第43話 林間学校
「お前ら体調は大丈夫か。点呼を取られたやつからバスに乗れ」
美月さんと出掛けた日から日が経ち、林間学校の日がやってきた。座学よりは嬉しいが、少し憂鬱だ。
「
「「はい」」
「よし、さっさとバスに乗れ」
やっぱり小林先生は優秀だ。ちゃんとやる気を出していたらという条件付きだが。
「ちょっと待て高橋、なんか失礼なこと考えてないか」
ギクッ。この人勘も鋭いから怖いんだよな。上手くはぐらかしながら俺は席に座った。俺がバス酔いする可能性があったので窓側、建一が通路側に座る。
窓の外を見てみると隣のクラスのバスが見える。そこに、美月さんがいて目があって、こちらを見て微笑んだ。そんな顔を見て頬が熱くなり、いたたまれない感情から俺は顔を逸らした。
「やっぱり
「だから何回言わせるんだよ。あれはデートなんかじゃないって」
あの日の夜、健一が俺の家を訪ねてきてひたすら問い詰められた。最初は誤魔化していたのだが、助言されたことで脅されて話すしかなくなってしまった。
その助言も後半の方には役に立ってはなかったが、ベースとしては健一の案だったので断るわけにもいかなかった。
「てか、その流れって結構脈アリっぽい反応だけど実際どうだったんだ?」
「正直俺には分かんない。ただ、楽しそうに買い物出来たよ」
最初の方は空回りしてしまっていた買い物だが、結果的には楽しんでもらえたと思う。最後の映画の内容は微妙だったが。
全員の点呼と乗り込みが終わりバスが出発した。向かうのは学校から二時間ほどの位置にある合宿施設だ。二時間のバス移動の間、俺と健一はぐっすりと眠っていた。最初の方は他愛もない話をしていたのだが、朝が早かったこともあり眠りについた。
目が覚めると目的地である合宿施設が目の前にあった。寝起きではっきりと開かない目で確認した後、小林先生の合図を受け荷物をまとめてバスを降りた。
「荷物を部屋に置いた後に野外活動を始める。各自事前に決められたグループごとに集まりこの場所に集合すること。もし、遅れるやつが一人でもいた場合、連帯責任でそのグループは我々教師陣とこの林間学校中一緒に行動してもらうことになるからな。こんなのわたしたちにとっても罰みたいなものだから頼むから遅れないで来てくれ」
「小林先生、言い方言い方」
全クラスが集合し、学年全員に向けて今後の動きについて説明していた。途中からなんだかいつもの小林先生に戻って愚痴っていた。他の先生に止められてたし、他のクラスの人達からしたら新鮮だったんだろう。口が開いて閉まらなくなっていた。
全員合宿所の中に入り、荷物を置いて同じ場所に戻ってきた。ちなみに誰も遅れては来なかった。
「よし、これから野外活動を始める。説明は面倒くさいししないからな。分かんなくなったら知ってるやつに聞くかしてくれ。解散!」
小林先生の合図の後、ほとんどすべての生徒が森の中に入っていった。俺たちのグループは男女混合のグループを二つ作り二手に分かれることにした。
俺と
俺たちは川に向かい魚を取りに向かい、美由たちは山に入り山菜を取りにいった。なんでこんな役割になっているかというと
「なあ
「大体何でも大丈夫だぞ。処理の仕方は大体覚えてるし」
「へーすごいね高橋くん。私たち高橋くんがいなかったらどうなってたことか」
「ほんとに助かったよな」
今回の料理の大部分を任されているのは俺だ。昔から釣りに行ってその魚を料理にしたり、近くに山があったので近所の方がおすそ分けしてくれた山菜で料理していたりしたので俺が任されることになったのだ。俺の他にも料理が出来る人はいたのだがやっぱり一人暮らしで自炊している俺が一番料理が出来るらしい。
ただ、この前の顔合わせのときに
『料理なら悠真の料理で良いんじゃない?この前食べたやつも美味しかったし』
なんて言った美由のことを許したわけではない。あの一言のせいで断れない雰囲気が出来てしまったのだ。そのときに目を輝かせてた美月さんも同罪だと思うが美月さんの場合やる気に変換されるので不問としよう。
「魚は何でもいいが人数も多いしたくさん取ってくれると助かる」
「分かった。この魚は内蔵とか取り出したら塩でも振って焼くのか?」
「その調理もしようと思ってるが一種類だとつまんないだろ?だから色々考えてるよ」
そんなことを小栗と話していると少し離れた位置にいる朝凪さんと美月さんが楽しそうな声をだしながら魚を素手でつかもうとしていた。ただ、当然だが魚の方が動きが速い。そんな魚を無理に捕まえようとした朝凪さんがバランスを崩した。
「危ない!!」
そう叫んですぐに俺は二人の場所にとんでいった。間一髪で支えることが出来た。ただ、川なので足元は岩の集まりで出来ている。支えたはずの俺がバランスを崩してしまった。
バシャーン
そんな音を立てて大きな水しぶきが上がった。
「な、なんだ?」
「誰かがコケたらしい」
「それって大丈夫なのか?」
「高橋くん!?」
「悠真さん!?」
「おい高橋大丈夫か!?」
「ああ、服が濡れただけだ」
幸いにも怪我は無かったが服がずぶ濡れになってしまった。伸ばしていた前髪も水を含んで張り付いてしまい前が見えなくなってしまったのでかき上げた。そして心配してくれた三人の方を向いた。
「ごめん心配かけて。怪我もしてないしもう服が濡れる心配もないし俺に任せてよ」
そう言って笑い話に変えようとしたのだが、女性陣はぽかんとしたまま返事がない。小栗に関しては「いや、え、まじか」なんて言っていた。
その後、持ってきたバケツいっぱいの魚を取って集合場所に戻った。ちなみに服を濡れる恐れがなくなった俺が一番捕まえたことは当然のことだった。
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