去を振り切れていないだけだ。俺の中にはが深く傷として残っている。バスケットボールは中学の頃に熱中していたことなので思い出してしまったのだろう。

 そのあとの食事のことは覚えていない。ただ、さっきまでの盛り上がりもなかったことだけはかすかに感じていた。場の雰囲気は落ち込んだまま解散した。俺はまだ立ち直れていなかった。


「どうしたの美月ちゃん」

「いえ、なんでもありません。行きましょうか」


 だからなのか、去りゆく俺を不安そうな目で見つめる美月さんには気が付かなかった。

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