第010話 もう1組の被害者
「結局俺達が討伐できたのは15匹のミートボアだな。」
「とりあえず、死体をまとめてみたけどここまでの量になるんですね。」
「まとめるので一苦労だったわ。力仕事なんて私向いてないんだけど。」
積み上げられたミートボアは俺達の努力と成長を感じさせる。
でも、1匹150ゴールドで2250ゴールド。
肉以外の素材を売っても、そこからサポーター代を引くと手元に残るのは昨日を対して変わりないだろう。
そう考えるとこの7人のメンバーで稼いだのは昨日・今日と合わせて大体1人600円前後ぐらいだ。
狩りが始まったばかりとはいえ効率があまりに悪い。
その証拠に昨日は2人で1400ゴールド。仮に山分けしていたとしても700ゴールド。
明日も休みにしてもらいたいが、パーティとしては活動を続けたいだろうな。
「どうするんだ?このままの稼ぎだと金欠による準備不足でそこら辺の魔物にやられるのがオチだぞ。」
「久しぶりに発言したと思ったら随分と辛辣なこと言うわね。でも、アタシもそれには賛成よ。これだとパーティとしての稼ぎが少ないわ。活動時間をもう少し伸ばしてみない。」
「それもそうだな。ワシも休憩を挟めば活動時間が長くなっても動けると思うし、何より欲しい物が多い。」
言葉には出さなかったようだが、不満に感じている人間は少なからずいる。
それをはっきりと表面上に挙げる為には、誰かが先陣を切って意見をする、いわばファーストペンギンが必要なのだ。
この7人はまだ組織として成り立っていない。
ただの仲良し様子見集団から魔王を倒す統率の取れた集団になる必要がある。
話し合いはその1歩だな。
「それはできない。活動時間を伸ばせば自ずと手に入るゴールドも増えるだろう。だが、疲労で集中力の低下や体力の減少は容易に考えられる。俺達の命は1つしかないんだぞ。あまり軽んじるなよ。」
「私もちょーっとそれには賛成できないかなぁ。だって、お金がないのは始まったばかりで初心者向けの魔物を狩っているからでしょ?なら、欲をかかずに地道にいけばそのうち稼ぎになるよ。」
「わ、私も危険なことはさ、避けた方がいいかとー。」
意見の分裂。
今回は意見を出すということを覚えれば十分だ。
焚き付けておいてなんだが、このまま殴り合いの喧嘩になられれも困る。
あいつに収束させてもらうしかないな。
「お金が欲しい組と慎重にいこう組がいますね。両者の意見は分かるけど、ここは双方が納得できる形を探る方がいいんじゃないかと。それに、今はサポーターさんも同行しているんだから待たせたら悪いですよ。」
「そうしましょう。別に喧嘩したいってわけでもないし。」
「俺もそれでいい。ここで仲違いするのもおかしな話だしな。」
18歳に諭される大人ってのもどうなのだろうかと思うが、結果オーライだろう。
今日はミートボアを狩るのをやめて帰ることになった。
時間的には昨日よりも掛かってしまっているので、サポーターが言っていたミートボアが中級に近い下級の魔物というのは本当だったのかもしれない。
帰り道の道中では、今後の方針についての議論が行われいる。
主に宮武と大城の2人でだけど、そこに調節要員として上野が入っている。
高校生なのに苦労が絶えないこと。
「きゃあーーーーーーー!」
森の奥。女の叫び声。
ここからでは、様子が分からないので俺は一目散に声のする方へ走る。
「ちょっと待ちなさい!1人じゃ危ないわよ!」
「俺達も追うぞ。」
他の7人も後から追ってくる。
森の中を難なく駆けていく俺は、後ろと距離を離していく。
声がしたところに辿り着くと冒険者パーティのような人物が4人見える。
背丈から推測するに中学生ぐらいの年齢だ。俺達と同じ成り立ての冒険者か?
襲っているのは、この間捕まえたはずの3人の盗賊。
エルバスのやつ、やっぱりグルだったのかよ。ギルドに連れていくといって適当な場所で解放したのだろう。
「おい、お前ら。加勢するぞ。」
「なんだよ!加勢なんていらない!大人の力なんて借りないぞ!」
「やめてよリュー。私達じゃ勝てない相手だよ。助けてもらおうよ。」
「そこの男が加勢はいらないと言っているが、こいつらは俺と因縁がある。残念だが、待てはしないぞ。」
俺の存在に気付いた1人の盗賊が声を上げる。
「てめぇー!この間の7人組の1人じゃねーか。ブッ殺す!」
「エルバス・モリッドについて知ってることを話せ。」
相手はこの名前を聞いて、口には焦りを出さなかったものの表情に一瞬焦りが見えた。
確定だな。
恐らく、冒険者の4人もエルバスに唆されてここに来たのだろう。
「前回は訳があってスキルが使えなかったけど、今回は違うからな!【剣術】”ソードスラッシュ”!」
飛び出す斬撃。地球ではありえない芸当だな。
ポルタガで受けるが威力がありすぎていなすので精一杯だ。
【投擲】とは相性が悪いが武器チェンジだ。
「武器を変えたって何も変わりはしねぇーぞ!もう1発喰らえ”ソードスラッシュ”」
「その技は縦に打つよりも横に打つ方が効率的だぞ。」
威力はあっても放つ動作に生まれる隙や斬撃自体のスピードを考えれば避けるのは簡単だ。
それにその技を使う人間が使いこなせていない。
「バカが!俺以外にも人がいることを忘れるなよ。」
「【水魔法】”プチアクア”」
横から文字通り水を差す盗賊の仲間。
4人はいつの間に捕まっているようだ。
もう目の前に魔法が近付いている。魔法を受けようにも剣術野郎に近付いてしまったせいで確実に反撃をもらう。
「【火魔法】”プチファイア”!危なかったー!どんだけ早いんですか一ノ瀬さん。」
「よくやった上野。おい、剣術野郎この距離じゃスキルよりも俺が斬る方が早いぞ。」
厄介な剣術スキルの男は斬りつけた。死ぬまではいかないが傷は深いだろうな。
「上野、やっぱりこいつに支持をしていたのはエルバスで間違いないらしい。」
「やはりですか。昨日の街の聞き取りでも良い噂は聞きませんでした。」
「おいおい。またあいつらかよ。ガキ捕まえるのにどれだけ時間を掛けるのかと思って来てみたら。」
「エルバス様!この間の奴らがまた来やがって予想外に手間を。」
「そんなのは見りゃ分かるんだよ!!!バカかお前は。チッ、逃げるぞ。こいつら俺の事を嗅ぎ回ってる。あの事がバレたら俺まで殺される。拠点移すぞ。」
他の6人も合流する。
しかし、事情を知らない他の6人は混乱するだろうな。
「また増えたか。その新人冒険者も置いておけ。4人も運びながら相手はできないだろうからな。」
「あいよ。じゃあな、クソ勇者ども。」
「ここで簡単に逃す訳がないですよね。”プチファイア”」
「黙って捕まっとけ。【投擲】」
「おい!お前らそれだとエルバスに当たるぞ!」
説明なんて面倒なこといちいちしてられるかよ。
ここは追撃を仕掛けて確実に。
「正義ぶっているようだが、お前ら俺と同じ匂いがするぞ。決して消えはしない匂いがな。」
「【水魔法】”ミストエリア”」
魔法で発生した霧と共に盗賊とエルバスの姿が消える。
逃してしまったのは勿体無いがあの盗賊と手を組んでいるのは確実になったな。
「あれはどういうことだ。ちゃんと説明してもらおうか。」
「エルバスさん良い人そうに見えたのに。」
「簡単に人は信じちゃいけないってことね。」
「話すのは良いがまずはあの4人の救助が先だろ。清水が【回復魔法】でも使ってあげればいい。」
【回復魔法】を使うと4人はしっかりと元気を取り戻す。
「一ノ瀬さん聞き取りと行きましょう!探偵っぽくなってきましたよ!」
「落ち着け。聞き取りで興奮する探偵は気持ちが悪いぞ。」
「助けていただきありがとうございます。」
「ちぇっ。俺は助けてなんて言ってねぇーぞ。」
生意気な子供だな。俺がエルバスの情報が欲しいから戦っただけだ。
「んで、お前エルバスについて知ってることを言えよ。」
「別に何も知らない。話しかけられたのは後ろの2人だからな。」
「うんそうだよ。僕達が話かられたよ。僕はエスマ。」
「そして、僕がエムマ。2人で1人の冒険者だよ。ちなみにこんなに顔はそっくりだけど双子ではないよー!」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、リーンでこっちの子がリューです。」
話が全くない。
聞き取りは上野にパスしよう。
「僕は上野誠一だよ。2人はあのエルバスってやつに声を掛けられたんだよね。」
「そうだよ。でも、あの人ずっとカウンター近くにいたから怪しかったな。」
「でも、誰か大人がいた方が心強いってリーンが。」
「だって、他の子達もエルバスさんにお世話になったて学園で。」
年齢は低めを狙うのが基本か。恐らく、若者は狩りについての知識が少ない者が多いからだろう。
これ以上聞いても情報はでないか。
とりあえず4人を街まで帰し、道中で俺達の考えを教えた。
ギルドに依頼達成を報告し、ついでにそのことも報告するともしそれが本当なら大事なので後日しっかり話を聞くらしい。サポーターもこの現場に居合わせたので一緒に事実確認が行われるようだ。
後にエルバスのことが大きな事件へと繋がっていくとも知らずに帰路に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます