第12話 突然なる再会と披露

 開幕からテンションMAX状態だった天堂さんも一旦落ち着き、ようやく今日この場に集まる予定の全員が席についた。

 まあ一部参加予定が無かったり、急遽参加することになった人もいるけど細かいことは気にしない。


「それでは改めて、今日はこうして話をする時間を作ってくれてありがとう。祭くんも探索者としての活動で忙しいだろうにこんな急な話になってしまって申し訳なかったね」


「いえいえ、思い立ったが吉日って言いますから。それに探索者の活動と言ってもあくまで趣味レベルでやっていることなので、そんなに忙しいとかは無いので大丈夫です」


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 実際、平日も休日も基本は時間が出来ればダンジョン探索しているだけだし。言うなれば隙間時間に漫画を読むとか、そういう趣味活動に属している。

 そんな事を思っていると、結城さんが天堂さんや鳳月さん、広瀬さんと視線を通わせて全員が立ち上がる。

 何事かと思って目を丸くすると、結城さんたちは深く頭を下げた。


「この度は弊社に所属する配信者、天道カナと鳳月カレンを救ってくれて本当にありがとう。この事務所の代表として深くお礼を申し上げる」


「祭くん、あの時は助けてくれてありがとう」


「祭さん、私とそれからカナの件も含めて本当にありがとうございましたわ」


「マネージャーとして私からもお礼を言わせてください。二人の命を救ってくれて心から感謝いたします」


 4人から出てきたのはどれも感謝の言葉だった。 

 僕は急な事態に動揺しつつも頭を上げるように促す。


「あ、頭を上げてくださいっ! 僕は探索者として困っていた他の探索者を助けただけですから! と言うか、どっちの状況についても二人を助けるってことよりも追い込んでいたモンスターの方に興味があったぐらいなので……本当にそこまで感謝されるようなことじゃないです」


「祭くん、例え君の思惑が違うところにあったとしても結果的に二人の命が助かっているのは事実で、それは紛れもなく君が助けてくれたからなんだ。だからこう言っては変かもしれないが――遠慮なく感謝されてくれ。それだけの事を君はしたんだから」


「……」


 そう言われてしまえば、むしろ固辞する方が失礼になるかもと思ってそれ以上何も言えなかった。その時の結城さんの表情は少し悪戯っぽく笑ったように見えたのが、最近見た誰かと重なった気がした。

 そんな光景を隣で見ていた千歳叔母さんは、僕が二人を助けたのが分かったようで誇らしげな視線を僕に向ける。それで猶のこと恥ずかしくなってしまった僕は、顔を赤くして俯くしかなかった。


「ふむ、やはりこれは大人気間違いなしだな」


「そうですわよね? この顔を配信の中で見せるだけで軽く登録者数1万増は固いですわ」


「あぁ、尊い――」


 ……何か好き放題言ってくれてるようだ。


「こほんっ」


「「っ!!?」」


 そんな風に思っていると、広瀬さんがわざとらしく咳払いをしてみせる。

 すると一瞬前までニヤニヤしていた人達の顔が、鬼教師が教室に入って来たときの生徒のように引き締まった。

 広瀬さん、カッコイイ……僕の救世主は広瀬さんだったか。


「そ、それで今日は配信者についての話を聞きに来たんだったねっ!? カレンから話は聞いているよ!」


「そ、そうですわ! ところで祭さん、配信者になることについては決定だと思ってよろしいのでしょうか? もちろんご両親への説明などには社長を行かせるつもりですけど、そこのところはどうですの?」


「えっと、両親へは昨日家に帰ってから話しました。そしたら、好きにやってみなさいって言われたので問題無いです。というより探索者になってダンジョンに行くことに比べればそれぐらい――って感じでした」


「ああ、なるほど……」


 僕が探索者になるって言った時は、端から否定的では無かったけどそれでも決して前向きな反応では無かった。

 その時に両親の説得に協力してくれたのが、現役で探索者として活動していた千歳叔母さんだった。それもあって変な人だとは思いつつも千歳叔母さんにはとても感謝しているし、とても尊敬できる人だと思っている。


「ただ~し! 私を納得させることが出来なければ認めることは出来ませんけどね!! 可愛い祭ちゃんの保護者として!!保護者として!!!」


 前言、撤回しようかな……


「なるほど。ではやはり資料を準備してきて正解ですわね。現在の配信者業に関してまとめたものと、祭さんがこの事務所に所属することになった場合の諸々に関する資料をお持ちしましたので、こちらをご覧下さい」


 鳳月さんがそう言うと、どこからともなく広瀬さんが資料の束を取り出してドシンッと机に置く。


「それでは説明をしていきますわ」


「臨むところよ!」


 何やら鳳月さんが説明する流れになってるけど、こういうのって社長とか事務系の人がするものなんじゃないの?

 そう思って見ていると、社長の結城さんは広瀬さんと一緒に完全に鳳月さんのサポートに回っていた。鳳月さんが望んだ資料を手元に出したり、説明次項に補足などをペンで書き入れたりしている。

 その甲斐がいしい姿はさながら優秀な秘書のようであった。

 そしてその説明を聞いてもほんの数mmも理解出来ない僕……千歳叔母さんは普通に理解出来ているようで鳳月さんの話にふむふむと相槌を打っている。


「ねえ祭くん、皆が話している間に少し話さない?」

 

 隣に来てそう声をかけてくれたのは天堂さんだった。

 本来なら自分に関する話なんだから僕も聞いているべきなんだろうけど――


「うん、そうしよう」


「やたっ! 私ね、あの日からずっと祭くんとゆっくり話がしたいなって思ってたの!」


 席を外す訳では無いが、千歳叔母さん達がしている話し合いからは完全に離脱して天堂さんと話をすることにした。


「てことはあの時は僕がクラスメイトだってことに気付いてなかったんだ」


「うん、そうなの。悔しいことに私と祭くんって本当に奇跡レベルで予定が合わなかったみたいで、基本私が学校に行く日には祭くんが欠席してたから。むしろ祭くんはよく私のこと分かったね?」


「そりゃあ学校の有名人だし。メディアとかの露出も普通にあるんだから例え学校で見かけなくても顔ぐらいはね」


 何といってもそこらの芸能人よりも知名度のある天堂さんだ。普通に生活していればテレビや雑誌など何かしらで目にする機会が絶対にあるだろう。 

 ……とか言ったけど、正直あの一件よりも前は特に興味も無かったから顔すらふわっと記憶していた程度だった。特に最初に助けに入った時は配信っぽいことをしている人って認識だったし。

 もちろんその後、名前とかを聞いてクラスメイトで配信者の天堂さんだって分かったんだけどさ。


「それを言うなら祭くんも――」


「うん?何か言った?」


「ああ……ううん。何でもないよ!」


「……?」


 何かを言い淀んだような天堂さんだったけど、何でもないっていうなら何でも無いんだろう。

 その後も隣の真剣な話し合いを尻目に色々と話した。そうして話題はお互いがどうして探索者、そして配信者になろうと思ったのかに移った。


「そっか、じゃあ祭くんはモンスター食材の為に探索者になったんだね」


「そう言う天堂さんは色々あったんだね。前にも何かのインタビューで聞いた事あったけど。アイドルになりたかったのに、どうしてダンジョン配信者になったの?」


「う~ん、色々と理由はあるんだけど一番の理由は自分にしかなれないアイドルになる為、かな?」


「自分にしかなれない?」


「うん。私って探索者としての才能がかなり高かったんだ。だからそんな私にしか成れないアイドルになる為にはって考えた時に、やっぱり探索者になろうって思ったんだよね。それにほら、探索者って普通の人よりもずっと身体機能が向上するでしょ? そうすればアイドル一本にした時にも色々と役立ちそうだって思ったのもあったよ」


「なるほど……」


「祭くんはどうして配信者になりたいの?」


「僕は……」


 切っ掛けは鳳月さんと一緒にやった体験配信だった。自分が思っていた以上に楽しくて、それまでよりも配信者への興味を大きくする経験になった。

 それに配信者になればダンジョンの禁止領域へと入れるようになるっていうのも魅力的だった。そうなればこれまでに見る事の出来なかった新しいモンスター食材との出会いもあるかもしれない。それは僕にとって配信者には十分すぎる理由だった。


 でもあの後、鳳月さんとの配信を終えて家に帰ってから考えたんだ。

 折角配信をするんだから、何か見て聞いている人達に伝えることが出来るような配信をするのもいいんじゃないかって。

 そう考えた時にするっと出てきた『伝えたいこと』が、コレだった。


「僕は、モンスター食材の魅力をもっと沢山の人に知ってもらいたいから、かな」


「そっか、うん! 祭くんらしい素敵な理由だと思うよ!」


「ほんと?」


「もちろん本当だよ! ああでも、モンスター食材ってあんまり馴染みが無いからイメージが湧きにくいかも。普通に売ってるのって凄く高いから気軽に手が出せるようなものじゃ無いし」


「あっ、それならモンスター食材、食べてみる?」


「へっ? いま?」


 もしかしたらこんな事もあろうかと!実はすぐにでも調理が出来るように材料も器具も色々と揃えてきたのだ!

 だからやろうと思えばすぐにこの場ですぐにでも調理が始められるのである!


「……まつりくんのてりょうりまつりくんのてりょうりまつりくんのてりょうりまつりくんのてりょうり」


「天堂さん?」


「――祭くんの手料理っ!! 是非とも食べたい!!凄く食べたい!!絶対に食べたい!!!」


「え、は、はい! 任せてください!!」


「おやおや、何やら楽しそうな話をしているね?」


「社長聞いてくださいよ!! 祭くんが噂のモンスター食材を使った料理を作ってくれるんですよ!!!」


 するりと会話に入って来たのは、鳳月さんの秘書をしていたはずの結城さんだった。

 気が付けば結城さんだけじゃなくて、鳳月さんも広瀬さんも千歳叔母さんも僕達の方を見ている。


「本当に!? 祭ちゃんのお料理が食べられるの!?」


「祭さんの料理……出来るのなら是非ともまた食べてみたいですわ」


 食べたことの無い広瀬さんはともかく、モンスター食材を使った料理を振舞ったことのある千歳叔母さんと鳳月さんは期待した眼差しを僕に向けていた。

 加えてまだ食べたことの無い天堂さん、広瀬さん、結城さんも同じような視線で僕を見ている。

 

 これは……やるしかないなっ


「じゃあ折角なので、今僕が持っている最高のモンスター食材を使った料理をご馳走しますね!!」


 よし、気合いを入れないとな!! 

 色んな意味で!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

少々遅くなってしまいすみませんでした(´;ω;`)

そんな訳で、1章の冒頭からようやく祭と奏が落ち着いて話をする時間を取ることが出来ましたぁ。

作者ながらに、若干奏はこのまま消滅していくんじゃないかと心配になったりもしましたが――ゲフンッ、奏はちゃんと主要人物ですので!!

そしてまたしても唐突に始まる様子の祭ズクッキング! さあ前回はガトリングマッシュというキノコを調理しましたが、さて今回はどんなモンスター食材を調理してくれるのか?

次回の更新を是非お楽しみに!!


そんな感じで、また次回の更新でお会いしましょう!(明日はいつも通りの時間に投稿出来るように頑張ります!!)

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