第13話 夜の会話

「ちょ、ちょっと待て、義妹がいたのか?」

「ああ、そうだけど」


 情報量が多すぎる。健一けんいちには義妹がいて、その義妹が健一の家に来るから俺の家に泊まりに来る。なんで?一緒にいればよくね?


「まぁいろいろあるんだよ。前は用事があるから部屋貸してほしいってって言われたから泊まったけど、今日はちょっと喧嘩中で気まずいから泊めて欲しい」

「何かあったのか?」

「学校で怒らせた」


 え、義妹って同じ学校にいるの?なんなら俺たち一年生だから絶対同級生だよね。てか何して怒らせたんだこいつ。


「まあ、今度なんかの機会に紹介するよ。同級生だからお前が勝手に仲良くなるかもしれないが」

「それはないから安心しろ」


 俺の学校での振る舞いを分かっていながらのこの発言だ。からかってるに違いない。


「つまんねぇの。お前に義妹はやらんとか言ってみたかったのに」

「彼女なんてつくらねぇよ」

「そうだよな、お前は冬城とうじょうさんがいいんだもんな」


 健一の発言に俺は思わず吹き出した。


「ナニイッテンダオマエ」

「なんで片言なんだよ」

「おまえがありえないこと言うからだよ」


 冬城さんと俺が付き合うだって?ないない。天地がひっくり返っても起こるはずがない。


「前も言ったけどおまえは十分優良物件だよ。自己評価下げすぎ。なんでそんなに皮肉になってるのかはわかるから責めないが、もうそろそろ周りの奴らともう一回向かい合ってもいいんじゃないか」


 健一が言うことは正しい。ただ、もう一度同じ目にあった場合俺は立ち直れる気がしない。


「それに、今日の昼休みの時には悠真ゆうまと話したくて冬城さんは来たんだぞ。向こうもおまえのことを憎からず思っているぞ」

「そうなのかもな。でもだからといって好意を持っている訳では無いだろ」


 そうだ。嫌いじゃないからって好きだとは限らない。この関係でいいのだ。多くの人と深く関わる必要はない。三年間モブキャラとしてでも良いし、健一は人気だからその友人ボジションでもいい。目立つこと無く学生の三年間を過ごす予定だ。

 このスタンスを崩すつもりはない。ただ最近考えることがある。好意ってなんだろう。


「まぁ無理に付き合えとは言わないが、周りからの視線を無視するなよ」


 健一は俺の方を見て言う。やっぱり健一の真剣な目には引き込まれるなにかがある。俺はただ言われるのも癪なのでやり返してやることにした。


「お前だって彼女いないじゃねぇかよ」

「ああ、いないな。今はそこまで彼女に興味がない」

「そうですか。彼女より義妹が大事なんですか」

「そうだよ」


 は?なんて言ったこいつ。からかってやろうとしたら想定外の回答が返ってきて空いた口が閉まらないんだが。


「まさかお前がシスコンだったなんて」

「え、違うけど」


 なんなんだこいつ。しかし、よく考えてみたら佐藤さとうなんて名字の女子生徒は同級生にいなかった気がする。


「受験した時はまだ他人だったから名字は別なんだよ。合格した後に変えるのは面倒だったし、急に変わって呼ばれた時に気づけなくなるってことで変えないで高校生活送ることにした」


 だからいないし分からないのか。義妹だから血が繋がってる訳じゃないし顔が似てるとかないから分かんないんだろう。


「まぁ、今度紹介してやるから楽しみにしとけ」

「一応待っとくわ。とりあえず飯食おうぜ」


 お肉もいい感じに焼けたので2人で夕飯を食べ始めた。そのお肉は今まで食べたものの中で一番美味しかった。

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