第11話 教室

 チャイムが鳴ったので俺たちと冬城とうじょうさんは食堂で解散した。


「でも美月みつきちゃんが周りの人達が言うより話しやすかったし、何より可愛かったなぁ」

「それ本人に言ってあげなよ」


 解散して教室に向かう最中に美由みゆが口にした。すぐに仲良くなって下の名前で呼んでたし、美由の距離の詰め方には脱帽するしかなかった。でも、今の俺が同じことをしても嫌がられるだけだろう。改めて美由がコミュニケーション強者だと思い知らされた。


「氷の令嬢だから誰とも関わらないとか、男性のことを毛嫌いしていて男性とは絶対に親しくしないっていう噂も嘘なんだろうな」


 健一けんいちが右から声をかけてきたのだが、不穏な字面しか無いものだった。何その噂。俺はそんな噂を聞いたことがない。自分の情報網の狭さが改めて思い知らされた。

 それにしても、冬城さんが悪く言われてるのが何故か納得行かない。あんなに誰にでも別け隔てなく優しくて、相手のことを考えている彼女が悪く言われることが嫌だと感じてしまう。


「どうせ振られた腹いせに誰かが広めた噂だろう」


 自分でもわかるぐらい不機嫌な声で答えていた。健一と美由も不安そうにこちらを向いてくるが「ごめん、大丈夫」と返した。ふたりともそれ以上は踏み込んで来なかった。

 教室について席につこうとするとクラスメイトに人に囲まれた。


高橋たかはし、なんで冬城さんと仲いいんだ?」

「どうゆうことだ?そこまで仲良くないぞ」

「嘘つくなよ、俺も倉林くらばやしも見たんだよ。お前と佐藤さとうが冬城さんに呼び出されたところを」


 どうやらさっきの廊下での状況を見られていたらしい。正直に話しても良いのだが、冬城さんの個人情報も大きく関わってくるので話しづらい。ただ何も話さないと彼らも納得しないだろう。こうなったら少しになるが、


「俺たちが呼ばれたんじゃないよ。一緒にいた美由が呼ばれたんだよ。な、美由」

「そうそう、私とお昼ごはん食べようって誘われたときに悠真ゆうまとけんくんが一緒にいたから一緒にどうですかって言われたんだよ」

「なんだよ、高橋でも佐藤でも無く紗倉さくらさんだったのか」


 近くに来た由美が話を合わせてくれたので、追求を上手く回避できた。俺たちが呼ばれてないと知ったから興味をなくしたのか、自分の席まで戻っていった。


「ありがとう、助かった」

「大丈夫だよ、私も詳しく話しちゃうのは危険だと思ったしね。それに美月ちゃんとはもう友達だしね」


 由美が話を合してくれていなかったら、もっと大事になっていただろう。やっぱりこのクラスにも冬城さんのファンが居るらしい。彼らの怒りを買うと大変なことになりそうだ。


「じゃあ私も授業始まるし席に戻るね」

「おう」


 そう言って美由が自分の席に戻った数秒後にチャイムが鳴った。それと同時に5時間目の担当の教師が入ってきた。

 ちなみに今日の5時間目の授業は古典だった。昼休みに色々あったせいで疲れていてものすごく眠かったからか、授業の記憶が無いのであった。

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