第7話 鳳月カレンは気付いてた

本編前に第6話の補足をば。

最後の部分で十数匹のガトリングマッシュを二人で全て食べきったという一文がありましたが、

ちなみにあれの九割は祭が食べてます。カレンは1匹~2匹ぐらいしか食べてないです。というか普通はそれ以上食べられません。(胃の容量的に)

二人とも探索者なので消費したエネルギーの分、結構食べます。それでも常人にしては、とかのレベルでフードファイターレベルじゃないです。

ただ祭に関しては何故か知りませんけど、めっちゃ食べます。探索者になる前からそれなりに食べる方でしたが、なって以降はそれが加速度的に爆発しました。

またガトリングマッシュは体積でいうと2、3歳の子どもぐらいです。(大人の膝丈かそれより低いぐらいの身長)


という訳でちょっとした補足の前書きでした。

それでは本編もお楽しみください!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


 網の上が空くたびに次々と下処理を施したガトリングマッシュをのせて焼いていき、二人とも満足する頃には手持ちにあった全てのガトリングマッシュを食べ終えていた。


「ふぅ~、満足満足ですわ~。まさかガトリングマッシュがこんなに美味しいとは世にも思いませんでしわ」


「実はこのガトリングマッシュって僕の知る限りだとキノコ型モンスターの中で一、二を争うぐらいには美味しいですよね~」


「なるほど。確かに、それも納得の味でしたわ~……」


 僕たちは美味しい物を食べて満腹になったという満足感と幸福感に包まれながら食休みをしていた。


「とてもダンジョンの中で取る食事とは思えないレベルの贅沢でしたわね。まつりさんは、ダンジョンにいる間いつもこうした食事を摂っているんですの?」


「というより、僕がダンジョンを探索する目的が美味しいモンスター食材を探すことなんですよ。だからこうしてダンジョン内で美味しい食事をすることが僕の探索者としての行動理由であり、楽しみなんです」


「そうだったんですのね。以前までなら何を馬鹿なと一蹴していたところでしたが、実際にアレを食べさせられてはむしろ素晴らしい理由だと言う他ありませんわ……それにしても――」


「……?」


 そこで言葉を切った鳳月さんの視線が真っすぐに僕を向ているのが分かった。

 さっきまでの満腹感たっぷりの蕩けたような顔じゃなくて、探索者として行動していた時のような真剣な顔付だった。


を助けてくれた方とこうしてゆっくりお話をする時間が出来て良かったですわ」


「カナ、さん……?」


「ええ、貴女が最近ダンジョンで助けたダンジョン配信者『天道カナ』のことです」


「っ……!?」


 その名前が出た瞬間、僕は思わず息を呑み込んだ。

 確かに昨日ダンジョンで天道さんを助けたのは僕だ。でもその事を知っているのはアイテム効果や口止めもあって、昨日の事件の関係者のみのはず。

 それをどうして鳳月さんが知っているんだ? 

 あ、いや、そうか。鳳月さんが配信者ってことは――


「もしかして鳳月さんて天道カナさんの知り合いなんですか?」


「ええ、同じ事務所で同時期にデビューした同期組ってやつですわ」


 やっぱり、配信者繋がりだったか。しかも事務所まで同じだった。


「……あの時私は遠方のダンジョンで配信を行っておりました。それで視聴者にカナのピンチを教えられて大急ぎで向かったのですが……間に合いませんでしたの」


「ああ、だから昨日見かけなかったんですね。別の同期の人には挨拶したんですけど」


「ええ、それも聞いておりますわ。大切な友人のピンチに駆け付けることも出来ず、ただ配信画面の向こうから見ていることしか出来なかった。あのように悔しい経験は人生初でしたわ……」


 そう言うと眉間に皺を寄せ厳しい表情になる鳳月さん。その手は爪が白くなるほど強く握りしめられプルプルと震えている。

 それは友達を失うという可能性から来た恐怖なのか、それとも間に合わなかったことに対する自分への怒りなのか。

 しかしすぐに全身から力が抜け、優しい眼差しを含んだ視線が僕の方に向く。


「きっと私を含め事務所の誰が向かったとしても、良くてカナと心中が関の山だったでしょう。それぐらいカナと私達の実力には差がありましたから。ですが――そこに貴女が現れてくれた。そしてあの強さにしか目が無いカナが見惚れるほどの力で彼女を救ってくれた」


「……あれは偶然です。偶々あそこを通りかからなければ僕だって助けることは出来ませんでしたし、それに探索者は助け合いですから。だから本当に凄いのは、あの場面で僕という存在を呼び寄せた天道カナさんの方だと思いますよ」


「ふふっ、そうかもしれませんわね。ですがカナは、それに私たちも全員が救われたことも事実ですわ。ですから本当にありがとうございましたわ、祭さん」


 こうして真剣な雰囲気、というか真面目な感じで改めてお礼を言われると何だか気恥ずかしいものがある。

 きっと鳳月さんから見れば、僕の頬は赤く染まっていることだろう。

 あんまり他の探索者と交流の無い僕にとって、こういうことには慣れてないから耐性もないのだ。


「あら、そんな可愛い表情もするんですのね?」


「お、お礼は受け取りました! そ、それじゃあガトリングマッシュも食べたことですし僕等もそろそろ帰りましょう!」


「ちょっとお待ちになって。まだ話は終わっていませんの」


「え……?」


「むしろ本題はこっちだと言っても過言ではありませんわ!!!」


 さっきまでの真剣な表情は何処へやら、鳳月さんは今度は獲物を狙う肉食獣のような目つきになって僕を見る。

 な、なんであんな風に僕を見てるんだ? も、もうガトリングマッシュは無いんだけど……場合によってはもう少しぐらい狩りに行ってもいいけど如何せん時間が足りなくなるかもしれないし。

 昨日に続き今日も遅れて帰るのは夕飯を準備してくれている母さんに悪いし。


 しかし次の瞬間、鳳月さんの口から飛び出したのは僕が想像もしていなかった言葉だった。


「祭さん……貴女、ダンジョン配信者になりませんこと?」


 どんな言葉が飛び出してくるんだろうと内心ドキドキしていたら、鳳月さんが開口一番に言ったのはダンジョン配信者への勧誘の言葉だった。


「先程も申しましたが、祭さんは絶対にダンジョン配信者に向いていると思いますの。配信でも見せたあの圧倒的な強さも魅力的でしたが、何よりこのモンスター食材を使った料理を見て確信しましたわ! 貴女は、ダンジョン配信者として必ず人気を博します! このような逸材を野に埋もれさせておくのはひじょ~に惜しいですわ!!」


 冗談でもなんでもなく、本気で鳳月さんはそう僕に言い切った。

 彼女は本気で僕がダンジョン配信者として成功すると、そう思っているらしい。

 きっとプロとして活動している鳳月さんの見立てだから、大なり小なり僕には見込みがあるのかもしれない。

 でも――


「正直、あんまり気は進みませんね」


 それが僕の偽らざる本音だった。


 でも鳳月さんはそんな言葉ぐらいで引き下がってくれるような潔さは持ち合わせていなかったらしい。

 ならばとばかりに詰め寄ってくる。


「祭さんがダンジョン配信者に感じているデメリットとは何ですの? 私がその不安を見事論破してみせますわ!!」


「えぇ~……じゃあまず、そうですね。第一に自由にダンジョン探索出来なくなりそうって部分ですかね?」


 例えば趣味で記録を残す程度に配信を行っている人ならば、自由にダンジョンを探索してそれをついでに配信にのせるのかもしれない。

 でも僕の場合は趣味でも無ければ、ある種バイトに近い感覚になると思う。ということは視聴者に対してある程度気を遣わなくちゃいけないし、配信の内容だって考えなくちゃいけない。

 そうなった時にこれまでは自由に出来ていたダンジョン探索が制限されるかもしれないと思っている。僕にとってそれは探索者として活動する理由の喪失にも等しい制限だ。

 そう考えれば僕にとってそこまでしてダンジョン配信者をする理由が無いのである。


「ふむ、確かにそういう一面があるのは間違いないですわね。きちんと見ている人間が楽しめるようなエンタメ性も求められますから、ダンジョン内での活動ですら気を遣う必要はあるでしょう」


「やっぱり」


「ですが、中には自分のやりたい事だけを配信して成功している配信者もいますのよ? そういった方々の配信にはありのままの配信者の姿が見たいという視聴者の皆様が集まってきますの。ですから必ずしも……言い方は悪いですが、視聴者に媚びを売った配信をする必要はありませんのよ」


「でも、そういう配信で成功してるのってごく一部の人達ですよね? それにきっとその人達って楽しんで配信をやってるんでしょ?……僕には配信がそこまで面白いものだとは思えないんですよねえ」


「なるほど――では祭さん。少しだけ配信者、体験してみませんこと?」


「……はい?」


 言うが早いか鳳月さんは自分の収納袋からスマホを取り出す。


「普段のダンジョン配信ではドローンを使っているのですが、今はそこまで動く訳じゃないのでスマホで十分ですわね。安心してくださいまし!これでもかなり高性能な機種を使っているので、画質もバッチリですわ! 突発配信になるので視聴者はいつもより少ないかもしれませんが、この鳳月カレンの配信であれば三桁人数ぐらいはすぐに集まりますわ!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? まだ僕、配信するなんて言ってませんよ!?」


「何事も一歩踏み出してみることからですわ! 体験してみてダメそうならきっぱり諦めますし、祭さんも一回経験した方が分かり易いと思いますの! 百聞は一見にしかずってやつですわね!!」


「だからってそんな急に――」


「それに何となく断られそうな雰囲気があったので、強引に始めることにいたしましたわ!」


「確信犯っ!?」


 もはや僕の制止なんて聞かずに着々と準備を進める鳳月さん。

 あっという間に彼女の傍には三脚に取り付けられたスマホと、あの顔を照らすようなタイプの照明が準備されていた。


 今日は配信しない予定だって言ってたのにどうしてこんなに準備がいいの!?


「配信者たるもの、何時いかなる状況でもすぐに配信出来るように準備はしておくものですわ」


「配信者の鑑っ!?」


「褒めすぎですわよ。それで祭さん、デビュー前の顔出しをしてしまっては期待感半減ですので今日はコレを付けて配信に出て下さいまし」


「本当に準備良すぎないですか!? ていうかもう僕が参加するどころか配信者としてデビューすることまで想定してますし!?」


「さあ! 心の準備はよろしくて! 今日は簡単な雑談配信をするだけですので、適当にコメント読んでハイハイ返事をしておけば時間なんてあっという間ですわ!」


「ここまできてそんな適当なアドバイスしかしてくれないの!?――わ、分かった! 一緒に配信するからもうちょっと、もうちょっとだけ準備する時間を頂戴! 心の準備を!」


「……仕方ありませんわね。じゃあ五分後に始めますわよ」


 そうして宣言通り五分後。


 鳳月カレンの突発ゲリラ雑談配信が始まったのだった。

 しかもゲストには今世間で話題になっている天道カナと助けたあの探索者を添えて。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

という訳で始まります祭とカレンの突発配信!!!

一応、本当に嫌なことだったら祭は迷いなく逃げます。身体能力的にも普通に逃げ切れますから。

今日一緒に過ごした仲と言ってもそこら辺は結構ドライ?な人が祭さんなので。

ですので逃げない、ということは内心ほんの少しでも――って感じです。


あと、タイトル詐欺してごめんなさい……

正確には『大人気配信者のクラスメイト(の同期組の同じく大人気お嬢様系ダンジョン配信者)に誘われて~~』って感じですね。

いや、何か書いてたらこうなっちゃったんですよ……

タイミングが良かったというか何と言うか(言い訳)


でもご安心を!! ちゃんと奏の出番もありますから!! 奏が最初だけのキャラになったりすることはありませんから!!


そんな感じで、次回は祭とカレンが行う初配信です!! 果たしてどうなるのか?

では次回更新、明日をお楽しみに!!




あとあと、皆さん沢山の応援並びに反応をありがとうございます!

お陰様で週間ランキングの方でようやく100位圏内に入ることが出来ました!

また週間総合の方はまだまだですが、500位圏内にランクインです!


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