第4話 祭の新規ダンジョン開拓
少し面倒なトラブルに巻き込まれた翌日、前日に何があろうが僕は学生で今日は平日だ。普通に学校もあれば授業もあっていつもと変わらぬ学生生活が待っていた。
当校して教室に入れば既に教室には殆どのクラスメイトが揃っていた。
僕はわりと朝に弱い方なので当校してくる時間もホームルームギリギリで、大抵が一番最後に教室に入っていく。例外は遅刻者がいるときだけ。それも頻繁にいる訳じゃないから、まあ基本的には僕が最後かな?
そのまま自分の席に腰を降ろせば隣の席に座っていた友人に声をかけられた。
「おい『
「おはよう。昨日のって?」
「おはよう! お前配信見てなかったのかよ!? 昨日天堂さんがダンジョン配信中に滅茶苦茶ヤバいモンスターと遭遇して危うく命を落とすところだったんだよ!」
「あ~……」
その話か。確かにあの時の天堂さんはトカゲに手酷くやられたのか満身創痍の状態だった。
後で救援に来てくれた人が回復系のスキルを使えなかったら割と命も危なかったかもしれないぐらいには酷い怪我だった……だったのに、何か凄い元気だったんだよなあ。
何か「私の推しっ!!」とか訳わかんないこと言ってくるし、さすがに怖くなって立ち去ろうとしたら「推しがああぁぁぁぁ!!?」とか言って這ってでも追いかけてこようとするし。
さすがにそれは救援に来てくれた仲間らしき人が関節をキメて止めていたけど。
……まさか天堂さんにあんな一面があろうとは思いもしなかった。これまでのイメージが180°ぐらい変わりそうな出来事だった。さすがに他の人には言わないでおこう。
「何だよその反応~、あのクラスのアイドル天堂さんがマジで危なかったんだぜ!?」
「まあ確かにそうだけど、でも実際助かったみたいだし今も入院してるけど命に別状は無いんでしょ?」
「確かにそうだけどさ……それでもクラスどころか学校中が今その話題で持ち切りだぜ?」
懸命な治療の甲斐あって命に別状がないことは昨日の時点で知っていた。
それに今朝のニュースでも入院しているがその後の検査でも特に異常は無かったと報道されていたから大丈夫なはずだ。
ちょっとニュースを見る為に早起きできるぐらには気になっていたから、何事も無かったようで安心したのが今朝の出来事だ。
「それにしてもあの助けに入ったスゲえ探索者は誰だったんだろうな~? 何故か顔だけがモザイクが掛かったみたいに全然見えなかったし」
「……うん、誰だろうね」
――よかった、ちゃんとバレてない。
これまで配信に映るって経験が無かったから上手くいくか少し心配だったけど、ちゃんと効果があるみたいで本当によかった。
あの日、ダンジョンで天堂さんを見かけた時すぐに彼女が配信をしているだろうことは分かった。だから以前に偶然見つけた『電子機器を誤魔化す』力を持ったアイテムを使った。
正直、生配信でも通用するかどうかは賭けの要素もあったけどちゃんと誤魔化せているのが分かって一安心した。
そんな訳で今は天堂さんと同じぐらい話題になっているものの、正体不明が続けばその内その存在も忘れられていくだろう。もちろん僕から言いふらすつもりは無い。
というか言ったとして、天堂さんのファンの反応が怖すぎる。あの時の推しがどうのこうのという会話も全て配信されていた。
もし僕があの時の男だと分かれば下手すると後ろから包丁で刺されるかもしれない。
怖い……鳥肌が立った……
う~ん、それにしても暫くの間は活動を控えた方がいいかなー……
実はネットであの日僕や天堂さんが探索していたレベル5ダンジョンが特定されてしまっているのだ。
それで野次馬根性丸出しの人達があのダンジョン周辺に押しかけているって話をSNSで見かけた。
もしあの場に普段使っている装備で行こうものならネットの優秀?な特定班の人たちにあっという間に僕の存在が素顔と共に知られることになるだろう。
別に僕は有名になりたい訳でも無いし、人気者になりたい訳でもない。
ただ単にダンジョンに行って美味しいモンスターを食べられればそれで満足なんだ。
有名になんかなったら自由にダンジョンに行って食材探しが出来なくなるじゃん!? そんなの御免だ!!
だとすると、一先ずあのダンジョンを探索するのは暫く止めた方がいいな。
まあ、あそこはずっと探索してたし出現するモンスターの情報は粗方調べ終わってる。そろそろ別のダンジョンに移ろうかなと思っていた頃合いだったし、案外ちょうど良かったのかもしれない。
いつもより少しどこか浮ついた雰囲気の学校が終わり放課後、僕は昨日とは別のダンジョンに足を向けていた。
学校にいる間に探索者協会のホームページでいい感じのダンジョンを探していたら、近くに良さげなダンジョンを発見した。
そこは最近出現したばかりのダンジョン。
既に内部調査は行われ、レベルは『3』と定められていた。よって昨日まで探索していたダンジョンに比べるとレベルは落ちる。
ということはダンジョンの難易度も下がるということで、それはつまり出現するモンスターの質も下がることを意味している。
そう考えれば確かに、あのレベル5ダンジョンとはモンスターの美味しさも落ちるように思われるかもしれない。
しかし、だがしかしっっ!!
モンスターの味とは単純に強さと比例するものではないのだ!!
確かにそういう傾向があることも認めざるを得ない。かくいう僕も最初の頃はそういうものだと思っていた時期もあった。
でも気付いた。アリほどの力しかないモンスターでも食べ方や調理方法次第で味という面でだけはゾウに匹敵するのだ、と。
今回、僕がこのダンジョンを選んだ理由もそこにある。
「さて、調べた感じだとそろそろ生息域に入ってると思うんだけど――」
このダンジョンの内部構造は鬱蒼とした森林が広がっている。現実に行ったことは無いけど、樹海という言葉がピッタリだと思う。
差し込む光は薄暗く、辛うじて足元が確認できるが見渡せる範囲は精々が10mかそこら辺だろう。それ以上はとてもじゃないけど見通すことは出来ない。
あちこちからモンスター共の呻き声や鳴き声が聞こえてくる。まあ自分たちのテリトリ-に人間がのこのこやって来れば鴨がネギ背負ってきたと喜んでいることだろう。
僕は自分の背後に積まれたモンスターの死体の山を一瞥する。
樹海に踏み込んだ瞬間に四方八方から襲い掛かって来た奴等だ。次から次へと絶え間なくやって来るものだから、さすがに大変だった。
特にエイプ型のモンスターはそこら辺の石とか枝を投げつけてくるし、それらを組み合わせて簡易武器なんかを作ったりしていた。
やっぱり知能が高いモンスターは多少弱くとも厄介であることに変わりない。というか面倒臭かった。
少ししてモンスターの山はその体積をごっそりと減らす。モンスターは倒してから少しするとドロップアイテムを残して後は消滅してしまうのだ。
この現象を見るたびに本当に勿体ないと思う。けれど今回は食べる為じゃなくて邪魔だから倒しただけなので致し方なし。さすがに僕でもあの量は食べられないからね。
それに今回の狙いは別にいるから、あれでお腹一杯にする訳にはいかないだのだ!
初志貫徹! 狙った獲物にだけ狙いを定める! いわば僕は一流の狩人って所だね。
「う~ん……あっ、いたいた」
そうしてより奥の方へ足を向けてみると、今回の目的であるモンスターと発見した。
少し離れたところでいかにもキノコという形をした僕の膝丈ぐらいのモンスターが二、三匹たむろしてひょこひょこ動いている。
あれが今日このダンジョンに来た目的のモンスター――『ガトリングマッシュ』だ。
「さて、このダンジョンちょっとジメジメして不快度指数高いしとっととアイツ等倒して一旦地上に戻ろう」
本当なら遠距離の攻撃手段があればそれが一番効率が良いんだけど、残念ながら僕はどうも遠距離武器が苦手らしかった。その上、魔法もさほど得意じゃないから自然と戦闘スタイルは近接戦闘にシフトしていった。
茂みから身を乗り出すとかさかさという音が鳴り、ガトリングマッシュが僕の存在に気付く。
するとキノコで言えば柄の部分についている顔の口の部分を窄めると、こっちに向かって何かを吐き出した。
高速で飛来するそれを空中で掴み取って見ると、それは植物の種のように見えた。
なんでキノコなのに種?胞子じゃないの?と疑問に思っていると、その種がほんの少し膨らんだように見えた。
慌ててそれをガトリングマッシュに向けて投げ返すと、それは途中で破裂して辺りに煙のようなものを撒き散らした。
事前に調べたときに見た情報では、ガトリングマッシュはその名の通り胞子が詰まった種のようなものをガトリングガンのように射出してくるらしい。
ということはさっきのがソレだったのか。
「でもガトリングってことは一発じゃ終わらないよね……?」
そう思った直後、その場にいたガトリングマッシュが全ての狙いを僕に定めて胞子弾を連射してきた。
今度はそれを横に飛んで躱すと何かに衝突した瞬間に弾けて中の胞子を辺りに撒き散らす。
「さすがにあの胞子は吸い込みたくない。なんか身体の中からキノコ生えてきそうだし……」
そう考えてこれ以上胞子弾を拡散させない為に一気に距離を詰める。
ようやく自分の間合いに入ったガトリングマッシュをまずは一体殴り倒す。急な接近に一瞬だけ僕の姿を見失った他のガトリングマッシュは胞子弾を吐き出すのを止めてしまった。
その隙に残りの全てのガトリングマッシュを一匹目と同様に片付ける。
時間にすれば一分と掛からず全てのトリングマッシュが地面に転がった。
そう、何を隠そうこのガトリングマッシュはちょっとした工夫を加えることで驚く程に味の質が上がる。それはもはや普通に食べたときと比べて別物なんじゃないかと錯覚するぐらいの差がある。
「よし、目的の素材は確保できたぞ~♪ 後は上層に戻ってじっくり調理――」
その時だった。
「きゃあああぁぁぁっっ!!?」
何処からともなく悲鳴が聞こえてきた。
「……そんな連日トラブルに遭遇するなんてある?」
でも実際に起こってるしなあ。
しかもその後も悲鳴は断続的に続きながら、声自体はこっちに近づいているように聞こえていた。
僕は溜息を吐きながら、積みあがったガトリングマッシュを収納してから声のする方に駆け出した。
せめて今回は配信とかしてない人だといいんだけど。昨日使ったアイテムって使い捨てだからもう無いし。
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早いというか何というか、既に4話になってしまいました!
何か書いている時は延々と悩んで進まないのに、投稿するとなるとあっという間にストックが消費されていくという現実を目の当たりにしています(唖然)
さてさて、皆さん毎話読んでいただきありがとうございます!
総合PV数500突破、フォローも50突破という(私にとっては)偉業を成し遂げることが出来ました!
本当にありがとうございます! 今後とも応援のほどをよろしくお願いします!
ではまた次の更新は明日の今頃、楽しんでいただけるような話をお届け出来るように頑張ります!(^^)/
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