第002話 確認した先にあるもの

「では、まず7人の勇者様にはこの世界で戦うために必ず覚えておかなければいけないこと2つ教えます。1つ目は、ステータス。皆様は、ステータスと心で念じていただくと自分でのみステータスを確認していただくことができます。これは、自分の強さを知るため事あるごとに確認しておくとよろしいでしょう。そして、もう1つがそのステータスにあるスキルです。これは、戦う中で必ずと言っていいほど必要となります。新しくスキルを覚えた際には試しに使ってみると良いでしょう。」


ステータスとスキルか。

俺はあまりゲームやアニメに詳しい訳ではないがなんとなくは理解できる。

これは個人情報ぐらい重要なものになると思うのでこの後すぐに確認しよう。


「それでは食事の時間になったら使用人を部屋に行かせますのでごゆっくりしてください。」


俺達7人は部屋に案内されてそれぞれが部屋に入っていくのを確認した。

ここに来るまでの廊下はさすが王宮といったところか敷地はかなり広く、置かれているものの高価なものばかりだ。

用意された部屋の中も高級ホテルのように広々と快適な空間が備え付けられている。

ここまでくれば居心地が悪いと感じてしまうまであるな。


「それじゃあ、肝心のステータスとやらを見ておくか。」


ステータス

名前:一ノ瀬 勇いちのせ いさむ 25歳

称号:???

スキル:【鑑定】Lv1 ???


これどうなってるんだ?

名前や年齢はしっかり合ってる。

でも、称号やスキルに明かされていない情報がある。

今使えそうなものは鑑定というスキルだけってことか。


「この世界に来てから分からないことだらけだ。今は着替えてしまったが最初に着ていたツナギ。あれはどこかで見たことのある囚人服だ。どこの囚人だったのかは知らないが、その時の記憶は俺に無い。」


他の6人も着ていたことを考えるとあの中に何か知っている人物がいてもおかしく無い。

もしくは、記憶が無いのは俺だけって可能性もある。

夕食の時にでも話を聞いてみるとしよう。


「そうだ。スキルは実際に使って試してみるといいって言ってたな。【鑑定】」


やることが多くて大変だがスキルについて試してみる。

するとステータスのように空中に文章が浮かぶ。


名前:ふかふかなベッド

説明:とても高級なベッド。中には何か魔物の毛が使われているようだ。

スキル:【快適】Lv3


鑑定のレベルが低いからなのか説明文に書かれていることはあまりにも大雑把だ。

しかし、このベッドにはスキルが付いているのか。

この世界の誰かが物にもスキルを付与できる技術をもっているということかもしれない。

いつか役に立つかもしれないし覚えておくことにしよう。


食事になったら呼ばれると言っていたが喉が渇いたので水をもらいに行こう。

俺は部屋に案内される前に軽く利用できる場所を教えてもらったのを思いだしながら、キッチンの方へ向かう。

ここまで広いと迷子になりそうだけど、道に迷うことなく1回で辿り着く。


キッチンには夕食の準備をしている使用人の方が数名いるのが見えた。

こんなに準備で忙しいのに俺を見つけるとすぐにこちらの対応を来る。


「どうかなさいましたか?」

「ちょっと喉が渇いたので水を1杯もらおうと思いまして。忙しいと思いますので水とコップの場所を教えていただいたら自分でしますよ。」

「そんなそんな勇者様の手を煩わせる訳にはいきませんので、こちらで準備いたしますよ!」


気さくなコックはすぐにコップに水を汲んで来てくれる。

ここまで優遇されて対応をしてくれると嬉しくなるな。


「お忙しいのにお水ありがとうございました。コップここに置いておきますね。」


短く感謝だけ伝えてキッチンを後に。

それにしても、家具から食べ物、それに使用人まで一流となるとこの国はお金には困っていないのだろうな。

今度、そのあたりも調べるために街に出てみるのも悪く無い。

これ以上、ウロウロしていると変に怪しまれるかもしれないので大人しく部屋に戻るとしよう。


ん?あれは国王と知らない人が話をしている。

何の話をしているのか気になり、俺は咄嗟に姿を隠して聞き耳を立てる。

国王と話している人の身なりや国王と直接会話をしていることから推測するに、彼の階級は高いはず。

その人と国王が会話しているということはかなり重要な話をしているだろう。


「あの7人、本当に勇者の素質があるのでしょうか。どうしても私にはそう見えません。」


俺も思っていた。

俺も含めて、7人はどう見たって一般人にしか見えない。

それは他の人もそう感じているのだろう。


「あの召喚陣が反応して呼び出したのがアイツらだったのだから仕方ない。俺だってあんな奴らのことを信頼している訳がないだろう。しかし、利用価値ぐらいはある。何せ、奴やは7人もいるのだから1人ぐらい魔族を倒せる人間がいれば十分だ。」

「そういうことですか。元より使い捨てるための駒だったということですね。ならば、あの願いを叶える国宝も手放すつもりはないのですか?」

「魔王を倒す可能性など1ミリもないのだが、もしも倒したのならばあんな物くれてやる。」

「あんな物と言いますと。」

「あれは先代が国宝だと言い張ったガラクタに過ぎんのだ。なんでも願いを叶えるんだぞ。私が先に使わない訳がないだろう。」


なるほど、最初から疑問には感じていたんだ。

魔王を倒すのならば時間もお金も掛かる。

ましてや、戦ったことなどない異世界の住民を呼ぶのは効率が悪い。

それなのにこんなにも優遇されていたのは、使うだけ使う駒としてしか見ていなかったということだ。

それに、みんなが魔王討伐に乗り出したキッカケでもある国宝。

あれも自分で使えないことを試したからこそ簡単に渡すと言ってたのか。


国王の思惑が少しだけ明らかになった時だった。

俺の後ろから何者かの気配が感じる。

バッと振り向くと、


「わ、わわムグググッ。」


召喚された時にいた他の人に流されやすい弱気な女子学生だった。

声を出されてしまうとこちらが盗み聞きしているのがバレてしまうで、手で口元を押さえて黙らせる。

一瞬音を出してしまったので、バレてしまったかと思ったがそこには2人の姿はなかった。

バレていたとしても2人いたことには気付かなかっただろうし、声的にも女性と思っているだろうがな。


「ムグググ。」

「あ、ごめん。ちょっと色々あってね。」

「ぷはっ。良いんです、こういうの慣れっこだから。」

「それ、多分いじめにあってたんだろ。その酷く人に怯えている態度は、いじめじゃないにしろ何かしらの対人関係のトラウマがあったのは確かだ。」

「す、すごいです!一瞬でそんなことまで分かるなんて探偵さんみたいです。」


探偵って、普通にこの子の異常な様子を見れば察しがつく。

他の5人だってあの短い時間でも状況を理解するために、普通の会話をしながらも周りの様子を探っていたしな。


「ちょっとした考察だけどな。それで俺になんか用。」

「あ、あ、えっと。さっき召喚?された時に居た人だったので声をかけてみたんです。だ、だって、元の世界の人って私含めて7人しかいないんですよ。こ、心細くて私のこといつか嫌いになる前に誰かと仲良くなっておこうかなと。」

「それなら年齢の近い男子学生の方が良かったんじゃないか?」

「あの人はキラキラしていて近付きにくいというか。あっあっ、その、いや、別に貴方がキラキラしてないとかそういうんじゃなくて。あの中で1番あ、安全な気がしたから。」


なんて不用心な奴だ。

あの服が俺の見たことがある気がする囚人服と同様なら全員犯罪者だ。それは俺も例外ではないだろう。そして、この子も。

考えたくもないし、許せないが今は記憶がないだけで悪事を働いていた可能性がある。

でも、この子の言う通り誰かとコミュニケーションをとっておくのも悪く無いかもな。


「俺は 一ノ瀬 勇。誰かと仲良くなっておくってのも確かに大事だな。いつでも話しかけてくれ。話し相手ぐらいにはなれるだろう。」

「わ、私、小原 若葉こはら わかばって言います。エヘ、エヘヘ、お友達、これってお友達って奴ですよね!」


この子は脆くて儚い。

俺以外にも他の人と接点を持たないと世の中では生きていけない。

この先で上手に交友関係が築けるか心配だ。


とりあえず、部屋に戻りながら雑談をした。

お腹も減ってきたし、他の人の情報も知りたいから食事の時間が楽しみだ。

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