第014話 老人の意地

あれは一体なんだったのか。

ワシらでは到底敵わぬ相手。

見たこともないほどの殺気を身に纏っていた。

チャンスを上野君が作ってくれたので咄嗟に逃げ出したが2人は大丈夫だろうか。


廃墟の中を歩いていると誰かの気配がある。

戦闘は得意ではないので様子を伺っているとそれは見たことのある人物だった。


「宮武さんじゃないか。」

「そこから1歩も動かないで。」


宮武さんはワシに向かって武器を構える。

さっきの敵を見て用心深くなっているのだろう。


「敵は容姿を変えるスキルを持っているのがいるのは知っているわ。なら、貴方が敵か味方か判断する必要がある。だから、そこを動けば敵と見なして斬りかかるわ。」

「それもそうか。それならどうすれば信じてくれるかな?」

「何か私達しか知らない話をしなさい。」

「コロムズ刑務所。これだけ言えば信じるかい。」


少し考えているようだ。

もし、あの時すでに屋敷に盗賊の手の者がいたらなそれを知っていてもおかしくないが、エルバスと出会ったのはその話をした後だ。知っている可能性は極めて低い。

それは宮武さんも同じ考えらしく武器を収める。


「井村さんの方は何かあった?こっちはハズレ。下っ端の寝室があるぐらいだったわ。」

「ワシはまだ何も探していないよ。」

「何してるの!時間は限られてるのよ。いくら戦闘力が高い2人を置いてきたと言っても明らかにあのエルバスとは格が違ったわ。もって10分くらいってところよ。」


その間に何か情報を手に入れて2人のところへ合流し、エルバスを倒す。

それが今出来る最善策かもしれない。


「止まれ。侵入者。」


この声は聞いたことがない。

つまり、ここの人間。敵ということだ。


「ワシは、怪しいものではない。道に迷ってしまったか弱き老人よ。」

「誤魔化しても無駄だ。ここに入ってきた7人の冒険者がいることは知っている。仮に迷い人でもここで死ね。」


刀を鞘から抜き出して攻撃を仕掛けてくる敵。

武器があるのでなんとか応戦できる。

しかし、力が圧倒的に相手の方が上だ。


「【水魔法】”プチアクア”」


横から放たれる水の塊。

ここには3人しかいないので使ったのは宮武さんということになる。

直撃を免れるため、1度距離を取る相手。


「今のはどこで?」

「あれは、魔法札。魔法をその札に込めると何度かその魔法が誰でも使える物よ。道具屋で安くで売っていたから買ったのよ。」

「使える回数には制限ありと。それと相手の感情、怒りが大きくなってきた。」


どうしたもんかな。ここで勝つための作戦が何も思いつかない。


「【剣豪】”破壊斬り”」


聞いたこともないスキルだ。剣術スキルの上位互換だろうか。

広い範囲を崩していく斬撃がこちらを襲ってくる。


「逃げよう!ワシ達ではあの技どうしようもない。」

「そんなの分かってるわよ〜!」


廃墟内を2人でダッシュする。

老体にこんな走らせるなんて酷いんだ。

とりあえず、身を隠すために適当な部屋に身を隠す。


「これいつ使うか迷っていたが今使うしかないだろうか。偽物じゃないといいけど。」

「それ、スキルロールじゃない!?なんでそんなに高価なもの持ってるの。」

「たまたま通りかかった古書店で本を読んでいたら、今時熱心な方もいるのねと感心されて安くで譲ってくれたよ。どうやら普通のスキルロールと違ってランダムだし、すごいスキルも出ないらしいけど。」

「攻撃系のスキルならこの状況どうにか出来るかもしれない。」


ピカーーーン!!!


スキルロールを開けると眩い光に包まれて力がみなぎる感じがする。


New 【念力】 を入手


「で、どうだったの?どうにかなる感じ?」

「【念力】というスキルだった。レベルが上がったら強力そうなスキルではあるけど、まだLv1。使い物になるかどうかは怪しいな。」

「いつまで隠れているつもりだ。」


しまった背後を取られてしまった。まずい。

一か八かだ。


「背中に注意だよ。歳のよりの戯言は素直に聞いた方がいい。【念力】」

「そんなスキルを持っていたのか!?」


背後の照明を揺らして目の前の敵にぶつける。

重い物は念力を維持するのが大変だ。

それにレベルが低いからなのか使っている時はその場から1歩も動けない。


「小賢しい真似ばかりしやがって。【剣豪】”刹那落とし”」


目にも止まらぬ速さで振り下ろされる刀。

ここまで歳の割にはよく戦った。

そう思い目を閉じる。


「【水魔法】”プチアクア”!なに諦めてるのよ!勝つのよみんなで!」

「宮武さん!勝てる相手じゃないよ。ここは逃げなさい。」

「バカ言わないでよ。過去に私がどんな犯罪してたかしらないけど、今の私には正義があると信じたい。だから、ここで貴方を見殺しになんてさせないわよ。」

「なら、一緒に2人まとめてあの世へ送ろう。」


その瞬間、ワシらの前を横切る人影が1つ。

それは、この状況を打破する1手。

大城 翔太という男だった。


「痛いな!貴様どこから湧いて出てきた。」

「・・・それはどうでもいいだろう。」

「あぁそうだな。ここでお前も斬り刻んでやるからな!」


あんな強さをもった敵を対等に戦っている大城。

気のせいかもしれないが前に見た時よりも動きのキレが増しているような。


「はぁあああ!ヤァッ!」


回し蹴りを相手の顔にお見舞いする。

ここで初めてまともな攻撃を喰らわせた。

このまま見とくだけになってしまってはいけない。

なにか加勢できることを探さないと。


「”真空狩り”!俺は今怒りが止まらない!!!原型も分からなくなるほど斬り殺してやる!」


ここだ!


ワシの放った【念力】で刀の動きを止める。

そこに生じる大きな隙。


「また【念力】か!小賢しい真似をしやがって!」

「黙って寝ていろ。俺達にはしないといけないことがある。」


それを大城は見逃さなかった。

鳩尾に向かって渾身の一撃を放つ。

いくら敵が強くてもこの一撃にはたまらずダウンしてしまったようだ。

また、目を覚ます前に拘束しておこう。


「助かった大城君。君がいなかったら勝ち目が無かったよ。やっぱり強いね。」

「本当よ。あんな相手と互角に戦えるんだから。それよりも1人で探索していた時に何か見つけることは出来たの?」

「いや、何も。それよりも、他の部屋を探索しよう。上野と一ノ瀬がやられてしまう前に。」


そういえばこんな話をしている場合じゃなかった。

今すぐにでも情報収集をして玄関ホールに戻らないと。


この部屋を出る前に敵の武器等を回収しておく。

また起きた時に襲いに来られても面倒だからな。


刀を取り、身につけていた魔道具らしき物も回収する。

すると、この部屋の隅に何か落ちているのに気付いた。

鍵?どこかで使う鍵を見つけた。

今の所、この鍵を使うような場所を見つけられていない。

何かあるとすればこの鍵の部屋だろう。


「今、鍵を見つけたからこの鍵の部屋を探そう。」

「鍵付きの部屋なら何か重要な事も隠されてそうね!」

「・・・。そうだな、探すか。」


色々と部屋を探しているついに鍵の掛かった部屋を見つける。

鍵もピッタリとはまる。ここに何か隠されているのは間違いないな。


ギィーー


立て付けが悪く鈍い音を立てながら扉が開く。

そこに広がる光景は沢山の指輪やブレスレットなどのアクセサリー。

しかも、どれも全く違いのない同じ物だ。

そのほかにも、金庫が設置させている。恐らく中身はお金だろう。


「どうしてこんなにアクセサリー系を集めているんだろう?」

「何か理由があるのは間違いないようだね。」

「何個か証拠品として持って帰るか。」


大城君がそう言ったので素直に持ち帰ることにした。

写真が撮れればそれを証拠に出来たけど、ないなら現物を持っていくしかないか。


「一旦、玄関に戻るぞ。2人もそろそろ時間を稼ぐのが限界になっているはずだ。」

「この新しいスキルで加勢する。そして、みんなで真相を確かめよう。」

「張り切ってる所悪いけど、本当にあんなの倒せるの?」

「それはやってみるしかないだろ。とにかく急げ。」


この事件の真相に辿り着くまで残り少しになってきたような気がする。

残る敵も強いやつだ。気合いを入れて望まないといけない。

誰も欠けることがないように。

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