第021話 旅立ち
大城の被害を受けた経営者の中には、黒幕らしき人間もいたらしい。
大城がのちに話したことを全て信じるなら、閉店してしまった店は全て黒幕と繋がりをもっていたらしい。
どうしてそれが分かるのかと聞いいたが、それは答えられないと返されてしまった。
大城の正体を伝えることが出来ずにいた俺達はどうすることも出来ないやるせなさを感じていた。
それと俺達にはもう1つ話し合わなければいけないことがある。
「僕達はこのままでいいのだろうか。」
上野がみんなの食事を遮るようにして話かけた。
「何よ唐突に。今やっと軌道に乗ってきたところなのにどうしたいっての?」
「軌道には乗っているかもしれないけど、この街で僕らが大幅に戦力を強化できることはもう無いと思うんだ。」
これは上野の言っていることが正しい。
この街で買い揃えられる道具や武器、防具には限界がある。
街の森で出るモンスターは種類が少なく、金額も安いので狩った時の旨みを少ない。
「まだワシらは冒険が始まったばかりの駆け出しなんだよ。焦りはいずれ身を滅ぼすことになる。」
「焦りからこんな発言をしている訳ではないですよ。街の酒場で旅をしているという人物に良い話を聞いたんです。」
「アンタ、ガキの癖に酒場なんて行ったの?大城、警察なんでしょ?ちゃんと注意しておきなさい。」
「確かに子供1人で酒場に行くのは危ない。今度からは俺が同行しよう。」
大城のその発言を聞いて少しだけ顔の表情を濁らせる上野。
正体を知ってしまった以上は、何か裏があるのではないかと変な勘繰りをしてしまうのも無理はない。
「で、旅人の話はなんだったんだ?俺達のこの状況を変える良い案があったのか?」
俺はすぐに軌道修正できるように話を振った。
「そうでしたね。それがとある街の話なんですよ。」
「街か。確かに俺がこの街を見た感じは初心者冒険者が多い印象を受けるな。」
「この街は今の僕達の成長の妨げになっています。それで、聞いた話によると武器や道具なんかの戦闘に関するものが高水準かつ多数取り扱いのある街”ティキア”という街があるそうです。」
「ティキアか。それなら俺も聞いたことがあるぞ。かなりの軍事力を持っているという噂がある街で、店に売られている物は、元々その街の軍隊が使用するはずだった武器がなんらかの理由で利用できなくなり、それを再利用する形で店に売られているらしい。」
「なるほどですね。それなら私達の戦力も大幅に強化できそうです。」
今の俺達は稼ぎも少ないので盗賊達から奪った武器をずっと利用している人が多い。
だから、今後の戦闘を見越すと上野の提案は妥当とも思える。
「き、危険性も十分に、か、か、考えらるんじゃないでしょうか。」
小原が珍しく話し合いの場で意見を出す。
しかも、かなり的を得た発言だ。
「危険というのはどういうところでかな?もう少し詳しく。」
上野は今、大城の覚醒で苛立ちと焦り、そして自分もそうなるかもしれない恐怖を感じている。
だから、早く魔王討伐を進めたいのだろうが小原を威圧するのは見過ごせない。
恐らく、小原の意見は十分に考慮しないければいけないことだ。
「ひえっ。・・・。」
上野の言葉に少しの間黙り込んでしまう。
「てぃ、ティキアって本で読んだことがあるけど、欲狩りの森を抜けないといけないです。」
「それはそうだけど、それなら僕達の実力で狩れる魔物ばかりだ。心配することはない。」
「オーガ。まだ出会ってもいないし、倒したこともないだろ?」
小原が何を言いたいのかを大城が細くする。
大城が発言するのが気に入らないのか上野は少し睨む。
上野はあの時以来、大城を敵視しすぎだ。
これではいつトラブルになってもおかしくないだろう。
「それはそうですが、ルートを事前に考慮していれば絶対に出会うことのない魔物です。」
「まぁ、俺も上野の意見には賛成だな。危険が多少あるにしろこの街での成長ははっきり言って少ない。そんな街に長期滞在していてもなんの戦力強化にもならないぞ。」
「それに僕も無鉄砲にこんな発言をしている訳ではないですよ。魔王に関することもその街にあるんです。そもそも魔王を倒すには秘宝と呼ばれる3つのアイテムを持っていないといけないそうです。秘宝の詳細については教えてくれませんでしたが、ティキアにあることは確かです。」
魔王を討伐するために必要な秘宝か。
俺達が魔王討伐が目標である以上、避けては通れないな。
「それなら、どちらにせよ行く必要のある街ということか。出発時期は?」
「3日後の朝です。それまでに、それぞれがこの街でやり残したことがないように準備を済ませておいてください。」
みんな納得してこの会議を終了することになった。
話合いが終わると上野はどこか思い詰めた表情で自室に戻っていくのを見かける。
あの年齢でこのパーティの中心を担っているのだから、最近の出来事で思うところがあるのだろう。
「あ、あの少しだけ相談が。」
そこに来たのは、小原だった。
俺に相談事があるらしいのだが、清水には話にくいことなのだろうか。
「で、話ってなんだ?」
俺達は外のベンチに座って話をする。
今日は夜風が涼しくて過ごしやすい。
「私、強くなりたいです。」
「それは心か?それとも力か?」
「どちらも。」
何かあったのかと俺から聞きたいが自分の口から話をするのを待った。
「今、清水さん悩んでいることがあると思うんです。それを私が聞いてあげられたらいつも恩返しになるかなって思ったんです。でも、清水さんは一言大丈夫だよとだけ。」
「自分が頼りないからそれなったと思ったのか。」
「はい。だから、弱虫な自分とはおさらばしたいんです。」
「弱さもまた強さだぞ。」
「えっ?」
「今日の話合いの時の小原の発言は良かった。慎重な小原だからこそ細かい点にまで注意できたんだろう。それが弱さを知っている強さだ。変わる必要はない。ただ、成長すればいい。」
俺の言葉を静かに聞いている小原。
そして、決意する。
「決めました。この2日間は自分自身を強化するために狩りに出ることにします。そして、自分の弱さとしっかり向き合いたいと思います。」
「怪我だけはするなよ。」
「任せてください!こう見えて丈夫ですから!」
こんなことで悩みが解決したらしく満足そうに自分の部屋に戻っていく。
現状、清水、小原、大城、上野の心はだいぶ変化を伴っている。
前進、悪心、怒り、焦り、悲しみ
それぞれの方向へ向かう感情がいずれ激しく絡み合わないことを願いたい。
俺は試したいことがあるので外に出たまま部屋には戻らない。
そして、1冊の本を取り出した。
この間購入した魔法スキルの本だ。
成功させるのは難しいかもしれないが1つでも魔法スキルは覚えておきたいからな。
本に書いてある通り両手で器を作る。
その真ん中に浮かぶものを想像する。
それは自分の潜在意識から生まれる得意な属性らしい。
真っ先に思いついたのは土をすくっている映像だった。
その次はその思いついたものを量を増やすイメージをすると少しずつ本物が作られてくるらしい。
「おぉー!本当に土ができてる。魔法ってすごいな。結構楽しいぞ。」
溢れんばかりに増えていく魔法の土に興奮を覚える。
「この感覚を忘れないように、次に行かないとな。」
自分の利き手から逆手を揺らすようにして動かすことをイメージする。
それが魔力の循環に繋がるらしい。
「俺以外と要領が良いのかもしれない。もう、激しく揺れてるぞ。」
ここまでくれば、あとは初級の魔法を使うだけらしい。
「【土魔法】”マッドショット”」
手から放てれる土の塊は、そのまま勢いよく飛んでいきある程度すると地面に落下する。
これで俺も魔法スキルをゲットできたらしい。
「この世界だと新しく覚えることが多くて飽きることがないな。今度は何をしようかと常に考えてられる。」
課題は山ほどあるんだ。
少しずつこなしていくことにしよう。
もうすぐ始まる新たな旅立ちに向けて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます