第41話 映画

「映画ですか?」

「はい、今観たい映画がやっていて美月みつきさんが良ければ一緒にと思いまして。それに、ただ買い物して解散するっていうのもなんだか味気ないですし」


 ちょうど最近流行りのモデルが出ていて、主題歌も建一けんいちの好きなアーティストが歌っているらしく熱弁された。だから俺の好きな作品というわけでは無い。

 内容の予習も観た人の感想も確認していない。だからこそ美月さんと同じく新鮮なリアクションが取れるだろう。


「あ、この人って今人気の高校生女優さんじゃないですか」

「そうなんですか」

「はい、クラスのみんなとお話してたんですよ」


 そう言われ、俺はスマホを取り出し調べた。

 倉ノ内くらのうち 美咲みさき 16歳 4月17日生まれ

 プロフィール欄にはクールな写真と一緒にこのプロフィールが書かれていた。


「同じ高校一年生なんですね」

「そうなんです。この前まで天才中学生役者ってテレビで騒がれていましたから」


 その話は俺も聞いたことがある。中学の頃に芸能界に興味があるやつとからな。今は連絡を取っていないが。

 自分たちと同い年の人の演技がどんなものなのかも気になってきた。


「じゃあ、この映画観ませんか?ちょうど30分後に上映開始らしいので」

「そうですね」


 俺たちは席を取ろうとしたのだが、ここで一つの問題が発生した。二人並んで座れる席が無かったのだ。主演が人気なことや最近上映が始まったことで混んでいたのだ。一応座れる席はあったのだが、


「カップルシート・・・」

「でも、それしか無いんですよね。悠真ゆうまさんと観れるなら私はカップルシートでもいいですよ」

「でも・・・」

「それに、今日のお出かけはデ、デートなんですから」


 デート、美月さんからその言葉が出てきて固まった。どうやら俺の思い上がりでは無かったのかもしれない。

 カップルシートは二席繋がっているソファーみたいな席で、必然的に普通の席より近くなる。いや、触れてしまう可能性のほうが高い。


「じゃあ、行きましょうか。あ、ちょっと待っててください」

「はい、いいですけど?」


 俺は美月さんにそう言い残して人の後ろに並んだ。そしてポップコーンとドリンクを持って戻った。


「はい、これ美月さんの分」

「あ、いくらでしたか?」

「いいの、この映画に誘ったの俺だし。それに、俺も男だから少しはカッコつけさせてよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 美月さんが無理にでもお金を払おうとしてきたので少し強引に断った。すぐに美月さんも引いてくれたので助かった。てか、さっきのセリフ、キザすぎて気持ち悪がられてないといいけど。

 さっきチケットの取ったシアターに入り、予定の席に向かった。カップルシートに着き、改めて確認すると二つ目の問題が発生した。予想していたものより横幅が狭かったのだ。普通に座ったら絶対に肩が触れ合うくらいには。

 だから俺は右側に座り、できるだけ触れないように端に寄って座った。


「あの、悠真さん?何してるんですか?」

「いや、ぶつかってしまうから寄ってるだけで」

「そんなことしないでください。気にしなくていいですから」

「で、でも・・・」

「確かに緊張しないわけでは無いですが、嫌だということは絶対に無いので大丈夫です」


 座った後の俺の行動が不審だったのか美月さんに声をかけられた。理由を離すと冷静に否定された。たしかに隣の人が窮屈そうに座っていたら気が気じゃないだろう。

 そして俺たちはソファーに座り、映画の上映をまった。

 映画の上映が開始した。映画の後半にはラブシーンもあり、そのタイミングで手が触れ合い、お互いに見つめ合うような恋愛マンガとかでよくあるシーンみたいなことが起こる・・・ことはなかった。

 俺たちは映画を見た後、何も言わずに席を立ち、カフェエリアに向かった。そして一言、


「「微妙だった」ですね」


 そう、微妙だったのだ。事前リサーチをしていなかったがゆえのミスだ。

 作品の内容が悪かった訳でも演出が悪かった訳でもない。演技が下手だったのだ。それも素人


 が見てもハッキリと分かる程に。


「今人気のモデルとか多く使って、大御所俳優さんとかを使わなかったからこんなふうになったんだな」

「そうですね。あ、でも倉ノ内さんの演技は良かったですよね」

「うん、それも周りが棒読みな演技だったから余計にね」


 倉ノ内さんの演技は良かった。あの人の演技がなければこの映画はもっと悲惨なものだっただろう。それに、どことなく倉ノ内さんにがあった。

 ただ、人気モデルなだけあってファンも多く、満員御礼の会が多くある。ファンは演技など気にしてなく、映画に出演していることが嬉しいのだろう。

 それでも、口コミサイトを見たら分かるがめちゃくちゃに叩かれている。


『見に行って損した』

『金返せ』

『あの演技なら俺でも出来そうだわ』

『オレノコイビトニナッテクレって言った瞬間腹抱えて笑いそうになった』


 こんなレビューがあるなら行かなかった。うん、家に帰ったら健一に教えてやろう。この映画を見たら出演者に幻滅するだけだから止めとけってな。

 俺たちはそのまま映画のことを話したあと、カフェで少しお腹を満たして解散することにした。

 駅に着き、電車に乗った。この電車はちょうど始発の電車だったので二人して座ることが出来た。

 一駅先の駅に着いた時に目の前のドアからご年配の方達が入ってきた。俺は咄嗟に立ち上がり席を譲ろうとした。


「「この席使ってください」」


 同じセリフが聞こえてきたと思い、左側を見てみると美月さんも席を譲ろうとしていた。


「いいのかい?」

「はい、次の駅で降りますから」

「ありがとね。彼氏さんも彼女さんも優しいくて助かったよ」

「いや、俺たちはそんな関係じゃ・・・」

「はい、自慢なんですよ」


 俺たちの関係を否定しようとしたら、美月さんが会話に割って入ってきた。


「そりゃいいね。彼氏さんも彼女さんを大切にするんだよ」

「はい、そうですね」


 そんなことを話していたら目的の駅に着いたので電車から降りた。

 どうやら美月さんのお母さんが駅に迎えが来ているらしく、駅で解散することになった。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「いや、お礼を言うのはこっちだよ。ありがとう、色々買い物に付き合ってくれて」

「いえ。迷惑じゃなかったらでいいのですが、また誘ってもいいですか?」


 また美月さんと二人きり?楽しいが、同時にとても緊張する。だから俺からの返答はこうだ。


「いいですよ」

「ありがとうございます。約束、しましたからね」


 そう言って微笑み、迎えに来ていた車に向かっていった。そんな美月さんの顔を見て改めて思った。さっき美月さんがついた嘘を本物にしようと。

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