第018話 目覚めの悪い朝
いつものようにふかふかのベッドの上で目覚めたはずなのに、なぜか嫌な感じがする。
どうしてそんな風に感じたのかは分からないけど、今日のスタートは最悪なものとなった。
朝食の時間は昨日の夕食とは異なり皆がきちんと揃っていた。
何をしていたのかと聞きたいところだけどプライベートまで詮索してしまうのは少し失礼な気がする。
「今日は依頼をこなしていきたいと思います。僕達の実力的には問題なく中級の魔物を狩れると思うのですが、皆さんはどうお考えですか?」
「アタシはそれでいいと思うわ。ミートボアではあまり稼ぎにならないし、7人で確実に狩れば中級も苦戦しないわよ。」
「私もそれで良いと思います!だって、今は色んな魔物と戦って経験を積んでおく必要があるし。」
他の人も意見こそださないが、それで良いと納得しているようだ。
まぁ、たくさん狩ることがメインでなければそこまで苦戦することはないだろう。
食事を食べ終わると俺達はギルドへ向かう。
ギルドへ向かう道中で俺は明らかに昨日までとは違う違和感を覚えた。
街に出ていた多くの飲食店や店が軒並み閉店しているのである。
まるで、衰退した商店街の様に店は無くなり静かな空間だけがそこにあるのだった。
「変ですね。一気に閉店した店が出るなんて。何か理由があるとしか考えられないですよ。」
「えぇ、そうね。昨日、アタシが屋敷に戻るまでは普通に営業しているところばかりだったわ。」
「それが夜中の間にこんなことになるなんて一体何事なのか。」
街には他の冒険者達も立ち往生しているのが見受けられる。
武器屋など普通に営業している店もあるが、落ちぶれた冒険者は朝のこの時間から酒場にいるのをよく見かけるからな。きっと拠り所を無くし路頭に迷っているのだろう。
ギルドに着くといつも以上に人で溢れ返っている。
この間、ギルドが機能しなくなってから昨日、今日とこんな感じだ。
日銭を稼いでいた冒険者は1日依頼を受けられなくて痛い目を見たので稼げるうちに稼ぐ方針に切り替えたのだろう。
中に入ると余計に地獄の様な光景が広がっている。
依頼書を貼ってある掲示板の前は取り合いになっていて殴り蹴るなどの暴行は当たり前。
そして、1度にこれだけの人が押し寄せたのでギルドのカウンターは大忙し。
待機している列もかなり長くなっている。
俺達はこの争いからかなり出遅れてしまった感じがする。
「きょ、今日のところが帰りませんか?流石にこれだけの量の人がいればまともな依頼も残ってませんよ。」
「いや、見るだけの価値はあると思うよ。それに昨日も休みにしたから連日で休むと身体が鈍ってしまうからね。」
「それで?上野はどうやってあの大量の冒険者の中から依頼を持ってくるんだ?」
人が割り込める隙間など少しも見当たらないぞ。
下手に割り込めば怪我をする可能性も高い。
「大城さんにお願い出来ないでしょうか。大城さんがこの中でフィジカルは強いですし。」
そう問いかけても返事が返ってこない。
どこか様子がおかしい。いつもならすぐに自分の意見を言うのだけど。
今日は口数が少ない。
清水も元気そうにしているがどこか悲しげな表情を浮かべる時がある。
昨日、夜も外出していた2人に何かあったのは明白だけど、今はそれと関係がない。
しっかりとしてもらわないとこちらが困ってしまうからな。
「大城さん?大丈夫ですか?」
様子がおかしいと思った上野が再度を声を掛ける。
その声を聞いてようやくスイッチの入ったかのように意識を取り戻す。
「すまん。ちょっと体調が優れなくてな。他の人に頼んでくれないか。」
「それって大丈夫なんですか?別に王宮に戻ってもらって休養していただいても大丈夫ですよ?」
「いや、俺が足を引っ張るわけにはいかないからな。1・2匹くらいは魔物を狩ってみせるさ。」
「じゃあ、一ノ瀬さん。よろしくお願いします。」
なぜ、ここで俺になるんだと言いたいところだけど、他の5人を見れば必然的に俺になるのは仕方のないか。
「これ貸し1だから。あと、ボロボロになって帰って来たらすぐに【回復魔法】をかけてくれ。」
そういって俺は果敢に人混みの中に入っていく。
どこを通ればスムーズに移動できるか分かる。
なんなく掲示板の前に来ると俺達が出来そうな依頼を一瞬で見分けて素早い手つきで引き剥がす。
そして、命からがら生還することができた。
「良く無事で取ってこれましたね。やっぱり適任でしたか。」
「次、そんなこと言ってみろ。この依頼書ビリビリに引き裂くぞ。」
そんな冗談はさておいて今すぐにでもカウンターの列に並ばないと依頼を受けるのは昼過ぎになってしまいそうだ。
冒険者達は苛立ちが募っているようで、ここにいると俺達まで不快な気分になってきそうだ。
パーティのメンバー全員で並ぶと邪魔になるのでジャンケンで負けた人1人が並ぶことになった。
そして、結果は見ての通り俺のが負けてしまったのだ。
さっき俺が依頼書を取って来たばかりなのに、どうして神は俺に厳しいのだろう。
そんな愚痴を胸に抱きながら黙って列に並んでいた。
列が進んでいく毎に、隣の商業カウンターから怒号や号泣が鳴り止まないのに気付く。
その声に少しばかり耳を傾けてみる。
「お願いです!ギルドの方からお金を融資してください!俺はあいつに。あいつに騙されただけなんだ。」
「ですから、今貴方の様な人がギルドに押し寄せていて全員にお貸ししているとギルドの運営資金が足りなくなってしまいますので。」
「俺は悪くない。ただ、あいつの言葉通りにすればいいと言われてぇーーーー!!!」
そのまま男性職員に連れられて外に出されている。
良く見ているとその光景が何度も繰り返されているようだ。
あいつ。
きっとあの事件は終わっていない。そう言いたいかのように。
そっちの方の調査をしておきたいが、今は依頼書をこなして金を稼ぐことでみんなの意見が一致している。1人の感情から足並みを乱すわけにもいかないだろう。
「次の人どうぞ。」
いつも綺麗な顔のカウンターのお姉さんが血色が悪くやつれてしまっている。
連日のギルドは休む暇などないくらい大忙しだからな。
「これが依頼書だ。今すぐ受けたいけど頼めるのか。」
「念の為確認しますね。」
[依頼書]
・リトルオーガ討伐
概要:ごく稀にオーガの棲家に近づいた人間に攻撃してくる中級の魔物です。初心者の冒険者達が誤ってその領域に入ってしまい怪我をする事例が多く発生しています。事例の中には死亡例もありますので早急に対応してください。
報酬:1匹500ゴールド 何匹でも可
「討伐の際に誤って棲家の奥の方まで足を踏み入れるとオーガという中級の中でも上位の魔物に遭遇しますので注意してください。」
「ありがとう。」
なるべく1人辺りの時間が短い方がいいだろうと思い、すぐにその場を立ち去った。
6人の下に集まるってリトルオーガの依頼を受けたことを説明する。
いきなり中級になるということで、緊張感が高まってきたものの1匹500ゴールドと聞いて目の色を変えていた。
「あとそのリトルオーガがいる場所の奥まで進んでしまうとオーガがいるから注意しろだと。」
「そうですね。危険だけはないようにしないといけませんからね。」
「だ、大丈夫かな。心配になって来た。」
「あまり恐怖心を持ちすぎるなよ小原。時として、その恐怖心が自分の足を引っ張ることもある。」
「うっ、はーい。頑張ってみようとは思います。」
「何かあったら全員で全力疾走して逃げるからそこまで心配しなくてもいいしな。」
「ふふ。逃げ足だけは私負けない自信ありますよ。」
なんだその自信は。
強張っていた空気感が1人でも解消された方が依頼中の危険が下がる。
いつも通りの動きが出来なくなってしまえば、怪我の可能性が高まるからな。
それに今まで戦ってきた下級の魔物と5倍も報酬が違う中級の魔物だ。
強さもその5倍はあると考えていいだろう。
今の俺達でどこまで戦えるのか楽しみだ。
そう思いながら森の方へ進んでいく。今朝、起きた時の嫌な感じのことはすっかりと忘れてしまって。
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