第8話 【急報】鳳月カレンの配信に例の探索者が現れた件

本日、所用がある為いつもよりちょっとだけ更新時間が早くなっております。

それでは本編をお楽しみください。

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 その日は、ダンジョン配信者『鳳月カレン』の配信は予定されていなかった。しかし時刻が17時を周った頃、突如ゲリラ配信が開始された。


「皆さま、ご機嫌よう。本日は告知無しのゲリラ配信になってしまい申し訳ございませんですわ」


:むしろ歓迎

:ゲリラ配信おつ~

:告知無しなんて珍しいね?

:今日はどないしたん?


「本日は探索者のお仕事で都内に出現したレベル3ダンジョンの内部調査していましたの。そこでちょっと色々ありまして、こうして雑談配信をすることになりましたわ」


 告知無しで行われたのにも関わらず、開始一分程で既に視聴者は三桁を突破してあっという間に四桁に届く勢いだった。

 それだけ配信者としての鳳月カレンが人気であるということだろう。同期に天道カナという探索者として規格外な存在がいる中でも決して有象無象の配信者として埋もれる事はなかった。それこそが鳳月カレンの配信者としての実力の証明である。

 探索者としての実力以外の面、例えば動画映えを意識した撮影や視聴者受けする編集技術などは鳳月カレンの方が遥かに優れているのである。

 何人もの探索者が所属する事務所の中でも、間違いなく天道カナと並んでツートップといえる配信者――それが鳳月カレンなのだ。


「それでこれもまた突然なのですが、実は本日の配信には特別ゲストをお呼びしているんですの」


:ゲスト?

:やっぱり事務所の誰か

:でも今日って元々配信の予定なかったよね?

:てことはゲストも突然決まったのか

:駄目だ、分からん


「ふふ、皆さまも色々考察を巡らせているようですがコメントの中に正解はありませんでしたわ。何せ本日のゲストは、ダンジョンで偶然にも遭遇した探索者様ですから」


:マジで!?

:カレン様に偶然出会うとか裏山

:もしかして配信者ですらない感じ?


「ええ、その通りですわ。、配信者ではない方なんですの。私の方から配信に誘ったら快諾してくださいましたわ! という訳でそろそろご紹介いたしましょう――では、こちらに来てくださいまし!」


 カレンが少し声を張って呼びかけると画面外で何かが動く音がする。

 そしてゆっくりとカメラの画角に1人の人物が入ってくる。


:ん?

:ん??

:ん???

:あれ……?

:この人……


 カレンは祭が画面内に映ったと同時に予想通りの混乱を見せ始めたコメント欄を見てニヤリと笑う。


「ご紹介いたしますわ。本日のゲストは……先日、私の仲間であるカナの窮地を救って下さった謎の探索者こと『お祭り仮面』さんですわ!!」


「あ、どうも……」


 そう答えた祭の声は死んでいた。そして恐らくは仮面に隠されたその表情も死んでいた。きっと何もかもを諦めた諦観者のような目をしていることだろう。

 しかし祭のそんな状態に反してコメント欄はお祭り状態であった。


:wwwwwwwwwwwww

:なんでやねんwwwwwwww

:どうしてwwこうなったww

:カレン様絶対に遊んでるやんww

:やっぱりそうだったか!!?

:どこかで見たことある気がしたんだがマジか

:にしてもこれは酷いwwww

:あ~、カレン様の被害者が……

:マジでご本人様登場かよ!?


 などなどコメントが滝のように流れていく。

 流れていくコメントの殆どが今話題の謎の探索者の出現に対するものと、そして現れた本人の状態に対するものだった。

 特に祭の今の状態に関するコメントには基本的に「ww」が付けられており、これを見ている視聴者の大半が面白がっているのが分かる。


 それもそのはず。

 今の祭はカレンから身バレ防止で渡された仮面を付けている以外は特に何かを変えた部分は無い。

 だがその仮面が一際異彩を放っているのである。

 それを一言で表すのであれば『馬』だ……だから正確には仮面ではなくマスクと言うべきだろう。

 よく何かの動画や学生のおふざけに使われるようなあの妙にリアリティのある馬面のマスク。しかもそれが何故かシマウマのように、だが紅白に彩られ何ともお目出度い雰囲気というか滑稽さを生み出している。

 あとチャームポイントなのか頭に鉢巻きを巻いていたが、もはやそんなものは紅白馬面のインパクトの前ではあって無きが如しだった。


 数分前――


「あの鳳月さん。僕、本当にコレを付けて配信に出るんですか……?」


「ええ、そうですわよ! ちょうど持っていて良かったですわ~!」


「マジですか……」

 

 「何でこんな色物をちょうど良く持っているんだ!?」とか「これ付けて配信とか正気か? 配信者ってヤバい……」などと内心では思いながらもそれをぐっと飲み込む。

 そのマスクを見た瞬間、祭のテンションは急降下したが何故か逆にカレンのテンションはうなぎ上りだった。曰く「可愛い」らしい。


 祭は本気でカレンの感性を疑った。


 しかし一度やると言った以上、ここでやっぱり止めると言い出すことが出来ず……結局、祭はそのマスクを被って配信に出ることになったのだ。

 なってしまったのだった……ちなみに『お祭り仮面』という芸名?もカレンが名付けたものである。

 祭はそれを聞いた時もはや何も言わなかった。

 諦めたとも言う。


 そしてマスクを被って現れた祭に視線を向けカレンはうんうんと何度も頷く。それはまるで自分の作品の出来の良さを実感している職人のような姿だった。


「やっぱりいい感じですわね! 先日収納袋の中身を整理してしまったので何時もより種類が少なかったのですが似合うものが残っていて良かったですわ!!」


「似合う……あ、はい。ありがとうございます」


:カレン様の趣味爆発

:この人は何でこんな色物趣味持ってんのかなあ

:これさえなければ完璧お嬢様なのになあ

:でも、これがいい

:むしろこれなくしてカレン様とは言えないまである

:おい、ゲスト声死んでるぞww

:そりゃ(突然あんなマスク被せられたら)そうだろ

 

 祭は流れるコメントに目を通しこれが悪ふざけでも何でもなくカレンの通常モードであることを理解して、更に鳳月カレンという配信者に戦慄した。


「という訳で本日はこのお祭り仮面さんをお招きしても雑談配信になります。皆様もこの方に聞きたい事が色々あるかと思いますのでどんどん質問してくださいまし。お祭り仮面さん直々に答えてくださいますわ!」


「わお、急な無茶ぶりだあ」


「仕方ありませんわ。今世間はお祭り仮面さんのことを少しでも知りたがっているのですから。もちろん答えられない質問には答えなくても構いませんわ。それでは時間の都合上30分程度になるかと思いますが、皆さまお付き合いくださいまし」


 そうして始まった鳳月カレンとお祭り仮面こと神田祭の質問箱兼雑談配信が始まった。

 コメントにはもちろん今最もホットな人物と言っても過言ではない祭への質問などが溢れかえっていた。それに比例するように視聴者もどんどん増えていき、あっと言う間に1万人を突破する。


「ではまず『どうしてこの配信をすることになったのか?』から答えていきましょう。と言っても経緯自体はシンプルですわね。私がモンスターに苦戦して危なかったところに、通りかかったお祭り仮面さんが助けに来てくださったのが切っ掛けでしたわ」


「ガトリングマッシュっていうモンスター何ですけど、十体以上の群れに鳳月さんが襲われていたんです。それで悲鳴を聞いて駆けつけた感じです」


:ガトリングマッシュの群れか

:確かにそりゃあカレン様でも苦戦するわ

:あいつら群れると本当にめんどくさい!!

:お、経験者もおるみたいやな。確かにあれはマジでヤバい。群れると本当に絶え間なくガトリングしてくるから逃げ出す隙が無くなる

:ていうかお祭り仮面二日連続で人助けか

:持ってんな~


「あの弾幕は本当に厄介でしたわ。私もあのまま助けが無ければ一か八かの脱出を試みていたでしょうし本当にお祭り仮面さんには感謝ですわ。ああ、それでその後少し話して折角ですから私の配信に出てみませんか?とお願いした感じですわね」


「まあ、興味が無い訳では無かったので」


:おっ、お祭り仮面も配信者デビューか!?

:マジで!?

:登録するからチャンネルのURLをっ!

:まさかのチャンネル開設宣伝配信だった!?

:馬面と一緒にデビューしますか?


「残念ながらそういう訳ではありませんわ。まあそれはともかくとして、次の質問に行ってみましょう!」


 そうして祭はゲストよろしくカレンがコメントからピックアップした質問に答えていく感じで配信は進行された。

 その都度カレンと祭の雑談を挟みつつ終始和やかというか賑やかに進んでいく。

 そしてそんな雰囲気もあってか祭も次第に緊張が解れていき、普段のような感じで喋ることが出来るようになっていた。

 これは何よりもカレンの配信者としての話術と、そしてカレンの配信を見に来ている視聴者たちの民度の良さのお陰だろう。特に変な輩が湧くことも無く順調に進んだゲリラ配信は、あっと言う間に予定されていた終了時間に近づいていった。


「――と、話していると時間はあっという間ですわね。もう終わりの時間が近づいて来てますわ」


「あ、ホントですね。何か僕もいつの間にか楽しんでました」


「それは良かったですわ! 視聴者の皆さん、皆さまのお陰もあってお祭り仮面さんに配信者に対するいいイメージを植え付けることが出来ましたわ。もしかすると皆さまのお陰でお祭り仮面さんが配信者としてデビューするかもしれませんわね!」


「勝手なこと言わないで下さい。確かに楽しかったですけど、別に配信者になるとは決めてませんからっ!」


:なってもええんよ?

:そうそう俺らは歓迎するで

:拳で

:それは歓迎じゃない、抵抗だろ

:こっちこそ楽しかったぞ~

:色々話聞けてよかった

:う~ん、時間が足りない。もっとお祭り仮面ちゃんと話したい

:いやいや、お祭り仮面くんだろう?

:は? ちゃん、だろ?

:お? くん、やろ?

:そんな事で喧嘩すんなやww


「ふむ、視聴者の皆さまも満足して下さったみたいですわね。まあお祭り仮面さんの詳細はもしいつか語れることがあれば話しましょうか。その時は是非またお祭り仮面さんも来てくださいね?」


「か、考えておきます」


「それでは皆さま、今日のところはこの辺で幕引きといたしましょう。よい明日をお送りくださいまし、おつカレンですわ~!」


「お疲れさまでした~」

 

 そうしてこの後、世間を大いに騒がせることになる『お祭り仮面』の初配信参加は終了したのであった。


:《天道カナ》待ってまって!!? そこにあの人いるの!!? ちょっとカレンちゃんー!!!


 配信を切断する直前にそんなコメントが流れたようだったが、当の本人たちはこれに気付くことは無かったようで。

 普通に配信は終了したのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

という訳で、祭とカレンの突発配信のお話でした!

カレン様の意外な?趣味が発覚しましたね~。偶にいますよね? 明らかに可愛くないどころかシュールな見た目をしている物体Xを本心から可愛いって言ってる人って。

私はまだあの領域に至っていないので、そう言う人と話をしている時は完全に宇宙猫状態になっております……

ま、まあカレン様はそれ以外が完璧過ぎるのでちょっとぐらい欠点があった方が親しみがありますよね!?(被害者の祭の気持ちはともかくとして)

これが切っ掛けで配信がトラウマにならないことを願うばかりです……

更にコメント欄でも起こっている祭の性別どっちなんだ問題、真実を知ったとき視聴者たちがどんな反応をするのか楽しみですね~


そんな感じで!こうして配信を体験した祭の内心に何かしらの変化は生じたのか? そして祭は配信者になるのか!?

次回、『祭、配信者になる!』デュエルスタンバイ!(タイトルでも配信者になるって言ってるしいいですよね?)


ではでは、また次回の更新をお楽しみに!


また毎話楽しく読んでいただきありがとうございます!

お陰さまで毎日皆さんからの反応を見るのが楽しみになっております!



 


 

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