第013話 隠された部屋
私と小原ちゃんは、一緒に上の階まで上がってきた。
あのエルバスに見える敵は相当強そうだったけど、本当に2人は大丈夫なのだろうか。
「あ、あの。これからどうすればいいんですか。」
小原ちゃんは恐怖で混乱状態になりかけている。
ここは年上でもある私がリードしてあげないといけない。
「今から私達はエルバスの周辺のことについて調べるの。悪事についてだとか顧客リストとかを。」
「そうすれば何かに糸口になるんですか?」
「・・・うん!絶対そうだよ!」
少しだけ口を噤む。
本当のことを言えば、それがどの証拠あるからってどうなるのかも分からない。
でも、エルバスの被害を受けた人はきっと大勢いる。
そして、エルバスの裏にいる奴らから被害を受けた人も。
それを野放しにしておくことはできない。
「玄関ホールで大きな音がしたぞ!侵入者か!?」
「どうする。この持ち場を離れたら後で怒られるぞ。」
何か部屋の前で見張りをしている人物が2人いる。
まるでそこに何かがあるって言ってるようなものだね。
「多分、重要な情報があの部屋に隠されているよ。だから、あの見張りをなんとか出来たらいいんだけど。」
「私の弓でも1人しかここからでは倒せないです。」
戦うしかないのかもしれない。騒ぎになって他の人が応援に来ないようスムーズに倒したいが、その方法が思いつかない。こう言う時に他の人がいれば。
「【弓術】で1人を確実に仕留めて。そこから私がもう1人をなんとかして見せるから。」
「えっ。なんとかってどうやるんですか。相手は何回も人を襲ったことがあるであろう犯罪者ですよ。」
「一ノ瀬さんから借りてるこのダガーで近接戦を仕掛ける。それ以外思いつかないよ。」
「安心して私が何があっても小原ちゃんの方へは行かせないから。」
「わ、分かりました。」
小原ちゃんもこの状況を納得するしかないので、弓を構えた。
さっきも見たけど、この時の彼女の集中力は凄まじい。
いつで可能なタイミングになったところで、合図を送る。
「【弓術】”コントロールショット”」
「ぐはっ!何者だ!貴様。」
「てめぇーーー!」
刃物で斬りかかってくる盗賊の仲間をダガーで受ける。
刃物と刃物がぶつかり合う音でここが戦場であることを思い出させる。
盗賊の方がやっぱり戦闘技術については明らかに格上だ。
なので、足に矢が刺さっている盗賊の方から仕留める。
動けない盗賊のもう片方の足にダガーを突き刺す。
「グアーーーーー!」
「大丈夫か!弱ってるやつから攻撃するなんて卑怯だろ!」
「盗賊相手に卑怯も何もないですよ。」
すると、奥の影から弓矢が光って見える。
もう1度、小原ちゃんのスキルが使えるようになっている。
これが絶好のチャンス。ダガーで相手と競り合う。
シュッ!
飛んだ矢はまたも足を命中させる。
小原ちゃんが狙った場所は100%命中している。
私も早く攻撃ができるようなスキルが欲しい。
自分の身を守るのに【回復魔法】だけでは心細いから。
動けなくなったところを2人目も拘束。
「ありがとう小原ちゃん。おかげで助かったよ。」
「いえ、これは一ノ瀬さんから教えてもらったスキルなので私の実力ではなにですよ。」
「そんなに謙遜することないのに。でも、今はこの2人から鍵を探してみよう。」
この部屋には何かある。きっとそうであるはず。
見張りが腰に鍵をつけているのを見つけて、扉の鍵を開ける。
「かなりの量の本がおいてありますね。これじゃあ、どれが1番重要か分からないですよ。」
「なら、この中から3個ぐらいピックアップしてみようか。資料とかも含めてね。」
それにしてもどれが良いのかなど私には分からない。
本はどれも商業系のビジネス本。
その中に明らかに重要そうに置いてある本を見つける。
『完全掌握のすすめ 作者:ライラッド・クーエダ』
これは人の心を操るスキルについての研究がされている。
ここの奴らはそのスキルを使って商売を発展させようとしていたのか。
それならなおさらここで止めるしかない。
次に見つけたのは、とある資料。
それは宝石やアクセサリーを売りつけている顧客をまとめたリストだ。
数は何枚にも及ぶので、被害者は数えられないほどいるんだ。
気になったのはこの宝石やアクセサリーの入手場所。
それさえ見つかれば、街のどこかでこの集団に手を貸しているのが誰かわかるのに。
私が探した限りではどこにもその資料は見つからない。
その代わりに指輪を1つ見つける。
どんな効果があるのか【鑑定】を持っていないので分からない。
無闇につけてしまって変なスキルの効果が出ても嫌なのでつけないでおこう。
「そっちはどう?小原ちゃん。」
「怪しい本や資料はたくさんありますけど、どれを選べばいいのかわかりません。」
「どれどれー。きゃっ!」
地面に落ちていた本に躓いてしまう。
慌てて本棚に手を置いて体を支える。
「危なかったー!そのまま転んじゃうところだったよ。」
「大丈夫ですか。ここの部屋散らかっているので気をつけてくださいね。」
「うん!ありがとう!」
ガコッ
私が触っていた本が奥へ少し沈んでいく。
「なにこれ。本棚の奥にスペースがある。」
「これってもしかして隠し扉に繋がるカラクリとかですかね。」
「そうかも!他にも似たようなスペースがないか調べて本を埋め込んでみましょう。」
何分か探して本を入れていると急に本棚が動き出す。
そこに現れたのは地下に続きであろう階段。
「どうする?この先が危険な可能性は高いよ。」
「でも、何かあるとすればこの先であることは間違いないですよね。なら、行きます。私は、少しでも皆さんの役に立ちたい。」
本当の小原ちゃんは私と違って弱い子なんかじゃないんだ。
みんなのためを本気で思って行動できる子。
そんな小原ちゃんが羨ましいな。きっと私は嘘をついてしまうから。
「いこう!早く終わらせて2人の加勢に行かないとね。」
私が先陣を切って階段を下る。
そして、着いた先には余りにも酷い光景が待ち受けていた。
「助けて!お願いここから出して!」
「私、もう嫌!」
シンプルな牢に何人もの子供達が閉じ込められている。
こんなにも多くの子供がいるなんて。
そのほとんどは女子ばかり。きっとこの後は売り飛ばされてしまう所だったのだろう。
「鍵はこの辺には無いよね。無理矢理にでもこの扉を壊すしか。」
「私、何か針金みたいなのがあれば開けられます。」
「針金?私のヘアピンならあるけど。」
「使い物にならなくなる可能性があるんですけど大丈夫ですか?」
「うん。それで本当に助けられるならいいけど。出来るの?」
小原ちゃんは慣れた手つきで扉の鍵を開ける。
驚いたことに鍵は1〜2分で開いてしまう。
「私、学校でよく閉じ込められることがあったんです。その時に鍵の開け方も覚えてしまいました。エヘヘ。」
そんなに辛い過去があったなんて。
それなのにどうして人に優しく出来るの。
正直、私にはそれが理解できない。
「清水さん。この子達に【回復魔法】をお願いします。私には出来ないことですから。」
「そ、そうだね。【回復魔法】”ヒール”」
少し体調を悪そうにしていた子供も元気を取り戻していく。
「怖がっだよぉおおおーー!」
「うぇーーーん!」
子供達は安堵したのか私達の周りに集まりしばらく泣いていた。
一通り泣いたら、次のことを考える。
これ以上泣いていても始まらないから。
「ど、どうしましょうか。この子達は連れて行動するのは危険ですよ。だから、えーっと。」
「まず、出入り口は私達が入ってきた場所以外にないかを探しましょう。それでこの子達を逃したらすぐに玄関へ応援に。」
2人で話合ってまずは子供達を逃すことを最優先に。
その後に、先ほど見つけた資料などを持って2人に合流して応戦する。
命に変えられるものはないのだから。
「みんな大事なことだから良く聞いて。この後、みんなを逃すために玄関以外の出入り口を探します。なので、この建物を歩き回ることになるの。だから、何があっても私の話を聞いて。そして、みんなで助かろう。」
その約束を胸に私達は建物を歩き出した。
不思議なぐらいに敵とは合流せずに食糧庫で森へと続く裏道を見つけた。
本当であれば一緒に逃げてあげたいけど他の仲間を助けないといけないことを伝えてみんなだけで逃げてもらうことになった。さっきの盗賊から奪った武器を渡してあるので魔物にあってもなんとかなると信じたい。
「私達もいこう。」
「うん。」
あの子達のためにもこの事件は簡単に終わらせたりはしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます