第011話 残虐な死体

「あの、昨日のエルバスの件で来たんですけど。」

「すみません!ちょっとお待ちください!」


これは一体どうなっているんだ。

ギルド内は昨日まで違い職員が慌ただしく作業をしている。

他の冒険者も依頼を受けれなくて困っている者で溢れ返っているようだ。

中にはカウンターで怒鳴り声を上げている者も。


「皆さん、来られていたんですね。」

「ルーメルさん!これってどういう状況なの?」

「・・・。エルバス・モリッドが死体となってギルドの前で発見されました。死体の状況はかなりひどく、死因も死亡推定時刻も不明です。」

「死んだ!?どういうことだ!昨日まではあんなに元気にしていたのに。」

「取り乱してどうするんだ?今日はギルドの聞き取りも行われないだろ。今後のことを考えるべきでは。」


発言力のある大城が取り乱した他の人間にも混乱は移る。だから、俺は今どうするべきかを問う。

ギルド職員の様子から見て今日はまともギルドが機能する様子はない。

他の冒険者もそれを悟って帰宅しているのがほとんどだ。

それなら今日は休日にしてもらってこっちで勝手に動きたい。


「全員でこの事件の謎を解き明かす。」

「全員で?それなら僕が進めておきますよ。」

「この間も一ノ瀬と2人でエルバスについて調べていたようだが、昨日のことで俺達もエルバスの悪事に気付いた。それならここにいる全員に事件の真相を知る権利があるだろう。」

「やはり事実は小説よりも奇なり。ワシも推理小説は書いたことがあるから力になれるよ。」

「私も気になるわ。ここでおしまいと言われて納得できる訳ないじゃない。」


結局、依頼は受けれないのでやれることは少ないだろう。

ならば協力してもらった方が良いのは間違いない。


「分かりました。皆さんも一緒に街で聞き取りを行いましょう。エルバスのことだけでなく、近日で起こった奇妙なことも聞いてください。何か糸口になるかもしれませんから。」


その言葉を聞いて5人は外へ出て行った。


「この事件どう思いますか。」

「どうもなにもな。昨日、エルバスはあの事がバレたら俺まで殺されると言っていた。つまり、あいつのバックに誰かがいたんだろ。それもその組織内ではかなりの権力を持った奴がな。」

「僕もそう思います。恐らく、拠点を移動するために作業をしていたところでその何者かと出会い、あの事というのがバレてしまった。そして、怒りを覚えた犯人に惨殺されてしまったってところですかね。」

「それか、遺体は死因も分からないほどにひどかったのなら身元の分からない可能性もある。ギルドがどうやってあいつの死を判断したのか不明だが、もしかすると自分の罪を着せるために行った偽装工作かもしれない。」

「そうですね。まだ現場保存されているかもしれないので外に出ましょう。」


ギルドを出るがそこには死体どころか血痕すら見当たらない。

もう片付けられてしまったのか。


「死体ならありましたよ。」


ギルドの横に布だけ被せてあるのを上野が見つける。

少し布を捲って死体の状況を確認したが顔すら分からないほど焼け焦げている。

少なくとも火で燃やされたのは確実だ。


「【鑑定】を使えば何か分かるかもしれないですよ。」

「死体にも使えるかは分からないけどやってみるか。」


名前:エルバス:モリッド 死亡

称号:嘘吐きの亡者

スキル:【算術】Lv3 【交渉術】Lv4 【偽装】Lv3 【闇魔法】Lv2


名前や覚えているスキルから見てもエルバス本人で間違いないだろう。

この間【鑑定】が使えなかったのは【偽装】というスキルがあったからで間違いないな。


「間違いないエルバス本人だろうな。」

「そうですね。死体が身につけている貴金属もエルバスが身に付けていたものと一致します。」

「死因は焼死だと思うか?」

「それは判別するのが難しいですね。首には索条痕が、腕には切り傷が。そして、心臓はナイフで刺された跡が。調べれば他にも死因になりそうなものは発見されそうです。どちらにせよこんなに非人道的なことが出来る人間が相手だと考えると気を引き締める必要があります。」

「他の5人も巻き込んでしまったんだ。いつ闇討ちにあっても不思議ではないだろ。」

「そうなる前に解決しましょう。」


5人が聞き取りを終えて戻ってくるのはその数分後だった。

こちらの捜査で分かったことや現状のおさらいをして、全員で集めた情報の共有をする。


「まずは俺から。俺は店を中心に聞き込みをしていったが、店主達は口を揃えて知らぬ存ぜぬの一点張りだった。エルバスが死んだことを伝えても嬉しそうにするものはいなかったな。」


あくまでもターゲットは冒険者だけだったということか。

それでも、嫌な噂を聞いていれば喜びそうなものだがな。


「次は私と小原ちゃんが!昨日、リーンちゃんが学園ではエルバスのことを良く言う人物が多いってことで友達を紹介してもらったの。」

「そ、そしたら紹介してもらった全員がエルバスのことを褒めていました。ちょっと異様なぐらい。」

「だから、エルバスの死を教えたら泣きながら本当のことを教えてくれたよ。脅されていてエルバスの良い噂を流さないと家族にまで被害が及ぶぞって。」


学園の生徒は確実に被害にあっている。

ここまでのエルバスのことについては元から推理していた情報の裏付けしかなさそうか。


「アタシは収穫なし。街の噂で金さえ払えばどんな情報でもくれる情報屋ってのがいるらしいから探したけど、全然見つからなかったわ。」


情報屋。どれくらいの金が必要になるか分からないが最終手段としては覚えておこう。

火のないところに煙は立たないと言うからな。


「ワシは酒場で昨日の目撃者探しを。朝だと言うのに人は多かったよ。その分、目撃者をしっかり見つけたけど。昨日の夜たまたまギルドの近くを通りすぎた人がいてね。その人が言うには確かにエルバスは見たけど、エルバスが2人いてもう1人のエルバスがナイフを持っていてそれを刺した所で怖くなって酒場まで走って逃げたって。」


これは良い情報だ。

死因はナイフによる刺殺。そして、それを行ったのがもう1人いたエルバスが行ったってことか。

他人に変身できるスキルがあってもおかしくない。

それともエルバス本人による偽装工作か。


「エルバスではないがあの4人の盗賊についても冒険者から情報があった。出現するのは決まって森の中で街に姿を現したことはない。それどころか森へ行く道中の平原ですら目撃証言はない。」


たまたま目撃されていないって可能性もあるが森の中に拠点がある可能性も十分に考えられる。

森を調べてみる価値はありそうだ。何か手掛かりがあるかもしれない。

それは上野も同じ考えらしい。


「森の中を探索しましょう。昨日の盗賊は森のどこかを寝床にしている可能性があります。あいつらを捕まえたら何か情報が得られるかもしれません。」

「俺達は武器を持っていないぞ。今はギルドが機能していないからレンタルもできない。」

「一ノ瀬さんと小原さんは武器を持っていますし、僕と大城さんはスキルで戦えます。何かあれば他の3人も援護してくれるはずですので大丈夫です。今は行くしかない。それしか真実に辿り着く方法はないんです。」


他の人も上野の力説に納得する。

森の方へ移動することになった。

街を出る時に、昨日助けた冒険者4人に出会う。


「エルバスが死んだって本当かよ。」

「そうだよ。だから、今から僕達は調べないといけないことがあるんだ。」

「お願いです!私達も連れて行って!私達も本当のことを知りたいの!」

「それなら私達といっ「子供がこれ以上先のことに首を突っ込んではいけない。俺達は遊びで行くんじゃない。下手をすれば死ぬことになるぞ。」

「そんなに酷いこと言わなくても良いじゃないですか大城さん!この子達も当事者ですし、付いて来る権利はありますよ。」

「清水さんには悪いけど、僕も大城さんの意見に賛成かな。僕達は自分達の身を守ることで精一杯になる。そうなれば、この4人まで守る余裕はきっとないよ。」


それでも何か言いたげな清水を横目にそういうことだと4人を追い払う大城。

これが正解だったのかもしれない。

相手は犯罪者だ。子供相手でも躊躇なく殺しにくるだろう。

その時に身の安全を保障することはできない。

それで死んでしまえば辛くなるのは連れていこうと言った清水になるからな。


2対1だと気持ち的に否定されて落ち込む部分があると思うのでフォローしておく。


「子供の気持ちを第一に考えてる清水の考え方も悪くないと思うぞ。なっ、小原。」

「は、はい!素敵な考え方だと思います。あの4人に良い報告が出来るように真実を確かめましょう。」

「ありがとう2人共!元気が出てきた!」


小原を撫でて心を落ち着かせている。

今回ばかりは大城と上野の意見が正しいので清水には我慢してもうしかない。


俺達は真実を知るために森の中に足を運ぶ。

例えそれがどんな真実だったとしても。

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