第019話 リトルオーガの実力

道中は嫌という程暑い日差しに照らされて歩くのも面倒だと思えた。


行き道だけで体力が削られてしまうのは、冒険者にとって改善しなければならない課題だ。


それでも文句を言わないのは今から起こる戦いに備えているからだろう。


中級の魔物・リトルオーガ。


井村が持っている魔物に関する本で調べるには、縄張り意識がかなり高く自分のテリトリーに入った人物は見境なく襲っているらしい。


リトルオーガはオーガの幼児個体とされていて、その上位個体であるオーガは中級の中でもトップクラスの危険度に及ぶ。なので、迂闊に奥まで進むのは、初心者にとって命取りとも言える。


「おい。あそこを見ろ。さっきの本に書いてあったのとそっくりだ。あれがリトルオーガじゃないか?」


大城が誰よりも先にリトルオーガの存在に気付く。


「あ、あれがリトルオーガですか?オーガじゃなくて?」


「どう見ても僕らと変わらない背丈に見えるんですけど。」


「あれ本当に倒せるの?今までの魔物とはレベルが違うんですけど。」


俺もリトルと名前につくので小学生くらいの背丈を想像していたのだが、どう見ても成人男性くらいの背丈はある。


それに筋肉がボディビルダーのように仕上がっている。


それじゃあ、毎度恒例の鑑定タイムと行きますか。


名前:リトルオーガ

称号:荒ぶる森の破壊者

スキル:【身体強化】Lv3 【喧嘩】Lv4 【咆哮】Lv1 【棍棒術】Lv4 【痛覚耐性】Lv3


全てにおいて高水準のスキル。

レベルも高ければ、習得しているスキルも魔物と完全にマッチしている。


「気を付けた方がいい。少なくとも近距離戦は厳しい戦いになるだろう。」


「なら、僕達にとっても好都合だね。使える技は遠距離のものばかりだから。あ、でも油断してはいけないのは確かだけど。」


全員が戦闘態勢に入る。いつもよりも緊張感の走る戦場。


上野が上げた手によってそれぞれがスキルを使い一斉攻撃を仕掛ける。


俺も手に持ったポルタガを投げ込む。


色々な攻撃が混じり合い、リトルオーガの周辺は砂埃が舞っている。


数秒間の沈黙とともに砂埃が晴れていく。


グオオオオォォーーーー!!!


しまった!これが【咆哮】か。


聞いてしまった俺達は身体が硬直して動かない。


そして、リトルオーガはこちらが動けなくなっている隙に攻撃を仕掛ける。

狙いは上野か。


身体が動くようになった瞬間にリトルオーガと上野の間に割って入るようにして援護する。


いくら無鉄が頑丈だからと言っても俺自体が力負けしてしまっているのどれだけ時間を稼げるか。


「い、一ノ瀬さん!大丈夫ですか!」


「おい、これが大丈夫に見えるかのかよ!いいからそこどけ!こいつが飛んでくるぞ。」


言葉を発するより先に場所を退く上野。

俺はそれを確認してから力を急激に抜く。


今まで俺を吹き飛ばすために全力で力を込めていたので、その反動で態勢を崩してしまうリトルオーガ。


そのまま俺の刀がリトルオーガを一刺しする。


しかし、何事もなかったかのようにむくりと立ち上がる。


俺の無鉄が刺さったままだ。つまり、攻撃はしっかりと当たったはず。


【痛覚耐性】で無理矢理動いている可能性に賭けるしかない。


もしそうなら、痛みでも動けるだけの万能スキルではないはずだ。

自分のダメージを把握できずに急に倒れる可能性もある。


しかし、その願いも叶わずこちらに攻撃を仕掛けてくる。


今度は先ほどよりも素早い攻撃で反応ができない。

恐らく【身体強化】を使っているのだろう。


そのまま俺は攻撃を完全には避けることが出来ずにダメージを受けてしまう。


辛うじて、致命傷になるであろう攻撃をなんとか逸らして肩に持っていくことは出来た。

それでも鈍く重い痛みが身体中を巡る。

意識を保つのが精一杯なぐらいだ。


俺はそんな中でニヤリと笑ってみせた。


これだけ痛いのなら【反撃】でも十分な威力が出ると確信して。


このスキルが発動した瞬間に全身から今までに感じたことのないような力が漲ってくるのを感じた。


動くのもやっとな状態なはずなのに俺はリトルオーガに向かって走りだした。


それに気付いたリトルオーガも攻撃をしてくる。


ぶつかり合う拳と拳。そして、両者共に深い怪我を負っている。


どちらが勝ったとしても不思議ではない。

そんな緊張の走る一撃の勝敗は喜ばしい結果に終わることになる。


「大丈夫ですか!僕を庇ったからこんなことに。」


「・・・勝った・んだ・・ぞ。もっと・・・喜べよ。」


「【回復魔法】”ハイ・ヒール”!もう動いても大丈夫だと思いますが、少し安静にしてください。」


俺達は1匹を狩るのにここまで苦労した。

たかが、魔物だと高を括っていたからこう言う結果になったのだろう。


心のどこかで魔物にはだけは負けるはずがないという気持ちになっていたのだ。

でなければ、俺達に残された自尊心は無くなってしまうから。


「ワシはあの【咆哮】を聴いてかなりの時間動けなくなってしまったよ。」


「アタシもね。恐らく距離的な問題ね。近くで聴けば聴くほど効果が高かったのね。」


「それに俺が早く動けたのは咄嗟に耳を塞いでいたからだ。【鑑定】を使ったときに把握していたがどんなスキルか分からなかったから伝えていなかった。俺の伝達ミスだ。」


「そんなことはないですよ。僕はそれ生き延びることが出来たんですから。」


皆が口を揃えて反省するべき点を述べる。


「それで、弱気のまま今日を終えるのか?」


今日は口数が少ないと思っていた大城が久しぶりに口を開いた大城。

これは煽りか鼓舞なのか。


「大城の言うとおりだ。まずは対策する点を軽くまとめてもう1度挑む。5匹は倒さないと稼ぎにはならないからな。」


俺は大城の肩を持つことにした。

今の大城と清水はいつもと様子が違う。


何か心境の変化があり、このパーティと亀裂が生じることになったら魔王討伐は厳しくなるだろう。


俺としてそれでもいいのだが、もしかすると魔王が何か元いた世界に戻る情報を持っている可能性もある。

それに賭けてみるなら戦力を失うことは出来ないからな。


「俺も動けなかった身だからこれ以上はとやかく言う筋合いはないが、魔物の動きは完全に読み切った。次からは、何の支障もなく勝てだろう。」


「アタシの魔導具の出番かしら。」


そう言いながらアイテムバッグの中から何かを取り出す宮武。


名前:無音の楽器むおんのがっき

説明:この楽器を使用している間は、周囲を無音の状態にすることができる。潜入や奇襲に向いているが、大勢での連携を取るのには不向きである。使用するタイミングを見極める判断能力が重要。

スキル:【サイレント】Lv3


これがあれば簡単に対処することが出来るかもしれないな。


さっそく、次のリトルオーガが現れたようだ。


宮武が無音の楽器を使っていると本当に周囲から音が消える。


五感のうちの1つを失っただけなのに感覚が全く違う。

この中で動くことに慣れるのは大変そうだな。


俺と大城が囮となって遠距離組が死角から攻撃するというのを繰り返して討伐することが出来た。


先ほどと違い時間が掛かり味方の攻撃に当たりそうになる場面もあったが、それ以外は安全に狩れた。


この調子で狩りを続けていくと意外にも10匹も狩ることが出来た。


リトルオーガの死体をアイテムバッグに詰め込もうとしたが、1匹で要領が限界になる。


宮武は他の道具を入れているので持ち帰れるのはこの1匹だけということになるな。


最初こそ危ない場面もあったが、ここまでスムーズに狩りが出来ていると成長を感じるな。

あまりにも順調すぎて怖くなってしまうぐらいに。


ギルドに戻った俺達はすぐに換金を終わらせて今日の活動を終了する。


結局、あの死体は1000ゴールド。依頼達成料と合わせて1人850ゴールド。

端数の50ゴールドは俺が貰うことになった。


1日の稼ぎとしてはかなりマシになってきたのではないかと思う。


明日にでも買い物に行きたいが、開店している店はやはり少ない。


「何かがまた起こりそうだ。」


そっと俺は呟いた。

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