第006話 盗賊VS勇者

「金になりそうなもん全部置いていきな!」


目の前には金を集ってくる明らかに人相の悪い奴らが3人。


俺達はどうしてこんな奴らに絡まれているんだよ。


◇◆◇


遡ること10分前


「もうすぐで森を抜けるはずなので頑張って歩いてください。」


「やっぱり移動手段が少ないのは不便だな。最初はこの森にもお世話になるだろうから、改善が必要だ。」


「そうですね。僕も面倒だなって思っていたところですね。馬とか借りられたらいいですけどね。」


「馬乗ったことあるの!すごいね上野君!」


「いや、全くないですけど異世界系の定番なのかと思いまして。」


「そもそもそんなお金はないわ。まずは装備を自分達で揃えないと。」


前で今後の会議とかが始まっている。


後ろにいるのは少し疲れが見えて来た井村と会話に全く参加できない小原、そして俺。


「無理しない方がいいと思うぞ。アンタも若くないんだから。」


「ワシのことを心配してくれいるのか?嬉しいもんだ。でも、集団活動で足を引っ張る訳にもいかない。そうだろ?」


「まぁ、本人がそう言うなら無理に止めないけど。でも、この世界でどんな病気が流行ってるかも分からないし、疲労で免疫が下がって風邪でも引いたら大変だろうな。」


ちょっと遅れて来た井村を置いて歩きながらそう呟いた。


無茶するなという忠告だ。


年寄りだからと馬鹿にしているのではなく、今は知略担当として元気でいてもらいたいだけだがな。


「確かに一ノ瀬君の言うことも一理あるかもしれないな。ここは意地を張らずに休憩させてもらおう。心配しなくともすぐに追いつくから先に行ってなさい。」


「いや俺もちょうど疲れたんだ。ここでちょっと休むことにする。」


「わ、私ももう歩けないと思ってました。」


3人で木陰の側の切り株に腰掛けて座った。


日差しもポカポカとして、風が心地良く吹いている。

このまま眠ってしましそうなぐらいだ。


後ろの3人が付いて来ていないことを誰かが気付いたらしく。


先頭組がこちらの方に戻ってくる。


「どうされたんですか。一ノ瀬様、井村様、小原様。」


「俺が疲れたから休もうって言ったんだ。何人かで行動した方がいいと思って2人を誘ってな。」


「それならそうと言ってくれたいいのに〜!」


「それじゃあ、俺達も休憩するか。太陽の位置を見る限り、まだ時間も遅くなっていないだろうし。」


「僕もそれで良いですよ。時間に余裕がない訳じゃないですし。」


横から井村が小声で話しかけてくる。


「すまないね。ワシから言い出したのに。」


「実際に俺も疲れたのは確かだからな。それに今は形だけでも助け合っている方がなにかと便利だろ?」


「ハッハッハァ!打算的に動いてる人間、嫌いじゃないねワシは。」


「そりゃどーも。」


何故か褒められてしまったが、実際に今助けておけば好感度が左右して何か良いことが起こる。


まぁ、別に何も無かったとしても自分自身は人助けをしたという事実で満足できるので悪くないしな。


「それでは私はちょっと席を外しますね。少しついでで頼まれ事をされたのを思い出しました。」


「そうですか。あっ、そうだ!僕手伝いますよ。ここまで親切にしていただきましたので。」


「いえいえ、今は皆様お客様なのでゆっくりしておいてください。それに頼まれ事もすぐに終わることですので。」


森の道を慣れた足取りで進んでいく後ろ姿を俺達は見送った。


すぐにと言っていたがどれぐらいかハッキリと聞いておくべきだったな。


席を外して1時間しても帰って来なかったら勝手に帰ればいいか。


ガサガサッ


もうエルバスが用事を済ませて帰ってきたのか?

それとも何か忘れ物をして戻って来た可能性も。


音がした草陰からは誰も出て来ない。


「おい、そこに誰かいるのか。」


そう言って音の発生源に近づく大城。

魔物の可能性だってあるのに迂闊に接近するのか。


バサッ


何者かが草陰から飛び出してくる。


精々、小さな魔物ぐらいだと思っていたのか、油断してしまった大城は捕まってしまい人質にされる。


相手はどうやら3人俺達の周りを囲むようにして位置取っている。


「金になりそうなもん全部置いていきな!」


「おっと余計な動きはするなよ。少しでも変な動きしたら人質の命はないぜ。」


「武器を持ってない奴らが俺らに勝てる訳ないけどな!」


金目当ての犯行で人質を取ったところまでは何も問題なかったな。


それが女性陣や体力が残っていない井村とかだったら正解だったかもしれない。


でも、よりもよって1番の不正解を引くなんて可哀想で仕方ない。


「俺はそんな刃物じゃビビりはしないぞ。はぁあああーーー!フンッ!!!」


肘打ちで相手の鳩尾に一撃を喰らわせて怯ませる。


そして蹴りで刃物を持っている手を蹴り上げて、最後に投げ技でフィニッシュ。


おぉーー!これは華麗な撃退術だな。


「くそっ!ふざけるなよぉーー!」


「武器は無くても1発打てるくらいには回復してるよ。【炎魔法】”プチファイア”」


「魔法スキルが使えてるだと!」


上野が魔法スキルを使って2人目も撃破。


魔力的なものの回復速度はそれほど遅くないのかもしれない。


それか使っているスキルの消費量が少なくちょっとの回復で使えたのかも。


「みんな3人目が逃げてるよ!追いかけよう!」


清水が声を上げて3人目が逃げ出したことを知らせる。


この状況になったなら逃げ出すのは良い判断だな。


武器無しでも普通に戦える人間がこれだけいれば相手をするのは難しいだろう。


あっ。ちょうど良い小石を見つけた。


「ゴブリンには当たったけど、次も外すなよ俺。」


敵に背中を見せて無様に逃亡する犯罪者の後頭部に見事ヒットする。


どうやら当たった衝撃で気絶してしまったようだ。


俺が仮に犯罪者だったとしてもこんなに無様じゃないことを願うな。


「お見事ですよ!えーっと一ノ瀬?さん。」


「あぁ一ノ瀬で合ってる。普段はあんまり発言しないから覚えてなくても当然だけどな。」


「ご安心ください!この清水、今しっかりと覚えましたので!」


「それよりこいつを縛り上げてみんなのところに戻ろう。」


「縛る道具がないですけど、どうしましょうか。」


「適当に長い草を持って来てくれ。」


俺は気絶中のこいつが目を覚さないか見張っておく。


そして、清水が草を持ってきた段階で使えそうなのを選別しロープを作る。


俺が何をするのか気になっていたのか作業している横で邪魔にならないよう観察している清水。


「へぇー草からロープが作れるんですね。子供達とかに人気でそうですね。これはバイトの経験ですか?」


「まぁ、そんなところかな。キャンプ場のバイトの時にサバイバルに詳しい先輩から。」


まさかこんなところで役に立つとは。


縛ったやつを2人で運んでもっていく。


どうやら、残った犯罪者も似たような手段で縛り上げている。


こんな知識を他に持っているのは、井村か上野だろうな。


「こいつらどうします。ギルドに言えばどうにかしてくれるんでしょうか。」


「どうかなさいましたかー!」


森の奥から騒ぎを聞きつけて走ってやって来るエルバスに事情を説明する。


「なるほど。もしかしたらギルドで犯罪者登録されているかもしれませんね。ここは私の会社の者を呼んでギルドへ運ばせます。」


そう言ってアイテムボックスの中から連絡を取るであろうアイテムと取り出した。


その数分後に馬で駆けつけた社員が、犯罪者を馬に乗せて街に帰っていく。


それがあるなら最初から俺達を運ぶものを用意しとけよ。と思ったが経費はなるべく削りたいのかもしないな。


初の戦闘は魔物と人間、どちらも経験することになった。


今後も魔王討伐のためには戦闘経験を積んでおく必要がある。


それに、お金を貯める手段として今あるのは依頼をこなすことぐらいなので暇があればまた来よう。


俺達はその後ギルドに戻って依頼達成の報告をして、ゴブリンの素材を買い取って貰った。


ゴブリンは、依頼達成料と一緒で1匹100ゴールドで買い取って貰った。


「ご利用ありがとうございます!これも何かのご縁です。またのご利用おまちしております。では!」


エルバスはご機嫌で自分の会社の方に戻っていく。


みんなの合計の所持金から2000ゴールド引くと依頼達成料の1200ゴールドと素材買取料の900ゴールド。


ちょうど1人辺り300ゴールドになる。


話し合いの末、全会一致で山分けすることになったが、この300ゴールドで何ができるのだろうか。


「今日は大変だったので明日は自由行動にしませんか。」


「それは賛成ね。私も自由な時間は欲しいし、やりたいことあるから。」


「俺もそれが良いと思う。ここまで色々なことがあったからな。心身共に休む時間が必要だ。」


こうして俺達は解散することになった。


明日の行動は自由になったので、何かすることを考えておこう。


休日というのはどこの世界でもワクワクするものだ。


そう思いながらみんなで王宮へ戻った。

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