第36話 送迎
今、ものすごく気まずい空気が流れている。さっきまで四人で遊んでいたのだが、
「・・・」
お互いに何も言わない静かな空間が出来あがる。急に自分の家で女の子と二人きりになって緊張しない男子はいないだろう。しかも相手は学年一の美女と言われてる美月さんだ。より緊張することに決まっている。
ただ、外も暗くなっているしさっきの健一たちとの会話で何をするかは大体決まっているので困ることは少なかった。
「じゃあ、行こっか」
「え、どこにですか」
「美月さんの家まで送ってくよ。まあ、場所はわからないからそこは案内お願いするようになると思うけど」
「送ってくれるんですか、さっきの会話的に送らないと思っていました」
「最初は送るつもりは無かったよ。でも、美由と逆方向らしいし、外も暗くなっちゃったからね。それに、こんな夜道を美月さんみたいな綺麗な人が一人で歩いてたら何されるかわかんないしね。」
「綺麗...」
美月さんのことを送っていこうとしたら予想外の反応が返ってきた。どうやら、さっきの健一たちとの会話を聞いて勘違いしていたらしい。俺は不自然にならないようにかつ美月さんが気を使わないように理由を説明した。説明した後に綺麗と反芻していたがやっぱり人から容姿を褒められるのは嫌だったのだろうか。
そんなことを考えている間にも時間は過ぎていく。あまり遅くなってしまうと美月さんの家の人も心配してしまうので急がなくてはいけない。もうすぐ梅雨になるとはいえ、夜は肌寒い。俺は部屋に上着を取りに行った。
「じゃあ行こうか」
「はい」
俺と美月さんは家を出て鍵を閉めた。エレベーターを使いエントランスまで降りていく。管理人がこちらを微笑ましそうに見ている。俺たちは小っ恥ずかしくなって足早にマンションを後にした。
大変なことになった。会話が続かない。二人きりになると会話が続かなくなっていた。俺に建一ほどの会話の引き出しがあればこの帰り道も楽しかっただろう。隣を見てみると美月さんもうつむいていた。
このまま沈黙の時間が続いたまま変えるのは気まずいと思っていた、そのタイミングで美月さんが俺に話しかけてきた。
「今日はありがとうございました」
「あ、うん。どういたしまして?」
「今日みたいに皆さんで遊ぶというのが久しぶりだったので。それに、
「そう思ってくれたなら嬉しいです」
美月さんが俺の方に目を輝かせながら近づき話しかけてきた。興奮のあまり美月さんは距離感が分からなくなっていた。触れ合えるくらいには近くなっている。
そう、柔らかい何かが俺にあたっている。いい匂いもするし俺は何も考えられなくなりそうになっていた。俺は自分の中にある理性を総動員してなんとか耐えていた。
「み、美月さん、近いです」
「へ?あ、す、すみません」
「だ、大丈夫ですからそんなに落ち込まないでください」
「すみません」
「それに気をつけてくださいね。俺だから良かったですけど男子のそんなことしたら勘違いされますよ」
「勘違いしてくれてもいいのに」
「ん?なにかいいましたか」
「なんでも無いです。悠真さんって美由さんたちが言ってた通り鈍感なんですね」
え、なに。俺またなにかやらかしたのか。健一にもお前は鈍感だなんて言われてるけど自覚はなかった。ただ、美月さんにまで言われるってことはそうとう鈍感なのだろう。俺としては敏感な方だと思っていたんだがな。
「悠真さんは林間学校の準備は終わりましたか?」
「いや、まだ何も手を付けてないです」
「あと三週間近くありますし大丈夫だとは思います。私、林間学校がすごく楽しみなんですよ」
「なにか理由があるんですか」
「私、天体観測が好きなんです。林間学校のあいだ自然で溢れてるので綺麗に星が見れるんです」
「いいですね。俺も星見てみようかな」
「な、なら一緒に見ませんか。林間学校のときに時間を合わせて」
「美月さんが良ければ」
次の学校行事の林間学校の話をしていた。その話の流れで林間学校の時に一緒に星を見る約束をした。え、これって二人きりで?それとも健一と美由も一緒になのか?分からないが夜に会う約束をした。
そのまま雑談をしながら歩いているともの凄い勢いで車が向かい側から来ていた。
「危ない」
俺は美月さんの手を握って引っ張っていた。冷静になりとんでもないことをしたと理解した。
「ごめんなさい、すぐ離します」
そう言って離そうとしたのだが、美月さんが俺の手を握って離さなかった。
俺たちは美月さんの家につくまで手を離さなかったし、会話もなかった。夜空を見上げると星が綺麗に輝いていた。
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