2章 ダンジョン配信者『夏野まつり』、始動

第11話 芸能事務所『リアライブ』

 天道カナや鳳月カレンを始めとした多くの人気タレント、配信者を有する芸能事務所――それが『リアライブ』だ。

 メインとしているのは配信業であるが、中には配信以外で活躍する俳優なども所属しているメキメキと頭角を現している芸能事務所である。

 そんな一般人なら一生縁なく終わるであろう事務所に、祭はやって来ていた……何故か同じく探索者である叔母を連れて。





 鳳月さんと約束した翌日、僕は約束通り鳳月さんたち配信者が所属する事務所のある建物へと来ていた。

 目の前に立つのは何処にでもありそうな普通のビル。何というか芸能事務所のある場所ってもっとこう、スゴイ高層ビルとか豪邸みたいな建物のイメージがあった。まあ僕の勝手なイメージなんだけど。

 だから目の前の建物を見ていると意外だなあ、という感想が出てくる。


「ふ~ん、ここが祭ちゃんを誑かした奴等の本拠地って訳ね?」


「別に誑かされてないよ、叔母さ――じゃなくて姉さん」


「でもでも、こんなに可愛い祭ちゃんを一人で呼び出すなんて何されるか分かんないよ!? もしかすると何やかんや色々やって祭ちゃんを手籠めにするつもりかもしれないじゃん!!?」


「……」


 そんな風に脳内妄想を撒き散らしている人は、僕の母さんの妹、つまり叔母さんである。

 僕にモンスター食材の素晴らしさや探索者としてのイロハを教えてくれた師匠みたいな人もでもあるんだけど……如何せん、僕のことを猫可愛がりするところがある。

 別に嫌という訳じゃないんだけど、暑苦しいというかちょっと鬱陶しいところのある人だ。現に今日だって僕がちょっと芸能事務所に行ってくるなんて言ったら「祭ちゃんが芸能界の毒牙にかかるうぅぅぅぅ!!?」とか言って無理矢理ついてきたぐらいだから。


「祭ちゃん、覚悟はいい? この先にいるのはモンスターより恐ろしい魑魅魍魎たちよ! 一瞬でも気を抜けば食われると思いなさい! むしろダンジョンよりも警戒して望まないとダメよ!!」


 本当に過去に芸能事務所となんかあったんじゃないかってぐらい警戒している。前に一緒にダンジョンに行った時と似たような雰囲気になってるし、冗談じゃなくて本気で警戒しているらしい。

 取り合えず武器を構えそうになっていた叔母さんの両手を拘束しつつビルの中に入る。受付の人に不審そうな顔をされながらも、約束があることを伝えると話が通っていたようで案内が来るから少し待っているようにと言われる。

 この間にも叔母さんはまるで猫のように受付の人や時折通りかかる人にフシャーと威嚇みたいな事をしていた。

 何というか、こっちも恥ずかしくなるから勘弁して欲しいと思った。

 

 数分、そんな身内の恥ずかしい光景に耐えていると僕等を案内してくれる人が到着する。

 やって来たのは初めて会う女性だった。


「初めまして。私、鳳月カレンのマネージャーをしている広瀬と申します。本日は神田さんの案内を任されています。それで、そちらの方は……?」


「祭ちゃんの保護者ですっ!!!!」


「……畏まりました。それでは早速になりますが移動しましょう。既に社長とカレンが待っていますので」


 自信満々に胸を張る叔母さんを若干訝し気な眼で見た後、僕の方に「本当か?」みたいな視線を送った鳳月さんのマネージャー広瀬さん。

 さっきからの挙動不審な様子を見ていれば怪しさ満点だけど、別にアブナイ人では無いので「大丈夫です」と視線で応えれば、すぐに了承して案内してくれた。


 辿り着いたの部屋の前で広瀬さんが振り返り、若干申し訳なさそうな表情になる。


「その、実は神田さんがいらっしゃると聞いて社長とカレンが随分と盛り上がってしまいまして。中でちょっとしたサプライズをご用意しているんです……すみません」


「なんで謝ったんですか?」


「……すみません」


「なんで謝ったんですか!?」


 どうやら扉を開けるのは僕の役目らしい。何か広瀬さんにああ言われると不安でしょうがないんだけど……


「が、ガンバレ祭ちゃん!! 君なら出来るよ!!」


 助けに来てくれたのか応援に来てくれたのか分からない叔母さんは自分が代わりに開けるという発想は無いらしく、脇から応援してくれている。

 ……しょうがないので、開けることにする。そしてドアノブに手をかけて開けた瞬間――


 パンッ! パンッ!


「「祭さん(くん)ようこそ、芸能事務所リアライブへ!!!!」」


 クラッカーが聞こえると、部屋の中では鳳月さんと知らない髭のおじさんが大きく手を広げて身体全体で歓迎を表現するような体勢で待ち構えていた。

 二人の背後に見える部屋の中は、まるで誰かの誕生日会かってぐらいに飾り付けられテーブルの上にかケーキらしきものさえ見える。

 え、もしかして本当に誰かの誕生日だったりするの……? 鳳月さんとか?


「祭ちゃん、スゴイ大歓迎よ! もしかしてこの人達って良い人たちなんじゃない?」


 叔母さんの判断基準が分からない……


「あなた方は本当に……案の定、神田さんが驚いて呆然としてしまってるじゃないですか!! だから歓迎の気持ちもほどほどにとあれほど申しましたのにっ!!」


「で、でもだよ広瀬君。やっぱり芸能事務所たるもの最初のインパクトが大事だと思うんだよ? 印象が薄かったら祭くんを他所の事務所に取られてしまうかもしれないだろ?」


「そうですわ!マネージャー! これぐらいのインパクトが無いと私達の歓迎の気持ちは表現できませんわ! それにこれでもまだ足りないぐらいのところを言われた通りちゃんと自重しましたのよ!……本当はダンス部隊とか演奏部隊とか色々用意したかったですのに」


「……どうしてドン引きされるっていう発想が出てこないんですか?」


「「なぜ??」」


 凄い――ここまでよく分からない勢いに圧倒されるのは人生で初めての経験かもしれない。

 なるほど、これが芸能事務所なんだ……


「神田さん、言っておきますがこれはこの方たちが過剰なだけです。もちろん歓迎の気持ちはありますけど、ここまでぶっ飛んだことをするのは……言いたくありませんがウチの事務所ぐらいです」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 そう言って広瀬さんは髭のおじさんと鳳月さんを睨みつける。

 すると髭のおじさんはビクッと身体を振るわせて蛇に睨まれた蛙のようになったが、鳳月さんの方は自分が何で怒られているのか分からないって顔をしていた。

 これはおじさんの方は確信犯だな……


 取り合えず歓迎の気持ちは伝わって来たので、それに関してはよかった。それに思ってたよりも堅い雰囲気でもなく、面白そうな人達で少し安心もしている。

 部屋に入り一旦腰を落ち着けてから改めて自己紹介を行った。


「では改めて、私がこの事務所の社長を務めている『結城 真史ゆうき なおふみ』だ。こっちはもう知ってるだろうが、うちに所属している配信者の鳳月カレンとそのマネージャーの広瀬くんだ」


「僕は神田祭です。今は家の近くの鷲尾井わしおい高校に通っていて学年は二年です。こっちは僕の保護者としてついてきてくれた叔母です」


「どうも、祭ちゃんの叔母の『八坂 千歳やさか ちさと』です。今日は私の大事な祭ちゃんが、芸能界の毒牙に掛からないように護衛しに来ました!」


 叔母さん……それって、そんなに胸を張って言うことじゃないと思うんだけど。


「というか姉さん、その言い方は失礼なんじゃない?」


「いやいや、むしろそういう所を心配してくれる人が身内にいるっていうのは大事なことだよ。確かに突然、配信者にならないか?明日事務所に来てくれ、という話をされたら怪しいと思うのも無理はないさ」


 社長の結城さんは何でもない風にそう言ってくれる。それを聞いた叔母さんは「ほらね?」みたいな顔で僕にウィンクを一つ送って来た。 

 そういうことじゃ無いんだよなあ……

 前から多少変なところがある人だなとは思っていたけど、やっぱり叔母さんは変な人だと思う。そもそも少し変なところがある人じゃないと、世界中のダンジョンを巡ってモフモフ動物探索記みたいな事をしないだろう。


「それで実は今日ここに祭くんが来ると聞いて、是非同席したいという人がいるんだが構わないだろうか?」


「別に大丈夫ですけど――えっと、誰ですか?」


「君も良く知る人物だよ。じゃあ入って来てもら「祭きゅうううーーーーーん!!!!」――おうか……」


 結城さんが広瀬さんに目配せをしたところで、僕等が入って来た扉がドカンと勢いよく開けられ人影がサササッと入ってくる。

 しかもその人影は狙い違わず僕の方に向かって突っ込んできた。


「はい、そこまで。そう簡単に祭ちゃんにお触り出来ると思わないでね」


「あうっ――ああ、祭くん……」


 いつの間にか移動していた叔母さんが人影の首根っこを掴んで止める。

 捕まった猫のようになって宙ぶらりんになっているのは確かに僕が良く知る人だった。


「天堂さん?」


「そうだよ、祭くん! この前君に助けてもらった天堂奏だよ!」


「同席したい人ってもしかして――」


「ああ、ちょうど検査入院が今日まででね。ついさっき退院してきたばかりなんだが、どうしても君に会いたいと聞かなくてな。という訳で急で申し訳ないが、祭くんにも許可を貰ったことだし同席してもらうことにしたんだよ」


「えっ、退院してすぐって、それ大丈夫なんですか?」


「もちろんっ! 入院といっても本当に外傷も中の損傷も無かったから、経過観察みたいな感じだったんだ。むしろ暇でしょうがなかったぐらいだから、体力は有り余ってるの!……という訳で、会いに来たよ! 祭くんっっ!!」


 話を聞きに来ただけだったはずの芸能事務所で、入院していたクラスメイトに再会した。

 何か前に会ったときとは色々雰囲気が違ってるというか、何かいつの間にか名前呼びになってるんだけど、どうしてだろう?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そんな訳で、新章開幕です!!

ちょっとだけお休みするかどうか迷いましたが、行けるところまで行ってみようと思います! 既にストックは切れているので、日々頑張って書いて投稿していきたいと思います! 改めてよろしくお願いします!


さてさて、開幕と同時に結構登場人物が増えてきましたね。

話だけでは登場していた祭の叔母さんをいつか出したいと思っていたのでここらで登場させることが出来て嬉しい――と思う反面、どうしてこんなキャラになったんだ?と思い返してしまいます……

あと、芸能事務所って何か色々ぶっ飛んでるイメージありませんか? 個人的な勝手な妄想ですみませんけど、何かそんなイメージがあったので多少なりともそんな雰囲気が作品の中でも出ているかもしれません。


では、新しい登場人物と再びの登場を果たした奏ちゃん! そして我らが祭の次なる活躍を是非楽しんでください!

次回の更新をお楽しみに!!


また沢山の方に読んでいただき、反応をしていただき累計PVがいつの間にやら2万PVを突破していました!! 

皆さんありがとうございます!!

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