第005話 欲狩りの森
エルバスに連れられて俺達は森の中にやってきた。
「皆様、ここは初心者冒険者におすすめの狩場[欲狩りの森]です。」
「欲狩りの森ですか?」
「えぇ。ここにいる魔物の多くはゴブリンやスライム、ミートボアなど誰でも狩れるような下級の魔物ばかりです。しかし、中には初心者では対処が難しいリトルオーガやクイックウルフなど中級の魔物がいるので欲を出さずに引き際を見極めるべきだという意味でこの名前がついています。」
「危険な魔物がいるから注意しろってことか。ワシは足腰は弱ってきているから走れないしな。」
「私も走るのとか得意じゃないわ。なるべく奥にはいかないようにしましょう。」
「とにかく気を引き締めろ。いつ、魔物が来るか分からないからな。」
大城はそう言っているが、ここまでの道中では魔物に遭遇していない。
ある程度安全な道で案内してくれいるのだろうか。
基本的な魔物の情報やこの森のことを聞きながら歩いていると、川が見える場所まで来た。
「では皆様、この茂みに身を隠して川の方を観察してください。」
言われた通りに身を隠していると身長は100センチにも満たない子供のような生き物がいる。
人間の子供と違うのは肌の色が赤く、耳が少し尖っている。
それに人を襲うためなのか武器を携帯しているようだ。
「あれがゴブリンです。ゴブリンは、下級レベルの魔物の中では珍しく知能を持っている魔物なので油断しないように。早速ですが、何事も経験ですから誰か討伐してみませんか?
何か危険なことがあったらサポートしますし。」
「ゴブリンは武器を持っているように見えますが、僕達何も持ってませんよ。」
「ご安心をそれはこちらで用意してありますから。【アイテムボックス】」
そういうと何もない空間から色々な種類の武器が取り出される。
収納する道具無しで持ち運べるスキルが便利そうだな。
エルバスが他にどんなスキルも持っているのか見てみたい。
【鑑定】
ステータス
名前:×××
称号:×××
スキル:×××
鑑定してみたが、何も情報がない。
実力差がある対象には鑑定が効かないのか、それともスキルで隠しているかのどちらかだな。
「まずは、俺がやっていいか。魔物相手ではないが戦闘の訓練は受けたことがあるし、前に言ったように武術も多少習っていたからな。」
ここは俺達の中でも1番戦闘力がある大城さんからスタートということになった。
まずは、敵の数を把握している。
ゴブリンは、都合の良いことに全部で3匹で300ゴールド分だ。
2匹は腰に棍棒を持っていて、1匹は刃物だ。
刃物には十分注意したいところ。
「キエエェエエーーーー!」
「確かに武器を使うところを見るとある程度の知能はあるようだが、全てにおいてお粗末な動き。」
棍棒を持つゴブリンが2匹が同時に攻めてくる。
いきなりの戦闘で2匹同時に相手をするのは簡単ではないだろう。
そう思ったのは数秒間だけだった。
1匹のゴブリンの武器を持つ手を掴み攻撃を封じると手刀を喰らわせてダウンさせる。
そのまま、攻めてくるもう1匹にゴブリンを投げ込み、身動きが取れなくなったところを蹴りで止めを刺す。
「・・・あともう1匹が来るならこのタイミング。」
大城の死角を常に位置取っていたゴブリンが、他の2匹に攻撃をして気を取られている間に背後から刃物の一撃を喰わらせようとしていた。
しかし、それもしっかりと読み取っていた大城に返り討ちに合い死んでいく。
これはゲームなんかではないので死体も消えることなく残っている。
それを何事もなかったかのように拾い上げていくエルバス。
「基本的に魔物の死体は、ギルドに持っていくとゴールドと換金してもらえます。今回は、皆様持ち運ぶ手段がないと思われますので私がお運びいたします。さてどうでしたか、初の戦闘は。」
「命のやり取りの重さを感じた。奴らは俺がいなければ死ぬこともなかった。」
「何をおっしゃいますかー!あれは魔物ですよ。貴方がやらなければ人を襲い、最悪死人を出していたかもしれないんですよ。」
「それでもだ。死を弔うのに善も悪もないだろ。」
そう言ってこの戦い少し重く捉えた大城がこちらに戻って来た。
魔物の死に敬意を払うおじさんにポカーンとした表情のエルバス。
まぁ、この人が特殊なだけだから気にしない方がいいけど。
「次は僕がやってみたいです!まだ、魔法のスキルとか使えてないし。」
この空気を一変するためなのか、本当に試したのか分からないが上野に助けられる。
少し場所を移動するとまたゴブリンがいるのを見つけた。
今度も3匹とちょうど良い。
上野はゴブリンの前に姿を現してスキルを使う。
「まずは、【光魔法】”ライト”」
その瞬間に辺り一面に強い光が現れる。
俺は咄嗟に目を閉じて防いだが、ゴブリンは直接光を見てしまったようだ。
視界を奪われたゴブリンに続けざまで攻撃を仕掛ける上野。
「次はこれかな。【火魔法】”プチファイア”」
今度は握り拳程度の大きさの炎が出現して真っ直ぐに飛んでく。
軌道上にいたゴブリンは燃えてしまい死体になった。
他のゴブリンも同じようにして燃やされて死んでいく。
こちらには気付いていたがライトを使われて身動きすらできていなかったな。
これが異世界の魔法と言われるスキルか。原理も分からないし謎が多そうだ。
この後は各自でゴブリンを見つけたら討伐していいことになり、各々スキルと使用感などを試している。
【回復魔法】が使える清水や攻撃系のスキルを持っていない宮武や井村も武器をもって戦っていた。
攻撃系のスキルがあるとないとではやはり戦闘の具合が大きく変わるそうで苦戦しているように見えた。
それでもなんとかノルマの3匹は倒していたのだが、ここに1匹も倒せていないやつがいる。
「そんなに重く捉えずにゲームだと思って頑張るしかないぞ。」
「そ、そんなぁー。あんな恐ろしい敵と戦うなんて出来ないですよー!」
恐ろしいといっても敵のステータスは、
名前:ゴブリン
称号:森のギャング
スキル:【体当たり】Lv1 【棍棒術】Lv1
これぐらいのスキルしかもっていない。
さっきまで色んなゴブリンの戦闘を見てたがこのスキルを上手く使えてる個体はいなかったしな。
「ナイフ貸してみろ。」
小原からナイフを借りて俺がまずは1匹倒してみる。
それで簡単に倒せることを証明すれば少しは小原もやる気になってくれるだろ。
「よっと。」
借りたナイフをゴブリン目掛けて投げつける。
狙い通り見事に投げたナイフはゴブリンの頭に命中して倒すことが出来た。
本来であれば投げナイフの方が使いやすかったが、あのナイフで成功してよかった。
「す、すごいです。あのゴブリンを一撃で倒すなんて。」
「ほら、小原もできるから頑張れよ。」
「ヒッ!血、血がついてますーー!」
やばい、ゴブリンの血を振り払うの忘れてた。
血が嫌いだと本当に戦うのは難しそうだ。
無理に戦わせるのも心が痛むので、俺が代わりに小原のノルマの3匹も倒してやることにした。
「ごめんなさい。迷惑かけちゃって。」
「別に気にしてないぞ。まぁ、このままじゃ流石にダメだろうから、今度一緒にここに来てゴブリン倒すまえ頑張らないといけないけどな。」
「・・・は、はーい。それにしてもナイフを投げるの上手ですね。ダーツかなにかされてたんですか。」
「いや、ダーツはしてない。ちょっとサーカスでバイトしてたことがあってその時に投げナイフも仕込まれたんだ。」
「バイトってサーカスの団員だったんですか!なんか珍しい仕事をしてたんですね。」
「正確には、サーカスもだけどな。色んなバイト先を巡って色んな経験を楽しんでるんだ。探せば面白いバイト沢山あるからな。」
俺のちょっと珍しいバイト事情を小原に話してながらゴブリンの観察をしたりした。
最低限の6匹を倒した時点で他のゴブリンを倒すつもりはなかったしな。
どうやらそうこうしている内にみんなで集まることになったようだ。
「みんなどうでしたか!私、頑張って3匹倒せましたよ!」
「私も3匹ね。なかなかイメージしてたより苦戦したわ。」
「そうだな。ワシも頑張ってみたけど3匹が限界だ。」
攻撃スキルなしで3匹も狩れば上出来だろう。
それに今日は初めての狩りで勝手が分からないこともあったし。
「俺は10匹だ。たまたま群れでいたところを倒せたかから運が良かった。」
「僕は7匹かな。途中で魔法スキルが使えなくなったんだよね。もしかしたら、ゲームのMPみたいなものがあった無くなると自分の体にセーブをかけるようになってるかも。」
戦闘組は結構な記録を出しているな。
これは今後の戦いでも心強い。
「わ、私は・・・。」
「小原がこの3匹。そして、俺がこの3匹だ。売れば金になると思って持って来た。途中で小原を見かけたから小原の分もな。」
「皆様、最初の戦闘としては上出来ですよ!今後も期待ができますね。それではギルドの方に戻りましょうか。」
何度もこちらに向かって頭を下げてくる小原。
こうでもしないとお前が他の人とコミュニケーションを取りにくくなると思っただけだ。
しかし、このままはまずいな。どうにかして温厚で同性の清水辺りと仲良くさせたいところだ。
その方法を道を歩きながら考えた。
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