第003話 罪人の晩餐
コンコンコン
「失礼いたします。お食事の用意ができましたので、ご案内いたします。」
もうそんな時間か。
色々部屋にある物を【鑑定】してみてスキルレベルが上がるか試していたが、どうも上がる気配は無さそうだ。
他にもこの世界の情報を調べてみようかと思ったが、この部屋には何も本が置いてないので調べようがなかった。
外に出ようにも先ほどの件もあったし迂闊に出歩くのは控えたい。
「どうぞ、お好きな席にお座りください。使用人が他の方も呼んでいますので少々お待ちを。」
そう言って俺を案内した使用人は料理の準備をするためかどこかへ行ってしまった。
こんなに広いテーブルに1人座っていると不思議な気分になるな。
前の世界では絶対に味わえることのなかった体験だ。
次に入って来たのは、小原だった。
先に待っていたのが少し話すことが出来た俺だったから安心したのか俺の横に座る。
その直後に人が続々と入ってきたので会話をすることは無かったけど。
まだ、挨拶すらしていない赤の他人だからなのか全員が無言で着席し、会話をすることもなかった。
会話はないが、所々で数名の視線が飛び交う。
やはり、探りを入れている冷静な人間が何名かいるようだ。
どこか張り詰めた空気感に居心地が悪くなってしまったのは、俺だけじゃないだろう。
「こちら、お食事をお運びしましたのでごゆっくりお楽しみください。」
時間にしたら短い間の出来事だったが、やっと食事が届けられる。
次々とテーブルの上に並べられる食事を見て、全員が目を輝かせた。
何しろ、食事は全て高級レストランと遜色がないほどの出来上がり。
「美味しそうですね!」
「お腹も空いてますし早速食べましょうか。」
いただきます
この世界では他の誰も使っていないだろう食事の挨拶を済ませて料理に手をつける。
俺は一瞬タイミングを遅らせて周りの反応を伺った。
あの国王の裏の顔を見てしまうと料理に何か仕掛けられていても不思議ではないと勘繰ってしまう。
「最高ー!」
「うむ。今までにないほどの美味だな。」
「高校生でこの体験が出来るなんて僕はラッキーかもしれないです!」
次々と食事の感想を述べている。
ここまでは普通の食事でいいかもしれない。
でも、俺達が置かれている状況は違う。
「そうだ!僕達自己紹介もまだなので簡単な自己紹介をしませんか。」
「それもそうだ。」
「こっちの世界に来た境遇の同じ仲間みたいなものですからね!」
「私もいいわ。」
男子高校生の提案に次々と賛成の声が上がる。
この中で本当に素直な気持ちで自己紹介をしたいと思っているやつが何人いるのか。
「まずは、言い出した僕から。僕は、
この高校生、顔も良いのに頭脳まで良いのかよ。神はこの子に与えすぎだ。
この中では年が若いながらもリーダーシップを持っていてカリスマ性があるな。
もしも、この7人で動くとすると中心人物になるのは間違いないだろう。
「はいはーい!次は私!
この女性はあまりにも元気が有り余っているな。
発言回数もこの中では多く、積極性があることが窺える。
保育士なら普段は子供の相手をすることも多いだろし、人当たりは良く初対面で嫌われるタイプではないだろう。
「ワシも乗り気だったからな。
茂村ノリオ。
日本だけでなく世界でも知らない人はいないと言われているほどの文学作家だ。
特に人の感情を捉えるのが上手く様々な賞を受賞しているとどこかの本で読んだ記憶がある。
本名は、井村茂範だったのか。この7人で最年長なので見聞は深そうだ。
「それじゃ私も。
銀行員か。
この人は年齢を隠したいようだが見た目的には30代前半ぐらいだな。
最初に集まった時に取り乱して小原を怒鳴っていたが、自己紹介は賛成だったことや魔王討伐も参加の意志を見せたことから周りの空気は読めるタイプだ。
この金銭の相場が分からない異世界でお金の計算が出来るのは心強い。
「俺も自己紹介ぐらいはきちんとしておこう。
俺の次に決断を渋っていた人か。
あの時、即座に決断するのは最善の選択肢ではなかった。
その点では、この中で1番の冷静さを持っていると言ってもいいだろう。
警視長になるだけのことはあるな。
武道の心得があると言っていたし、戦闘面でも1番に実力を発揮するだろう。
残念だが、もうあっちの世界には戻れないけどな。
「わ、私は
自己紹介がそれだけってどうなんだろうか。
俺は先に自己紹介されているから知っていたけど。
かなり内気な性格で、その原因は過去のイジメによるトラウマにある。
自虐的な部分があるが、慎重かつ細心の注意を払って物事を捉えられるというメリットとして考えておこう。
「俺は、
俺は自分が持っている情報をあえて提示することで協力的なことをアピールする。
集団活動においては足並みが揃わない者から弾かれていくのが鉄則だからな。
「僕は、【炎魔法】と【光魔法】を持ってたかな。流石に部屋の中では危ないと思って試してないけど。」
「私は、【回復魔法】ってやつ!ゲームとかしないから分からないけど強いのかな?」
「ワシは、【集中力強化】と【読心術】だ。ライトノベルのようにハッキリと相手の考えが分かるみたいなことは【読心術】にはなかったぞ。せいぜい、喜怒哀楽がぼんやり分かるぐらいだな。」
「アタシは確認して無かったわ。えーっと、【算術】と【交渉術】か、名前からして戦い向きじゃなさそう。戦力外かもしれないけど、許してね。」
「【合気道】、【狙撃】。多分、俺の職業上での経験が反映されているんだろうな。」
「私は、【気配遮断】だけです。なんだか私にピッタリですね。」
他の人も情報を共有してくれて有難い。
直接戦いに関わりそうなのは、上野、清水、大城の3名だけか。
少し心許ないが今後も増えていく可能性もあり得る。
「俺からも1つ聞きたいことがある。お前達は自分が何者か理解しているか?」
突如として切り出した大城の質問。
俺にはその意味がなんとなく分かる。
「何者ってさっき自己紹介したばかりじゃない。」
「コロムズ刑務所。1番最初に僕達が着ていた服が示すもの。場所不明の孤島にあるとされ脱出は不可能。そして、そこには世界最悪の犯罪者を収容されている。つまり、大城さんは僕達がその犯罪者である可能性を指摘しているってことですよね。」
「そういった知識も持っているんだな。俺が言いたいのは上野が言った通りだ。そして、俺にはその刑務所にいた記憶もない。他の人はどうだ?」
この問いかけに首を縦に振る者は現れない。
全員がその記憶を持っていない可能性がある。
しかし、それ以外にも考えられる。
「仮に覚えていたとしても話はしないだろうな。そんな馬鹿はここにはおるまい。」
井村の一言で場の空気が一変する。
楽しい食事の中での懐の探り合い。
なんとも居心地の悪い時間だ。
「これは俺の失言だった。過去に何があったにしろ今は協力する仲間だ。このことは深く考える必要はないだろう。」
大城は一言謝罪して食事に戻る。
その言葉を真に受けるなら今後も仲良くやっていけそうだ。
真に受ける奴がいればな。
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