第14話 感謝状

 土日は家で買っていたラノベの消化に当て、堕落した生活を送った。先週に色々な事があって疲労感が酷かった。

 でも、一番ひどかったのは精神的疲労だ。中学校の頃のトラウマがフラッシュバックして何度も吐き気がした。俺の中にある黒いモヤがだんだん深くなっている気がした。

 月曜の朝、目覚まし時計の音を聞いて起きていた。もちろん今日の目覚めも悪かった。

 食パンをトースターにセットし、目玉焼きを焼いた。俺の朝食は割とこのメニューになることが多い。作っている時間がないからだ。

 制服に着替え、学校指定の鞄を持ち家を出た。

 天気も良く、自転車を漕ぐときに感じる風が心地よい。

 駐輪場に自転車を置き、昇降口に向かって歩いていく。教室に入り自分の机に鞄を置き中身を取り出す。この学校に入学してからの習慣だ。

 いつもはこのまま始業時間まで作業をしながら待つのだが、寝起きも悪く、寝不足気味なので一眠りすることにした。しようとしたのだが、


高橋たかはし、ちょっといいか?」


 教室のドアが開き、担任の小林こばやし先生が入ってきた。


「なんですか」

「この前お前が休んだ時のことで話がある」


 なるほど。それは重要な案件だ。何があったかの報告とかだろう。

 俺は席を立ち、小林先生についていき生徒指導教室へ向かった。


「簡単にまとめると警察から感謝状が届いた。その事で学校でも表彰をしようとした考えている」


 俺が警察から感謝状か。なんというだろう。何も知らない人から見たらいいことなんだろう。でも、俺の中学の頃を知ってる奴は嘲笑うに決まっている。


「学校での表彰は辞めるか?そんなに険しい顔をするくらいだからな」


 俺は自分でも分からないうちに顔が険しくなっていたらしい。意識してその顔を元の顔になおす。


「大したことはしていないので、あまりことを大きくしないでもらえると助かります」


 この言葉は本心であり本心ではない。仮に全校生徒の前で感謝状を渡された場合、きちんとした対応をできる自信が俺にはない。きっと過去がフラッシュバックして平然としていられないだろう。


「それに、関係者の親族がいた場合気まずくなるでしょうから」


 実際に冬城とうじょうさんは関係者だ。俺が表彰された場合気まずいだろう。おれが助けたことを知っているからなおさらだ。


「そうだな。冬城の性格上、表には出さないと思うが何か感じるものがあるだろう」

「小林先生知ってたんですか?冬城さんが関係者であること」

「ああ、これでも教師だからな」


 本当に教師なのか怪しい言動が多い小林先生だが生徒のことはよく見ている。


「それに、冬城なんて名字が珍しいからもしかしてと思って名簿を見てみたんだよ。そうしたら親族の欄にあのおばあさんの名前があったんだ」


 小林先生がちゃんと仕事をしている話を聞いて驚いている自分がいる。この人仕事できるんだ。


「この人仕事できるんだ」

「おい高橋お前がどう思っているのかわかった。覚悟しとけよおまえ」


 なんだか背筋がゾッとした。この人からもの凄い何かを感じるんだがどうしたらいいんだろう。



「感謝状の件は今日の放課後に校長室にいって受け取るように話をつけておこう」

「ありがとうございます」


 俺が嫌がっていることを察して対応を変えてくれたのだろう。やっぱりこの先生には感謝することが多すぎる。


「代わりにと言っては何だが冬城と仲良くしてやってくれ。あいつにとってもだが、お前にとってもいいことだろう」


 この先生も事情を知っている。いや、知られたということが正しいのかもしれない。


「そろそろは吹っ切れいいんじゃないか。お前が思うほど全員が悪人ではないぞ」


 そんなことは知っている。あのときも大半の人は悪人ではない。面白がって乗っかった奴と周りに流された奴が多い。ただ、割り切って生きることが出来ないのが人間だ。


「私からお前へ一つ話しておこう。お前のいまの行動では生活することは出来ても、生きてはいけない。それに、このままいったらお前はもうすぐ壊れるぞ」


 この先生は何を言っているんだろうか。俺には実感がわかない。


「早めに自分ときちんと向き合うんだな。そろそろ始業時間になるし教室に戻るんだな」


 そう言って小林先生は席を立った。俺は来た時と同様に小林先生についてこの部屋を出た。




 俺は怖くて自分と向き合えていない。

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