第020話 覚醒者

「行きますよ一ノ瀬さん。」


「あぁ、わかってる。あの2人からは何をしていたか聞き取らないといけないことはな。」


「明らかに2人は調子がおかしいです。今後の依頼でも調子を崩されたら困りますよ。」


食事の後に2人から話を聞こうと上野が誘ってきた。

俺も様子が気になってはいたので着いていくことにしたが、本当のことを喋るだろうか。


もし、俺が同じ状況になったらきっと隠したいことがあるはずだから、本当のことなど言わない。


ここで頼れるのは上野の判断だけだな。


「清水、今から話がしたいんだが時間あるか?」


「私ですか?・・・分かりました。」


一瞬、考えるような仕草を見せたが思い当たる節があったのだろう。

乗り気をいる訳ではないが渋々着いては来るようだ。


ベランダに出ると少し遠回しに聞いてみることにした。


「最近、悩んでいることがあるんじゃないか?」


「・・・。」


その口は堅く閉ざされている。

清水の顔は困惑と躊躇いの混ざった表情だ。


「別に僕達は怒ろうと思って呼び出したのではないですよ。なので、昨日何があったのかをお話しいただけると嬉しいのですが。」


「何も。何もありませんでしたよ。ただ、普通の休日を過ごしていただけです。」


俺達も、そして自分自身も誤魔化すようにして嘘を付いている。

これ以上は埒が明かないのは明白。


本当なら自分の口から話出せるまで待つか、その件に関しては放っておくかがベストだろう。


しかし、多少意地悪な手段を使ってでも話させる方が今は良い。


「昨日、清水は夜遅くまで帰って来ることは無かった。そして、その後みんなで街へ行った時数々の店が閉店していた。単刀直入に聞こう。これまでの事件とは全く無関係なはずの今朝の事件。犯人はお前だろ?」


「それは何を根拠に言っているんですか!酷いですよ仲間を疑ったりして。」


「ギルドに行くまでの道中、お前は閉店している店を見ても何も感じていなさそうだった。まるで、こうなっていることを知っていたかのように。それはギルドについてからもそうだ。俺達の言葉があまり入っていないかっただろ。」


こじつけに過ぎない考察を清水に披露する。

証拠がある訳でもないので、これで話をしてくれるかどうは微妙ではある。


「・・・分かりました。これ以上、仲間として動く上で疑いの目を持たれ続けられるのは好きではないですから。」


俺達があまりにも執拗に疑うので、これは話した方が楽になると思ったのだろう。


それは俺も同意見だ。清水のタイプからしても一生隠し事をできるようなタイプではない。

いつか悩みに押し潰されるのがオチだ。


「・・・。昨日は、廃墟の中で出会った子供達と会っていました。ギルドで一旦預かってもらって明日、エデルという街に行くそうです。その街では多くの行き場のない子供が教会で育てているそうです。」


「廃墟の中でそんなことがあったのか。それはこちら側も全く知らなかったな。」


「それで何故夜までいなかったのですか。子供と会うなら日中でも事足りますよね。」


上野の言う通り、それは日中に何をしていたかの証言であり、夜の情報が足りていない。


「夜までいたのは、夕食をみんなで作ることになったからです。子供達がなにかお礼をしたいというので、それなら思い出作りにみんなでご飯でも作らないかということになり、カレーを作ることになりました。」


なら、子供達やギルドの人から証言がもらえそうだ。

多くに人間が目撃者として存在しているのなら、清水が何かやったと考えるのは難しいな。


それなら今日1日様子がおかしかったのは何故だろうか。


「そんなに微笑ましいことがあったなら普通は嬉しい表情になると思いますけど。」


「その時に私、聞いてしまったんです。大城さんが誰かと話しているのを。」


「誰かって言うのは?そこが1番重要なんだ。思い出してくれ。」


これが本当なら大城が何か良からぬことをした可能性が大きくなる。

それがこちらで出来た友人だと逃げられてしまうが、証言者がいるのでこちらの方が強くでれる。


「話している内容は全部聞こえた訳ではないです。ただ、顔を見て大城さんだと思ったので近づいてみた変なことを言っていたのですぐにその場を立ち去りました。」


「変なこと?それはどんなことかキーワードか教えてくれないかい。」


「『すぐに準備できる。これは大いなる覚醒の一歩だから』と。その言葉を聞いて、大城さんがまともじゃ無くなったと思い逃げ出しました。」


「それ以外は全く何も無かったですか?」


「はい。本当に何も無かったです。ご飯を食べ終わった後はすぐに王宮へ帰って寝ましたから。」


大城が誰かと話していたことは確実になってきでいる。


「貴重な時間と証言ありがとうございました。」


端的に出番が終わったことを告げると、次は大城を呼んでくることにした。


大城はすんなりと俺達の呼びかけに答えてくれる。


「どうして俺は呼ばれたんだ?」


「貴方、昨日の夜何をしていましたか。」


「人に会っていたが?」


俺達が1番気になっている部分を自分から認めてきた。

隠したいようなことではないのか?


「それは誰と?」


「誰か。そうだなー。特定の誰かと言うよりは色んな人とだからな。」


「色んな人っていうのはまさか、今日閉店していた店の人ではないですよね。」


「さぁ?お前はどう思う?」


急に俺に話を振って来る大城。

雰囲気がいつもと違うのは、少し過ごしただけの俺達でも理解できた。


「夜の間に次々と店が閉店していた。昨日のギルドではあいつに騙されたと言っている男を見かけたから、きっと事前に誰かと話していたはずだ。でも、やったと言う証拠はどこにもない。あんたが犯人でも追い詰めることは出来ない。」


「そうか。それは残念だ。出来れば、2人の口から俺が犯人であることを導いてほしかったが。」


「それは貴方がやったということでいいのですか。」


その言葉を聞いた瞬間に、大城の雰囲気は全くの別物に変わる。

真面目そうな雰囲気はどこへ行ったのか。


「フハハハァーー!そうだよ。俺がやったんだぜ。こっちの商売人ってのはバカが多くて助かるぜ。」


「まさか、記憶を取り戻したのか。」


「あぁ、そうだよ。あの廃墟でバルジークという男に初めて会った時。俺の頭の中に衝撃が流れるようにして今までの記憶が蘇ってきたんだ。」


「貴方は一体何者なんですか。」


「改めて自己紹介をしよう。世界を揺るがす”7つの悪魔セブンデビル”と呼ばれたうちの1人。”冷酷な空想家”大城翔太だ。以後、お見知りおきを。」


詐欺。それが大城の犯した犯罪。

それで世界に名が残るほどとはかなりの犯罪をしたのだろう。


「なぜ、自分から認めた。普通なら隠しておくべきじゃないか?」


「隠す?それは何故だ?そんな必要なんてないだろ。お前らも俺と同じ”7つの悪魔”。世界から忌み嫌われる存在。似た者同士、仲良くしていこうぜ。」


「このことを他のメンバーにバラせば確実にいづらくなるぞ。」


「それは脅しか?別に俺はこの世界で生きた方が良いと思ってる。どうせ、戻っても狭い独房に監禁だからな。お前らも早く自分が何者だったか気付いた方がいいぜ。偽善者の振りも疲れるからな。」


7人の中で唯一記憶を取り戻した男。

彼は何を知り、何を思っているのかは本人以外知り得ない。


しかし、野放しにできるような男でないことも確かだ。


「1つだけ。あの街の閉店騒動は大城がやったのか。」


「あぁ。あれはすごく気持ちが良かった。バカな奴らにくだらない幻想が金を生む。どこに行っても変わらないな。」


「何故、そんなことをした。」


「それはいずれ分かるだろうな。あっ、安心っしてくれよ、他のみんなは俺の記憶が戻ったことは知らないだろうからいつも通りに過ごしてやるよ。」


一方的に言いたいことを行ってどこかへ言ってしまう大城。


今度も、今まで通りに接するしかないことは上野も理解しているだろう。


俺もいつか大城のようになってしまうのだろうか。


そんな恐怖心がいつまでも心の中を支配していた。

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