第5話 一度あることは二度あった件(三度目は?)

 声のした方向に走ること数分、その声の主を発見した。

 薄暗くてどんな人かまでは分からないけど、女性探索者が僕がさっきまで戦っていたガトリングマッシュの群れに襲われている様子が見えた。 

 全身を隠せるほどの巨大な盾を構えたその人は、十数匹からなるガトリングマッシュのガトリング攻撃を必死に耐えている。

 しかし盾は軋み腕はもう構えているだけで精一杯な様子でプルプルと震えている。もう暫くもしない内に盾を弾かれてハチの巣にされるだろう。


「ぐうぅぅぅぅっっっっ!!!」


 今言うことじゃないかもしれないけど……僕この階層に来てからガトリングマッシュに遭遇するまで一時間以上歩き回ったんだよね。

 しかもそれでも見つけたのは数匹の群れだけだった。


 物欲センサーってやっぱり本当にあるのかなー……


 とはいえ今はそんなことを考えている場合ではない。

 走る足を止めずにそのまま女性探索者とガトリングマッシュの間に身を躍らせる。今回はさっきのように自分に当たらないからといって避ける訳にはいかない。なにせ背後に人を庇っているんだからね。

 それに何よりさっきみたいな芸当は数匹相手だから出来たことで十匹以上の群れにはキツイものがある。


 だから今回は、魔力を利用する。


 僕は魔法を使うのは普通に才能も無いしどうにも性に合わなかった。どうしても魔力が炎やら水になるやらのイメージが出来なかったんだよね。

 だっておかしいと思わない? どうしてそこらを漂う空気みたいなものが一瞬にして別のものに変わると想像できるのか、むしろ僕としては魔法が使える人の方が不思議でしょうがない。

 でも一方で、『魔力を扱う』ことに関してはその限りではなかったのだ。自分の身に宿る魔力を単純に動かしたり、何か別のものに変化させずに使うだけなら出来たということだ。


 身体の中にある魔力を自分を中心として半球状に広げる。この間、僅か一秒も掛かっていない。

 この魔力操作の速さに関しては僕の密かな自慢だったりする。

 まあ探せば僕よりも魔力操作に長けた人なんて幾らでもいるんだろうけどね。そもそも他の探索者との関わりが薄いから、他がどうかなんてよく知らないんだけど。


 それはそれとして、半球状に展開した魔力は盾の役割を果たしガトリングマッシュの胞子弾を全て受け止めるか受け流すかして僕と背後に庇った女性探索者の身を守ってくれる。


「大丈夫ですか?」


「あ、えっと……」


「驚かせてすみません、かなり危ないように見えたので介入させてもらいました」


「あ、いいえ……ありがとうですわ……」


 今この人「ですわ」って言った……?

 現実でこんなお嬢様言葉を使う人って本当に存在したの!? しかもよく見れば髪型も金髪縦ロール、服装は戦装束バトルドレスでコッテコテのお嬢様装束じゃないか!?


 突然の僕の乱入にさすがに混乱している様子で呆然とこっちを見ている。

 でも、悪いんだけど今はそんなことをしている場合じゃない。


「まだ戦えますか?」


「っ……勿論ですわ! あの程度の攻撃ではこの『鳳月ほうづきカレン』の戦意を挫くなど出来ないと知りなさい!!」


 そう言って高らかに笑い声をあげるお嬢様風探索者の人。

 鳳月カレンと名乗ったけど、何かどこかで聞いたことある気がするんだよねえ。でもそれが何処で聞いたのか全然思い出せない。

 まあ思い出すのは後でもいいだろう。ともかくまずはあのガトリングマッシュの群れを片付けないと。


「カウント5でこの守りを解除します。貴女に右半分をお任せしてもいいですか? 僕は左半分を担当します。もし難しそうであれば全て僕一人で片付けますが……?」


「僕?……あ、いえ、お任せ下さい! さっきは不意をつかれたのと数の多さに防戦一方となってしまいましたが半分程度ならどうということはありません!」


「分かりました。ではカウントします――5、4、3、2、1」


 ゼロ――そう告げた瞬間、僕は魔力の盾を解除する。それと同時に僕と鳳月さんは駆け出した。

 僕はさっきまでよりも更にサイズを絞った魔力盾を展開しながら、鳳月さんは大盾を構えながらガトリングマッシュに迫る。

 

 鳳月さんはさっきまでの苦戦を感じないほどの勢いでガトリングマッシュに接近すると、その勢いのままに群れに向かってシールドバッシュを行う。

 それによって数体のガトリングマッシュを弾き飛ばしながら、盾の裏側から剣を引き抜き大盾を片手に次々と周囲のガトリングマッシュを刈り取っていた。


 この調子なら特にフォローする必要は無さそうだと判断できたので、僕も自分の役割に集中する。

 取り合えず自分が担当する群れの半分は助けた対価として貰うつもりなので、さっきのと合わせて今日のおやつは豪華になりそうな予感♪

 さっきと同じように自分の持つとあるを発動させてから攻撃を加えた。

 

 そうして二人で数分も掛からずにガトリングマッシュの群れを殲滅したのだった。


「通りすがりのお方、この度は大変ありがとうございましたわ! お陰で助かりました!」


「探索者は助け合いですから気にしないで下さい。それよりも身体は大丈夫ですか? 僕が来る前にかなり押し込まれていたみたいですけど」


わたくし、防御だけは得意なのでこれといって怪我などはありませんわ。ですが……少しあの攻撃を受け過ぎてしまったみたいで、腕が痺れてしまっていますわね」


 そう言って腕を上げ下げしたり掌をグーパーしたりするが、確かに見ていると動きに少し違和感がある。ほんの僅かだが指先などが震えてしまい思ったように動かせていない様子だ。


「この調子だと、今日はこれ以上の探索は無理ですわね。大人しく地上に帰るとしますわ」


「そうですか、もしよかったら一緒に地上まで戻りますか? 僕もちょうど地上に戻る途中だったので」


「本当ですの!? それは助かりますわ~! 貴女ほどの腕が立つ探索者に同行していただけるのであればとっても心強いですわっ!」


 そういうことになったので、鳳月さんと連れたって地上を目指すことになった。


「あそうだ、僕が討伐した方のガトリングマッシュって貰ってもいいですか?」


「勿論ですわ。貴女が討伐したものですし、元々私一人では持て余していた相手ですから是非受け取って下さい。そう言えばきちんとお礼もしなくてはいけませんわね」


「別にそんなのいいです。僕の目的もこのガトリングマッシュだったのでコイツ等を貰えれば報酬としては十分ですから」


 許可も貰ったので僕が倒した分のガトリングマッシュ八体を収納する。

 これでさっきのと合わせて十一体、これだけあれば十分だな。


「あら……?」


「ん? どうかしましたか?」


「あ、いえ何でもないですわ。それじゃあ私もドロップアイテムを回収してしまいますわね」


 そうして鳳月さんもガトリングマッシュのドロップアイテムである『キノコの子』を回収して自身の収納袋に入れる。

 ちなみにキノコの子はガトリングマッシュがそのまま普通のキノコサイズに小さくなったもので、モンスターであることや『』以外はガトリングマッシュとほぼ同じだ。

 まあ僕にとってはその味が問題だから、ドロップアイテムにはしたくないんだけどねえ……


 そしてそれぞれ必要なものを回収し終えてその帰り道。

 僕等は歩きながらてきとうに雑談をしていた。鳳月さんの実力的にこのレベル3ダンジョンの中層なら、本来は苦戦する相手の方が少ないはずだ。

 自分でも言っていた通り、さっきのは不意を突かれたのと数に圧倒されてしまったんだろう。

 まったく、ダンジョンはこういう部分があるから怖いんだ。


 そんな風に色々話していると、鳳月さんから驚きの言葉が飛び出した。


「え、鳳月さんてダンジョン配信者なの!?」


「ええ、そうですわ! ダンジョン配信者『鳳月カレン』とは何を隠そう私のことですわ!」


「じゃ、じゃあもしかして今日も配信を……?」


「いえ、今日は新しく出現したダンジョンの調査と配信の下見ですわ。ギルドからの依頼であるこのダンジョンの追加調査があったので受けてみたんですの。そのついでにこのダンジョンが配信に使えるかどうかの下見をしていたのですわ」


「そうだったんだ。探索者としての仕事だけじゃなくて配信の仕事まで、やっぱりダンジョン配信者って大変なんだね」


「そんなことありませんわ。探索者も配信者も私が好きでしていることですから、大変だと思うことはあっても、それが辛いと感じたことはありません! まあスケジュールを詰め込み過ぎたときはアンデッドみたいになりますが、それも人気者の性である嬉しい悲鳴というやつですの!」


 そう言って本当に屈託も無く笑っている鳳月さんを見ていると、本当に楽しんで配信者も探索者もしているんだというのが伝わってくる。

 そういえば天堂さんも確かアイドル志望からダンジョン配信者になって今は充実してるとか言ってたっけ。


「ダンジョン配信ってそんなの楽しいのかな……?」


「あら、もしかしてダンジョン配信に興味がおありですか!?」


「あ、いや――」


「貴女なら必ず配信者として人気が出ると思いますわよ! さっきの戦闘からも窺える探索者としての確かな実力、そしてその天使のような容姿と聞き惚れる声! 絶対!!間違いなく!!配信者として大ウケするとこの鳳月カレンが保証して差し上げます!!」


「いや、だから別に自分がしたいとかじゃなくて単純に興味が湧いてきたってだけで……」


「そうなんですの? でも、配信者になりたいのであれば何時でも私に言ってくださいまし! 貴女ならウチの事務所も大歓迎ですわ!」


「……まあ気が向いたら」


 多分ダンジョンを出たらもう二度と会うことも無いだろうから適当にお茶を濁していく。

 そも僕が配信者に向いているとは到底思えない。あんなに喋るのは得意じゃないし、魅せる動画の撮影とか編集とかそういうのも全く関わりがない人生だったし。


「それはそれとして、そう言えばまだ貴女のお名前を聞いていませんでしたわね。聞いてもよろしくて?」


「ああ、そう言えば名乗ってませんで。遅くなりましたけど、『神田 祭かんだ まつり』です。普通に『まつり』って呼んでください」


「では祭さんと呼ばせていただきますわ。それで祭さんは今日はどうしてガトリングマッシュを狙っていたんですの? ギルドからの依頼かしら?」


「ああ、それはですね」


「……ん? も、申し訳ありませんわ。私ちょっと聞き間違いをしたようです。もう一度仰っていただけますか?」


「え、ああ、はい。食べる為ですね」


「……聞き間違いじゃありませんでしたわぁ」


 あれ、そんなに変なこと言ったかな?


「祭さん正気ですの!? ガトリングマッシュのドロップアイテム『キノコの子』は悪名高いゲテモノですのよ!? 苦い、臭い、不味いと三拍子そろったアレを食べるんですの!?」


「ああ、それは勘違いですよ。さすがに僕もキノコの子は食べないです」


「そ、そうですわよね……」


「はい、食べるのはガトリングマッシュですからね!」


「……??」


 鳳月さんは何を言っているのか分からないという表情で固まってしまった。


「う~ん、これからガトリングマッシュ食べようと思ってたんですけど、鳳月さんも食べてみますか? 絶対美味しいので!」


「……はぃ??」


 よし! 今日は鳳月さんを含めてキノコパーティ―だな!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ようやく、第5話にしてタイトル回収というかグルメっぽい要素を入れることが出来ました……

ちょっと前置きが長かったですかね? グルメ系を期待していた皆さんすみません。

それにタグでも付けているようにわたし自身が食事風景を書くのが得意とか料理をするのが得意とかでもないんですよね(いやだったらなんで書いてるんだって話ですけど)

あっ、でも食べるのは大好きなんですよ!?!?


そんな訳で明日のお話では、いよいよガトリングマッシュを調理して食べちゃいたいと思います!

前述の通りですので温かい目で見てください!よろしくお願いします!


またご報告ですが、

なんと現代ファンタジー枠の週間ランキングで155位にランクインすることが出来ました! 更に日間では34位に入っています!

これも皆さんが沢山応援してくれているお陰です! ありがとうございます!

このまま週間ランキング100位圏内、そして月間、年間、累計でも上位に入ることが出来るように頑張ります!!


では明日の更新をお楽しみに!!

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