第015話 終幕

「あいつらまだか!こっちは限界に等しいぞ!」

「そんなこと言ってないで目の前のことに集中してくださいよ!」

「本当に君たちしつこいね。僕の本気見せるしかないのかな?」


何か仕掛けようとしているのは確かだ。

これ以上の時間稼ぎは無理なのか。


「これを見なよ!黒く光輝くペンダント。これさえあれば僕は無限の力を手にいれる。」


【鑑定】を使ってそのペンダントを確認する。


名前:狂気終焉のペンダントきょうきしゅうえんのぺんだんと

説明:かつて人里に現れて人として暮らしていた魔族が作ったとされるペンダント。彼に何があったかは語られていないが、このペンダントには計り知れないほどの恨みつらみが込められている。

スキル:【闇魔法】Lv4 【狂乱化】Lv3 【呪術】Lv2


「おい上野。あれ使わせたら面倒だぞ。」

「そんなの見たら分かりますよ!でも、今はどうしようも。」


こっちでいい争いをしていると天に掲げたペンダントがふわりと浮いてどこかへ飛んでいく。

どういうことだ。そんな機能がペンダントに付いているとは思えない。


「ワシの【念力】も十分に活躍できそうだ。」

「貴様ーーー!最初の時にいた老いぼれが!」

「おいぼれに思惑を壊される様。それまさに悲劇なり。」


井村は持っていたら武器でペンダントを破壊する。

しかし、それでは敵の動きが止まる訳ではない。


「悪いがここで仲間を失うわけにはいかない。」

「邪魔するな!!!」


激しくぶつかり合う2人。

あの蹴りは俺達を軽々と吹き飛ばすほどの威力があるはずなのに。

この異世界に来て数日しか経っていないのに進化しているということか。

互角の戦いだが、少しずつ大城が押されているのが分かる。

さすがに相手も人殺しや犯罪を平気でするような人間だ。戦闘経験も豊富なのだろう。


「”コントロールショット”!」


狙いは敵へ一直線だったが簡単に避けられてしまう。

しかし、距離を取らせることには成功したので上出来と言えるだろう。


「はぁはぁ。ま、間に合いました!」

「雑魚が再集結ってことか。何人増えようと雑魚は雑魚。終わりにしよう。」


ここで俺達はやっと7人揃った。

相手はここから本気モードといった感じか。

この7人で勝てるのか。明らかに1人1人の実力が足りていない。

全てが上手く噛み合って奇跡的に倒せる程度だ。


「【闇魔法】”ダークランス”」


幾重にも生まれる闇が作り上げた槍が全員を襲うようにして放たれる。

一瞬にしてこの攻撃で死ぬことを理解する。


「”シャインボール”」

「”コントロールショット”」

「【念力】」


それぞれ応戦しているが、数本は取りこぼしてしまう。

それによって清水と宮武が怪我を負ってしまったようだ。

清水は自分で【回復魔法】を使えるのですぐに復活するが、宮武が重症だ。

なんとかして清水が宮武に近づくのを援護したい。


「はーい!まずは雑魚1匹!」


それを大城が許さずに目の前に立ちはだかる。

相手も大城がこのメンバーの中で1番厄介だということを理解したようで簡単には攻めこまなくなった。


「厄介。厄介。でも、お前が1番俺に近い匂いがする。」

「バカを言え。死んでもお前みたいにはならない。」

「そうかよ。【暗殺術】」


どこからともなく隠していた武器を取り出して攻撃に転じてくる。

今までは素手や魔法が中心だったので不意をつかれて攻撃をもらってしまう大城。

そこまで深い傷ではなさそうだがここで傷を負ったのは痛手だ。


「つまんないね。意外と脆いや。次の相手は誰?」


1人、また1人と確実に心が折れていくのが分かる。

敵うはずのない敵に立ち向かうことがどれほど愚かなことか。

なぜか俺の心のざわつきが止まらない。


(こいつと。俺より強いやつと戦いたい。)


その時すでに俺の身体は動いていた。

何回も近距離戦闘においては敗北しているが関係ない。


「おいおい、死にたがりが1匹。ここでお前も死ぬか?」

「ビギナー狩っていい気になるとは随分と気楽なもんだな。」

「そのうるさい口閉ざしてやるよ。【暗殺術】”サイレントキル”」


静かな移動に静かな太刀筋。

意識外から攻撃されてしまったら気付かないまま死ぬだろうな。


俺が刀で咄嗟に防御の構えになる。


「進化刀。それは使用者によって形を変えると言われる古の武器。羨ましいぜ全く。」

「欲しいのか?ならくれてやるよ。【投擲】」


目一杯の力で無鉄を投げる。

まさか唯一の武器を投げてくるとは思っていなかったのか少し頬を掠める。


「お前、やることが面白いな。でも、武器もなくて勝てるのか。」

「こんなに不用意に近付くかよ。【紛失防止】!」


俺の手にはポルタガが返ってくる。

俺が武器を取り出す手段がないと思っていた偽エルバスは後退しながら防御の構えをとる。

【投擲】ならギリギリ届くか?


投げ込んだポルタガはいとも簡単に弾かれる。

1回限りの不意打ちが防がれてしまったのは大きい。

こちらの攻撃は元々通ることが少ない。だからこそ、この一撃はなんとしても当てたかった。


「威勢だけか?もっと楽しませてくれよ!」

「俺の攻撃は外れたけど7人いるのは忘れない方がいいぞ。」

「動けなくてもこの距離なら当てられるぞ。【狙撃】!」

「私も加勢します!”コントロールショット”」

「一斉攻撃だ!【念力】”サイコショット”」

「【火魔法】”プチファイア”」


こちらに集中力を割いていたので、一斉攻撃に気づかなかったようだ。

流石にこの全方位の攻撃は避けらないようだ。


攻撃による砂埃で何が起こっているのかわからない。


「雑魚が何人いても雑魚だと思ってたが認めてやるよ。モブぐらいにはな。モブに昇格しても俺の足元には及ばない。【闇魔法】”ヘイトオブカース”」


霧のような闇が俺達の周りに充満している。

この霧を吸うほどに苦しくなってくる。

毒のような力がある魔法なのか。


意識が遠のいていく段階で他の6人も地面に倒れていくのが見える。


バタンッ!


意識を完全に手放しそうになった瞬間に何者かが扉を開ける音が聞こえてくる。


「A級冒険者パーティの”雷の奏いかずちのかなで”だ。ギルドの要請でバルジーク・リムガルの身柄を拘束する。ハイナ、あの人達を助けてやれ。闇魔法にかかっている。」

「はーい!【回復魔法】”リフレッシュオブカース”」


俺達の身体が徐々に軽くなる。

他の冒険者か。

一緒に戦闘したことはなかったが一瞬で場を制圧していく。

あのバルジークと呼ばれた敵も赤子の手をひねるかのように身柄を拘束される。


これが俺達と冒険者の差。

この強さに俺達が成長できるのかは疑問である。


「話を聞かせてもらおう。確か、今噂になっている勇者達か?」

「はい。そうです。」

「勇者と聞いたからどんな奴らかと思ったら幅広い層がパーティにいるんだな。」

「僕達も急に呼ばれて勇者をやらされているので。元は一般人ですから。」

「それで、なぜここにいるんだ。ここは遊びで来ていいような場所ではないぞ。」

「あ、遊びって!僕達は今朝発見されたエルバスの死の真実を調べにここに来ただけです!」

「それで、壊滅状態になっていたら世話ないな。言っておくが魔王の被害も知らない人間に魔王の討伐などと簡単に言って欲しくはない。お前らよりも必ず先に討伐する。」


なんだこいつら。

わざわざ助けておいて嫌味を言うのか。

なら、見殺しにでもなんでもすれば良かっただろ。

なんて、助けられた分際で言えることでもないがな。

こいつらが来なければ死んでいたのも確かだ。


「俺達の邪魔はしないでくれよ。俺達の邪魔をすること自体が罪なんだからな。」

「なら、さっさと魔王でもなんでも討伐したらどうだ?」

「なんだと?」

「お前らがどうしようと勝手だけど、魔王討伐で呼ばれて勇者と呼ばれてる俺らに嫉妬してる暇があったら行動に移したらどうだ?俺達だって本来なら平和な国でのびのびと暮らしていたんだからな。」


もしかしたら、犯罪者で独房の中かもしれないけど。

簡単に罪という言葉を使うのは失礼というものだ。


「俺達はギルドにこの事を報告するので失礼する。それとお前の顔は覚えておく。」


最後に捨て台詞を吐いてその場を去っていく。

これでこの事件は終幕へと進んでくれる。

といいのだが、まだ続くのはここの誰もが心の中で思っていた。

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