第3話 天堂奏は男の子?と出会う
突然現れた男の子?は更に言葉を続ける。
「いや、だからアイツを譲ってくれませんかって聞いてるんですけど……あの、大丈夫ですか?」
「……はっ!? ご、ごめん。ちょっと頭真っ白になってた」
決死の特攻を仕掛けようとしたところにいきなり乱入者が現れて、更にその人が自分をボコボコにしたモンスターの相手を引き受けると言ってきたのだ。
いや、混乱するなっていう方が無理じゃない?
案の定コメント欄もこんな感じになっていた。
:は? どういうこと?
:自分ならアイツを倒せるってことだろ?
:いやいやそれは無いだろ!?
:カナちゃんが一方的に嬲られたモンスターを相手にするとかマジで何言ってんだ?
:ただのカッコつけだろ
:そんなことより今のうちに逃げろ!!
:そうだぜ! 自分で引き受けるって言ってるんだから今の隙に!!
状況の急変に混乱するコメントが半分、そして残りの半分はあの人にガルガンティアリザードを押し付けて逃げろという類のコメントだった。
選択肢としてはもしかするとそれが一番賢いのかもしれない。私は満身創痍で仮にあの人と共闘するにしても足手纏いになるに違いない。
下手すればこの場にいるだけで邪魔になるかもしれない。
でも……私にそのつもりは毛頭無かった。
「アイツの強さは一戦交えてる私がよく知ってる。だから分かる、アイツはとても一人で倒せるような相手じゃないよ!! 君がどれだけ強いのかは知らないけど、少なくともAランク一人で相手に出来るようなモンスターじゃない!!」
「……確かに。いつものトカゲとは細部がちょっと異なっていますね。アレはもしかすると――特殊個体、でしょうか?」
「と、特殊個体!? ま、まさかっっ!?」
ガルガンティアリザードはレベル5であるこのダンジョンでも強さでいえば上位に位置する存在だ。
もし本当にあのガルガンティアリザードがこの人の言うように特殊個体なんだとしたら、例えSランク探索者であったとしても歯が立たないかもしれない。
「……君は逃げて。そしてレベル5ダンジョンで特殊個体が発生したことをギルドに伝えて、Sランク探索者を招集して貰って! じゃないとアイツには勝てない!!」
「いえ、だから僕が相手をすると「安心して。君が逃げる時間ぐらいは私が全力で稼ぐから……このままアイツを放置しといたら外が大変なことになる。だからお願い!!」――……あれ? 何か話聞いてくれてない?」
特殊個体は文字通り『特殊』なのだ。
まず単純に通常個体に比べて圧倒的に強い。一律に言えることじゃないけどよくギルドでは「3倍は強いと思え」と言われている。なんで3倍を基準としてるのかは知らない。別に赤い訳じゃないのに……
そしてもう一つ、特殊個体の最も厄介と言える特殊性――それは特殊個体はダンジョンに囚われないということ。
通常モンスターは原則としてダンジョンの外に出ることは無い。けれど特殊個体はその原則を破ることができる。
もし、こんな強力な個体が外に出てしまったら周辺地域やそこに住む人々に凄まじい被害が出るだろう。
そんなもの、一探索者としてもアイドルを志す者としても見逃すことは出来ない。
例えここで朽ち果てることになろうとも絶対にアイツだけは外に出させはしないっ。
私は内心でそんな覚悟を固めた。
「あ~……もういいです。兎に角アイツは僕が貰いますね」
「だからっ、さっきから何を言って――」
この期に及んでまだ状況が理解出来ていないのかとイラついた口調で思わず怒鳴りつけようとして振り返ったが……そこの男の子?の姿は無かった。
私は「え?」と思わず呆けてしまったが、次の瞬間ガルガンティアリザードがいる方向から凄まじい衝撃音が聞こえてきた。まるで金属同士を全力で叩きつけ合ったかのような音が衝撃波を伴い駆け抜ける。
足に強引に力を入れて何とかその場で踏ん張る。何事かと慌ててそっちに視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「うそ……」
そこにあったのは拳を振りぬいた状態で立っているあの人の姿と、身体を大きく仰け反らせて後ろに倒れ込もうとしているガルガンティアリザードの姿だった。
恐らく、状況から考えてあの人がガルガンティアリザードの下顎に拳を叩きこんだのだと推測できる。できるけど……そんなこと本当にあり得るの?
あのガルガンティアリザードの巨体を浮かすどころか殴り上げる程の力をただの人間が出せるっていうの……?
「おおっ、さすが特殊個体だけあって普段より固い! 固いってことは強い! 強いってことは――美味い!!」
「……ッッッ!?!?」
「怒ってるとこ悪いけど僕には戦闘を楽しんだり弱い相手を甚振ったりする趣味は無いんだ。だから、さっさと終わらせてもらうよ!!」
私は目の前で繰り広げられる攻防に頭を真っ白にして魅入られていた。いや攻防とすら言えない、アレはあの男の子?の為に用意されたステージだ。
あのガルガンティアリザードだって最早ただあの人を惹き立てる為の舞台装置に過ぎず、この場にあるあらゆる物があの人の為に存在するかのように私の目には映っていた。
ガルガンティアリザードから狂ったように繰り出される攻撃を全て避けてみせる。たったそれだけの行動が、私には一流ダンサーのパフォーマンスに見えた。
……こんなに胸が昂った経験を、私は以前にも一度だけしたことがある。
それはあの日、お父さんについて行った初めてのアイドルのステージ。
あれと同じぐらい、もしかするとあの時以上に私の全身が熱を持ち今にも本当に燃えだしてしまいそうなくらい。
男の子?はガルガンティアリザードの攻撃をすり抜け、その懐に入り込む。それを見た私は……さっきは見ることが出来なかった『攻撃する瞬間』を、今度は絶対に見逃さない為に瞬きも他の全てを意識の外に追い出してその瞬間を目に焼き付けようとしていた。
一閃
私の目では影すら追うことも出来ず、残像すら残さぬ程の速さで振るわれたその拳はもはや閃光と呼ぶに相応しい一撃だった。
狙い違わずガルガンティアリザードを撃ち抜き、その頭部を跡形も残さず消し飛ばす……どれほどに高みに至ればあんな芸当が許されるのか。
「よしっ、おやつ確保~♪ あ、爪とか牙はいらないんでそっちにあげますね~。とは言っても牙は残って無いんですけど。他にも欲しい部位があったら言ってください! ああでも、お肉だけは僕にも下さいね! 一応倒したのは僕なので少しぐらい権利を主張させてください!」
もはやさっきまでの神々しいまでの姿は形を潜め、とても嬉しそうに楽しそうに喋っている。
その視線が私に向けられた瞬間、私はナニカに胸を貫かれたような衝撃を受けた。
「……見つけた」
私はアイドルになりたいと思っている。でもそれだけじゃない。
アイドルという存在そのものが好きなのだ。
だからアイドルという言葉を聞けば西へ東へ、南へ北へ仕事の合間を縫ってでも見に行った。今話題のグループ、地下アイドル、ご当地アイドル、個人の配信活動まで確認するような自他ともに認めるアイドル好き――否、アイドルオタク。
「すみませーん! ここの部位だけは貰ってもいいですかー! ここ滅茶苦茶美味しいんですよ! もちろん三分の一でも……いや半分は貰えると嬉しいです!」
中性的な顔立ちで一見すれば女の子と見間違えてしまうかもしれないぐらい整った容姿をしている。でもそのくせ身長は男子と言われても違和感なく、服の上からでも分かる引き締まった体躯の持ち主。
そして何よりあの人の目を惹き付けて離さないアイドル性――私は見つけてしまったのかもしれない。
「あのっ!!!!!」
「はい? どうかしました?」
「……私の生涯の推しになって貰ってもいいでしょうか!!?」
「……はい?」
あああああ、混乱している顔すらいいぃぃぃぃ!!!
推せるぅぅぅぅぅぅぅ!!!
お父さん、今までアイドルを見ている時のお父さんを気持ち悪いとか言ってゴメンなさい!!
今なら分かる!! 自分の人生をかけて推せる存在に出会ってしまったら顔面が崩壊しようが奇声を上げようが感情のままに雄叫びを上げたくなるその気持ちが!!
「これから末永く推させてください!! よろしくお願いしますぅぅ!!!」
今日、私は人生を賭けてもいい……最推しに出会った。
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キリのいいところで切ったら、少し短くなってしまいました。
構成力不足ですみませんm(__)m
あと分かり難かったらあれなので。
本名:天堂奏
配信者名:天道カナ
配信者としての名前を使う場面以外では基本的に地の文では『天堂』姓の方で書いていきます!
こんな感じでプロローグのような形とさせていただきます。
次話からは主人公視点に戻ります。
それからそれから、皆さん早速のフォローや応援、レビューありがとうございます!!
めちゃくちゃ執筆活動の励みになっています!! 今後とも皆さんが呼んでいて楽しいと思える作品を届ける為に頑張っていくので、よろしくお願いします!!
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