第007話 探偵と助手

今日はせっかくもらえた自由な時間だ。


これを有効に使わない手はない。


早速、俺は小原を呼んで昨日と同様にゴブリン狩りに出る。


「本当に私がゴブリンを狩れるようになるんですかー?」


「それは本人の努力次第だが、そうなるように手助けはしてあげるぞ。」


「どんな手助けか僕も気になりますね。」


依頼を受けてギルドを出る直前に上野に見つかり、同行したいと言われた。


こちらとしては別にやましいことをしている訳ではないのでそれを了承。


でも、上野はただ同行したかった訳ではないんだろうな。


何か別の目的があると思って間違いない。


昨日の狩場に着くとゴブリンは少なく1〜2匹といったところだろうか。


ゴブリンは知能を持っているので1度仲間が狩られた場所にはなかなか近付かない性質でもあるのだろう。


まずは、いきなり実践に移るのではなく練習からさせよう。


「これを受け取れ。ギルドから借りてきた弓だ。弓矢の本数にも限りがあるから打ったら回収するように。」


「ゆ、弓ですか?私、弓なんて使ったことないですよ。」


「俺を信じて的に撃ち続ければ問題ない。無駄になるってことはないはずだ。」


「ゴブリンとか襲って来ないですよね。」


「俺もナイフを借りてある。それに上野だって魔法スキルが使えるから大丈夫だ。」


「分かりました。このままじゃ確実にお荷物ですもんね。それに私なんかに貴重な自由時間を割いてくれてる一ノ瀬さんのためにも頑張ってみようと思います!」


俺は少し離れた木に腰掛けて見守る。


そこに上野も近付いて、今まで大人しくしていた口を開く。


「彼女、随分と貴方に懐いていますね。」


「なんだ?嫉妬か?子供の恋愛事情に巻き込まないでくれよ。」


「そんなことではないですよ。ただ、僕は彼女よりも貴方に興味があるんですよ。」


「おっとそれは心当たりがないな。俺はただのフリーターだぞ。」


「バカを言わないでくださいよ。貴方は7人の中でも切れ者の部類だ。今日だって彼女を使ってスキルの取得条件を試しているじゃないですか。」


「それは誤解だな。小原を呼んだのは複数のデータがあった方がいいと思っただけだ。小原が乗り気じゃなかったら俺1人でするつもりだった。」


俺は木の的に向かってナイフを投げる。


元々、ナイフ投げの経験があったのですんなりと的に当てることができる。


しかし、弓なんて触ったことのない小原の方は当てることに苦戦しているようだ。


「で、俺がスキルの取得をしているとしたらどうなんだ?それぐらい誰でも試してみるだろ。」


「僕、推理小説が好きなんですよ。推理小説と言えば探偵じゃないですか。なんで、僕探偵に憧れているんですよ。」


「話の道筋が見えてこない。要約して話してくれ。」


「探偵には助手が付き物なんですよ。見事に貴方はその名誉ある役に選ばれました。」


「・・・。」


「ちょっと何か言ってくださいよー!」


こいつの助手をしろって言うのか。

なんで、異世界で年下高校生の探偵ごっこに付き合わないといけないんだよ。


「じゃあ、僕が今日ギルドで2人に会えた推理を聞いてくださいよ。」


「お前、俺達がゴブリン討伐するって知っててギルドまで後を付けて来たのか?」


「・・・コホンッ。まず、僕は2人の関係性について少なくとも彼女が心を開いている関係であることは知っていました。」


「最初の日の夕食で小原が座っていた位置が俺の隣だったから。だろ?」


「流石ですね。彼女が人間関係で何かしらトラブルがあり、恐怖心を抱いているのは確か。それなのに、僕達より先に来ていてたくさん席が空いてる中でわざわざ面識のない人間の横に行くは考えにくいからです。」


「こうは考えないのか?小原が真面目で席を詰めないといけないと考えたと。」


「それも可能性として0ではないですが、その場合は一ノ瀬さんの対面に座るでしょうね。その方が下を向けば視界の中に一ノ瀬さんが入ることもないし、物理的にテーブルを挟んでいるので距離を取ることができますから。」


言っていることは全て正論だな。


そこまでの情報をあの一瞬で見つけていたのだとしたら、普段から細かい点に気をつけているはずだ。


この洞察力と推理力、今後役に立つ可能性が高いな。


「んで、肝心の俺達が今日ギルドに行くと思った理由は。」


「昨日のゴブリン討伐ですね。彼女は1匹も討伐していないのに、貴方はそれを庇った。それは討伐していないことで周りから少しでもマイナスの感情を抱かせないため。つまり、一ノ瀬さんは自分以外の人間ともコミュニケーションを取れるようにフォローしたいということでしょう。それなら今度も戦力にならないのはまずいため現在に至る。」


「そこまで分かったのかよ。尊敬よりも自分の思考を読まれてるみたいで恐いな。」


「ちなみに、小原さんがゴブリンを倒していないと思った理由は2つ。1つは彼女が血を見れないということ。ギルドカードの作成も手間取っていましたし、自分で倒したはずのゴブリンを1度も見ようとはしていませんでしたからね。2つ目は、倒したゴブリンの傷は全て頭部をナイフでひと突き。彼女は血を見れないので接近して倒した可能性は低い。もし、彼女も投擲で倒したのなら複数の傷がないと不自然だ。それほど1発で狙った場所に当てるのは難しいですから。」


ゴブリンを倒したのが小原ではなく俺で、その理由が他の人が小原にマイナスの感情を抱かせないというところも完璧な推理だ。


知られて困るようなことでもなかったしな。


なんなら同世代の上野がいることで小原の手助けになるかもしれない。


「助手でもなんでもしてやるよ。その代わり、Win−Winの関係でいこうぜ。」


「もちろん、困り事があればそちらのお手伝いもしますよ。それでは交渉成立で。」


手を差し出して握手を求める上野。


俺をその握手をしっかりと返した。


俺もそこまで他の人と深い交流がある訳じゃないし人脈を深めるのは悪いことじゃない。


それにいざと言うときに発言力の強い人間を味方にしておく方が良い。


「やった!やったぁーー!当たりましたよ!的に当たりました!」


かれこれ1時間ぐらい弓を引いていた小原がやっと的に当たったようだ。


もしかしたらと思い俺は小原に【鑑定】を使う。


ステータス

名前:小原 若葉 18歳

称号:???

スキル:【気配遮断】Lv2  New【弓術】Lv1 ???


新たに【弓術】というスキルを獲得している。


やはり、きちんとそれに関する経験を積むことによってスキルの取得につながるということだ。


俺も【投擲】というスキルをゲットしていた。


【投擲】は元々経験があったから苦労しなかったけど。


「おめでとう!小原さん!」


「あ、あ、ありがとうございます。」


「そんな畏まらないでよ。同い歳なんだから。」


「えーっと。その・・・。」


これは、会話に慣れさせることか始まりそうだ。


道のりはだいぶ長いな。

でも、積極的に小原と話してくれるようだし慣れるのも時間の問題か。


その後は実際にゴブリン狩りを始めた。


俺は自由に出来る金が欲しかったので、昨日よりも張り切って討伐していた。


出来れば死体も運びたかったが、【アイテムボックス】もないので仕方ない。


そのまま死体を放置していたら消えていくので問題はないし。


「遠くからならなんとか血も見ないで良さそうです。お陰様で5匹ぐらい倒せなした。」


「昨日から考えるとだいぶ進歩してきたんじゃないか?俺も9匹倒せたし今日は終わるか。」


まだまだ12時ぐらいだろうが小原をこれ以上拘束しておく訳にもいかないしギルドに戻ることにした。


道中は、小原が上野とも緊張しながらではあるが会話は成立させていた。


「あ、そうだ一ノ瀬さんに言っておこうと思っていたことがあったんだった。昨日の盗賊、あれ明らかに怪しくなかったですか?」


「武器を持っていないことと魔法スキルが使えないことを予め知っていたようだからな。」


「魔力切れで使えないのをもともと使えないのと勘違いしていたようですけど。」


「え、つまりどういうことなんですか?昨日の盗賊って誰かが呼んだってことですか?」


「小原さんの言う通りだよ。そして、それを呼んだのは、エルバス・モリッド。彼だろうね。」


あいつはサポーターとして依頼に同行して内部の状況を把握して、襲わせて金目の物を奪っていたのだろう。

あの会社だって裏では何をしているか分からないな。


「僕は街で聞き込みをしてみようと思います。行き詰まったり、意見が欲しくなった時はお願いしますね一ノ瀬さん。それじゃあ、僕はここで。」


街に着いた瞬間、聞き込みのためにどこかへ消えた上野。


俺が意見を出さなくても勝手に解決しそうだな。


ギルドで無事に換金を済ませる。


昨日と今日で1200ゴールドになるので、自分で武器を調達出来ないかと思い武器屋を訪ねることしよう。


今日はここまで付き合ってもらったので小原も自由に休んでもらうために声をかける。


「お疲れ様。今日は付き合わせて悪かったな。午後からは本当に自由にしてくれ。俺はこのお金で武器屋を見ようと思うから。この辺でな。」


「私も武器屋に行ってもいいですか。こっちでやることも思いつかないので。」


「小原がそれで良いなら良いけど。」


「ありがとうございます!それじゃあ、行きましょうか!」


俺達は午後から武器屋を探すことにした。

ついでに色々な店も見て回りながら。

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