第35話 二人の秘密

「あーくそ、また負けた」

「でもさ、これって誰の勝ちになるの」


 インディアンポーカーが終わり、健一けんいちが嘆いていた。健一が最後に最下位になっていたのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 ただ、今回の結果はかなり特殊だ。健一の数字は3、美由みゆの数字は7、俺と美月みつきさんの数字が12だったのだ。そう、12が二人いるので勝者も二人いる。


悠真ゆうまと美月さんが二人ともけんくんに何かするか、じゃんけんして勝者を決めてもいいけどね」

「いや、俺が健一に、美月さんが美由に命令したらいいだろ。美由は最下位ではないが勝ったわけじゃないんだから」

「うっ、バレてたか」

「あ、じゃあ、私ずっと美由さんに聞きたかったことがあるんです」


 俺と美由の話を聞いた後に美月さんが目を輝かせながら近づいていった。美月さんがここまで興奮しながら聞きたいことって一体何なのだろう。


「何聞かれるか予想つくけど一応聞いてみるね」

「美由さんの今好きな人って誰なんですか。以前付き合っていた彼氏のことがまだ好きだと聞いていましたので」

「やっぱりそれだよね。ってあれ、私元カレのことまだ好きなのって言ったんだっけ」

「いえ、似たようなことをおっしゃっていたので」

「なんか健一と似てるな。こいつもまだ元カノのことが好きなんだとよ」

「なんで今言うんだよ。事実なんだけどさ」

「なんと、、、」


 美月さんが目を輝かしていた。やっぱり女子はみんな恋バナが好きなんだろうか。


「今でも元カノと会ったり、二人きりででかけたりもしてるけどな」


 え、それ本当に別れてるのか?やってることがカップルのそれと一緒なんだが。まあ、付き合っていたのだからあながち間違いでは無いのだがな。


「まあ、健一の元カノより義妹いもうとの方が気になるけどな」

「え、健一さんって妹がいたんですか!?」

「義理だけどね。しかも同い年だか義妹って感じもしないけどね」

「しかも同じ学校なんだとよ」

「なんと」


 美月さんはこの話にも興味津々だ。俺も気になってるし他にも興味がある人がいる、よし決めた。


「じゃあ俺は健一に義妹が誰なのか聞こうかな。同じ学校にいて俺が会ったことあるならそろそろ知りたいし」

「そうだな、そろそろ教えていいと思ってたしな。悠真達なら言っていいと思うしな」

「じゃあ私とけんくん、同時に答えるってことでいいかな」

「分かった」「それでいいぞ」「はい、大丈夫です」


 返答はバラバラだったが全員肯定だった。それから健一と美由はお互いのことを指差しながら言った。


「こいつ」「けんくんだよ」

「は?」「え?」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!健一と美由が前付き合ってて、今は義理の兄妹ってことなのか?」

「そうだ」

「そうだよ。隠しててごめんね」

「驚きです。でも凄いですね」


 元カップルが義理の兄妹になってしかもクラスメイトってどんな偶然だよ。漫画だったらこれだけで一作品かけるくらい濃い話じゃないか。


「別れたのに義理の兄妹になって気まずくならなかったのか?」

「ん?前に言わなかったか?別に嫌いになったからでも喧嘩したから別れた訳でもないぞ」

「そうそう、義理の兄妹になっちゃったからけんくんのこと元カレとか言ってるだけだし」


 つまり、親が再婚したから親が気まずくならないように付き合ってることを黙ってるから、話に出す時に元カレや元カノと言ってるだけってことか。


「私たちの事情も話したし、今度ダブルデートでもしようよ」

「お、それいいな。おい悠真、早く彼女作れよ」

「俺に言うなよ。俺より美月さんに頼んだ方がいいだろ」


 学校の男子から引く手数多の美月さんと陰キャボッチの俺、どっちが先に恋人が出来るかなんて一目瞭然だろ。


「俺は悠真に言ってるんだ。こうでも言わないとお前彼女とか作ろうとしないだろ」

「作ろうとしないんじゃない、作れないんだ。言ってて悲しくなるからやめてくれよ。美月さんに彼氏作ってもらってダブルデートしてこいよ。天地がひっくりかえっても俺が先に出来ることはないんだからな」

「ふーん、悠真はそう思ってるんだ。でも、そうじゃないって思ってる人がいることも忘れないでね。ほら、美月ちゃんなんて悠真の話全部否定しようとしてるよ」

「み、美由さん!?その言い方じゃ私が嫌な人みたいになるじゃないですか」

「え、じゃあ違うの」

「言い方が悪いって言ってるんです」


 その言い方じゃ俺の事を否定してるのは変わらないんだな。やっぱり他の誰に言われるよりも美月さんに言われる方が胸が痛くなる。


「私は悠真さんいい人だと知っています。だから、そんなに卑下しないでください。それに、私は悠真さんより先に恋人が出来ることはないので」

「ごめん、最後の方声が小さくて聞こえなかったんだけど」

「なんでもありません!」

「あーあ、せっかくいい事言ってたのに聞いてなかったなんて悠真も罪な男だね」

「なんか美由にそう言われるのムカつく。ほら、もう暗くなったし解散しようぜ」


 外を見ると真っ暗な空に星が輝いていた。街灯があるとはいえど外は暗く危ない時間になっていた。


「悠真さんや、こんな暗闇の中家から追い出すんですか」

「流石に家に泊めるわけにはいかないだろ」

「そうじゃなくて、送ってあげなさいって言ってるんですよ」

「そうだぞ悠真、俺は美由を送ってくからお前は美月さんな」

「は?みんなで行けばいいだろ」

「そうですよ、私と悠真さんが二人きりだと緊張しちゃうじゃないですか」


 そうだぞ。美月さんと二人きりなんて緊張するだろ。しかも家に送り届けるなんてシュチュエーションなんだぞ。


「しょうがないでしょ、私と美月ちゃんは方向が違かったんだもん」

「まぁ、これは決定事項だからな。悠真が家に呼んだんだししっかり送ってやれ」


 そう言って美由と健一は先に俺の家を出ていった。俺と美月さんを二人残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る