第004話 初のギルドへ

異世界に召喚された翌日、俺達は冒険者ギルドに来ていた。


理由は簡単で、わざわざ食事をしている目の前に国王が現れてギルドに行くように言って来たからだ。


勇者という扱いだからか俺達の前では猫を被っていたが、要約すると働かないやつはいらないとのこと。


[冒険者ギルド 本社]


その看板がある建物は、2階建てになっていて木造の建築となっている。


本社と書かれているので、ここの世界ではアロットは中心の国になっていると考えてもいいだろう。


人の出入りも途切れることはないようだ。


中に入るとこちらに視線が集まるのを感じる。


恐らく、王宮内で勇者を召喚したことくらいなら噂程度で広まっているだろう。


その噂に当てはまるところがいくつかある集団がギルドに来れば注目されるのも仕方ない。


「うわぁー!すごい!まるで海外に来たみたいですね!」


「そんなにはしゃぐから色んな人に見られているぞ。」


「まぁまぁ、いいじゃないか大城さん。清水さんも悪気があってしている訳じゃないし。それにワシもこの建築の美しさには年甲斐もなく興奮してしまうし。」


勇者じゃなくてもこれなら変に注目されても仕方ないか。


それよりも、他の冒険者はかなり装備がシンプルな物を身につけている奴らが多い。


それに掲示板に貼られている仕事の依頼らしきものは、どれも報酬が1万ゴールドを超えるものはない。


事前に使用人から聞いた相場は日本とあまり変わらないので、総合的に考えると簡単な依頼が多いのだろう。


「いらっしゃいませ勇者の皆様方!国王様から事情の方はお聞きしておりますので、早速ギルドカードの発行、説明に移らせてもらいますね!」


「仕事の出来る人が多いみたいですね。僕達が入って来てからここまでの時間はそこまで経っていないのにスムーズに事が進んでいますし。」


「これもあの国王のおかげといえるな。」


対応の良さに全員が関心していると、カウンターに7枚のカードが置かれている。


カードは記入欄があるがそれ以外は真っさらのままである。

ここに自分で情報を記入するのだろうか。


「今から皆様にはこのカードに血を垂らしてもらいます。それで全ての情報が記載されますので、自分で書いていただく必要はございません。このカードは3ヶ月に1回情報の更新をしないとお使いになれませんのでご注意ください。」


「なんか免許証みたいでめんどくさいわね。でも、これがないと依頼を受けてお金が貰えないだろうなー。」


「ち、ち、血がひ、必要なんですか!?私、自分の血でも見るの恐いんですけど・・・。」


「ご安心してください!この針で血を出していただきますが痛みは一切感じません!それに横に【回復魔法】の使えるギルド職員を配置しますよ!」


「そ、そういうことじゃないんですけど。・・・諦めます。」


ギルド職員でも清水と同じ【回復魔法】を使える人がいるのか。


俺達が使えるスキルは他の人間も簡単に取得できる基礎的なものだと思っていいだろう。


「次の方どうぞー。」


順番に血を垂らしていき、残っているのが俺と小原だけになる。


小原は血を見るのが苦手のようで柱に隠れて震えている。


これじゃ埒が明かないので、俺が先に登録しておくか。


「俺が次登録します。この針を刺せばいいんですね。」


「チクッともしないのでご安心を!」


俺は心配していなかったが待ち針ぐらいの大きさの針を指に刺す。


痛みを無いし、感触すらなかった。

いつ刺されたかも分からないと違う意味で恐いな。


俺が血をギルドカードに垂らした瞬間に小さな光を灯すカード。


そして、カードにはステータスと似たようなことが書かれていた。


違うのは魔物討伐数とギルドバンクに預けた金額という欄があり、???は記載されていない。


ここでカウントされるのは恐らく文字通りのことだろうし、質問とかはしなくてもいいだろう。


それにしてもあの針の仕組みが気になるな。【鑑定】。


名前:業務用針

説明:一般的にギルドの業務で使われる針。刺しても痛みは全く無い。※悪用厳禁

スキル:なし

状態:【攻撃力低下】Lv5


攻撃力低下という状態になっている。誰かがスキルで状態異常を付与しているのか。


まだ、こちらに来たばかりでスキルのことは未知数なことが多い。


覚えることが多くて苦労するが、ゲームをしているみたいで少し楽しくなってきたな。


それで残るは小原のみ。

このままにしておく訳にもいかないので俺が手助けしてやるか。


「すみません。あの子のギルドカードの登録が終わったらすぐに【回復魔法】使ってあげてください。」


「え、はい。でも、どうやって登録させるおつもりですか?」


「まぁ、ちょっと工夫して。」


俺はギルドカードを持って小原の方に近づく。

それに気付いたのかやっと小原は現実に意識が戻ってくる。


「一ノ瀬さん。他の人はもう終わっちゃたんですか。」


「あぁ、あとは小原だけだぞ。でも、無理する必要はない。恐いものってのは簡単に克服できる物じゃないしな。」


「わ、わかってくれますかーー!私には無理ですよー。」


「とりあえずギルドカードは持っててくれよ。気が向いた時とか勇気が出た時に挑戦してみればいいし。」


「うぅー。皆さんを困らせているみたいですし、そうします。」


俺はギルドカードを座り込んでいるしゃがんで小原に手渡す。


すると、小原がギルドカードを手に取った瞬間にカードは光を放つ。


「え?」


「お、なんか分からないけど登録出来たみただな。良かった良かった。」


「ど、ど、どうして!?」


ちょっと混乱しているのが可哀想だったので、ちゃんと種明かしをしておくか。


「まぁーその、なんだ。このカードに下に針を持っておいて、ちょっと角度をつけて下から刺した後に渡したんだ。痛みも無かったし、刺されたことにも気づかなかっただろ?」


プクーっと頬を膨らませて怒った表情でこちらを見てくる小原。


「ひどいじゃないですかー。口ではあんな優しくに言っておいて。・・・でも、本当に助かりました。他の人に迷惑を掛けずに済んだのは、一ノ瀬さんのおかげですから。」


その後に柔らかな笑顔で感謝を伝えてくる。こんな表情もちゃんと出来るんだな、意外だ。


「ほら、いくぞ。今は、登録終わらせた5人が最初の依頼に見合ったものを探しているから。」


「そうですね。いきましょうか。」


5人の方に向かうと見知らぬ人物に話しかけられている。


こんな初心者みたいな奴らに絡んでなにが目的だ。


「あ、2人も来ましたか。この人が右も左も分からない僕達に魔物討伐をレクチャーしてくれると言ってるんですよ。」


「こんにちはー!私、このギルドの隣で人材派遣をやっている エルバス・モリッド と申します。以後、お見知り置きを。」


「人材派遣の人がなんで俺達みたいな初心者の手伝いを?」


「それはもちろん噂を聞かせてもらったからですよ!なんでも国王様が魔王討伐の為、7人の勇者を召喚したとかで。私も魔王討伐にお力添えできればと思った所存ですよ。」


なるほどな。


噂になっている勇者と最初のうちに繋がりを持っていれば後々美味しい思いができると思った訳か。


会社を作っているのだからそれぐらいの精神の方が向いているだろう。


「それですね。最初の依頼は、このゴブリン討伐なんていかがでしょうか。1匹100ゴールドです!」


「最初はこのスライムじゃないのか?俺達はまだ何も分からない。それなら、報酬が1番安いやつが安全だ。」


「ダメですよ大城様!スライムは冒険を始めたばかりのお子様向けになっていますから、経験にすらならないですよ。それに何かあった時は、私達の社員がサポート致しますから。」


「で、まどろっこしいことは抜きにしていくら掛かるのそのサービスは。」


「もちろん無料で!と言いたいところですが、こちらも商売なので7人全員で合わせて2100ゴールド。いや、キリよく2000ゴールドで!」


1人辺り約300ゴールド。

ゴブリン3匹分か。


戦いのイロハを教えてくれると考えると安いかもしれないが、今回の報酬のほとんどはこの支払いに消えそうだな。


まともな金が入るのはもう少し先になるか。


あっちは、ちょっとした小遣い稼ぎと人脈の2つを手に入れて満足だろうけどな。


「それでいいわ。命には変えなれないし安いぐらいよ。」


「親切な人で助かりました!この世界は良い人ばかりですね!」


「この出会いに感謝しないといけないよ。」


どうやら満場一致で賛成になったようだ。


俺も不満がある訳じゃないし、お金が無くても王宮で暮らしているしな。


俺達はギルドカードを作ったその足でゴブリン討伐に向かった。

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