犯罪者から勇者にジョブチェンジしました〜異世界を救う7人の犯罪者〜

風野唄

一章 商業都市 アロット

第001話 集められた7人の勇者


(・・・体が重い)


目が覚めて最初に抱いた感想はそれだった。

二日酔いにも似た、酷く嫌気の差す目覚め。

このままもう一眠りしようかと思ったが、ぼやけた視界に映る光景が妨げる。

映画のセットにしては本物の様な出来の王宮の広間にいるのだった。


それに加えて威厳のある玉座に座る国王らしき人物とその横にただ静かに立つ綺麗な顔をして女がいる。


まだ夢の中にいるかと思い、腕を摘むが痛覚ははっきらとしている。

これは何が起こっているのか。


「ようやく目が覚めましたか。7人目の勇者よ。」


7人?


バッと辺りを見渡すと俺以外にも似たような状況に遭遇している人物がいることに気付く。

 

周りには俺を含め7人の人間がいる。

それも同じツナギを着ているみたいだ。

なんか色合いがダサいのはこの際問題点ではないか。


この人達エキストラにしては表情に恐怖や困惑の色が見えるな。

他の人も本気で怖がってだとすると、これはどういう状況だ。海外のどこかで捕虜として捕まっているのか。


「さっきから勇者、勇者って言ってますけど何かの撮影だったりするのですか?」


1番最初に口を開いたのは、40代ぐらいの男性だった。


他の人達も自分達がいつ呼び出されたのか分からないので混乱しているようだ。


「撮影というのが何のことかは分かりませんが恐らくは違いますな。ここは貴方達にとっては異世界とでも言われる世界”イザール”。その中の”アロット”という名の国です。」


「い、い、異世界?な、なな。」


「落ち着きなさいよ。あれもセリフの一部か何かでしょ。異

世界とかフィクションの中の話よ。」


「で、でも。私、ここに来るまでの何をしていたか覚えていません!」


「それはそうだけど。じゃあ、何よ!本当に異世界に来たとでも言うの!?」


「ひっ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」


喧嘩を始める2人の女性。

こんな状況下に置かれているのだから精神的に不安定になっていたとしてもおかしくはない。


先に喋り出した女子学生の言う通り俺達がここに来る直前の記憶がないのだから。


覚えていることと言えば、今まで何気ない日常をただ平凡に暮らしていたことだけ。


「申し訳ないがこれは本当の話です。私達が貴方達の下に描かれた召喚陣で呼び出させていただいたのです。それでも信じていただけないとなれば、これで信じていただけますか?【炎魔法】"ファイア"」


王の手からは炎がボッと作り上がる。


舞い上がる炎は決して消えることがなく、いつまでも手の上で燃え続けている。


マジックなどで一瞬作るとかは見たことがあるけど、ここまで長い時間ハッキリと維持していることは難しい。


これは魔法なのか。本当にあの王が言う通り異世界に来たとでも?


「ここまで説明で自己紹介が遅れましたな。リーデン・アロット。この国の17代目国王です。そして、隣にいるのが私の妻のキュレーべ・アロットです。」


「ほほう。あれが国王様の妻か。これまた奇妙なことがあるな。」


「本当にそうですね。娘さんくらいの歳だと言われても信じてしまいそうですよ。」


男子学生やおじいさんも口を揃えてそう言った。

正直、俺もこの隣にいる女性が王の妻とは見えないぐらい若く見える。


しかし、今はここに連れてこられた理由が知りたい。


「はいーはーい!ちょっといいですか?なんで私達、ここに呼ばれたんですか?」


「それは、貴方達勇者様にこの世界を牛耳っている魔王を倒していただきたいのです。」


「ま、ま、魔王ですか?あのゲームとかでよく聞く?」


これは、よく漫画やライトノベルであるような異世界転生のような出来事が俺の身の起こっているようだ。

そんな現実では絶対にあり得ないことを飲み込むのに時間が掛かる。


もし仮に本当にそうだったとしても、何故俺なんだ。それに他の人にしたってそうだ。

戦うことに長けていそうな人間なんて1人も。


「もちろん、魔王と戦って討伐するのは簡単なことではありません。なので、討伐した暁には褒美をあげましょう。それは、この国に伝わる秘宝でなんでも願いを1つ叶えてくれる物を。」


なんでも1つ願いを叶えてくれる秘宝だと。

それは喉から手が出るほど欲しくなるな。


いや、それだと疑問がまた新たに生まれてくるな。


俺はここで質問を投げかけてみることにした。


「なんでも願いが1つ叶うなら、何故それで魔王を殺さないのですか?そうすれば、こうやって俺達を呼ぶ必要もなく平和になっていたと思うのですが。」


「それはできないのです。確かにこれはなんでも願いを叶えてくれる。しかし、生死に関する願いだけは叶えてはくれないのです。」


生死を操ることはできないのか。

他の人もこの状況も少しずつだけど飲み込めてきたようだ。


「この真偽は置いておいて面白そうだから僕は参加してみてもいいですよ。」


「そうだな。これもまた1つの出会い。面白い体験が良い作品を生み出すしな。」


「まぁ、ここで駄々こねてもどうにかなる訳でもなさそうだしね。」


「こういうのは助け合いの精神ですよね!賛成です!」


「み、皆さんがやるなら、わ、私もー。」


7人中5人が賛成している状況か。

1番最初に撮影か疑っていた男性と俺がまだ決断を出していない。  


「5人も賛成していただきありがとうございます。それで、そこのお二方はどうなさいますか。もちろん、断っていただいても、乱暴に扱うなどはありませんのでご心配なく。」


「俺はその心配はしていませんよ。今は情報が少なくて、判断するのには時間が掛かってしまいます。ただ、それだけのこと。迂闊に判断して後から地獄を見るのは嫌ですからね。でも、今は従っておくのがベストのようですね。」


この人はずっと来た時から一貫して冷静さを保っている。

俺もこの人のように冷静な判断をしなればいけない。


「魔王の討伐を決める前に1つ質問してもいいですか。」


「不明にことは答えられる範囲で全てお答えいたしますよ。」


「褒美やこの国に置かれている状況とかは分かりました。でも、俺達がこの異世界から帰る方法が分からないのです。魔王を討伐した後に元の世界に返してもらえるんですか。」


「それはできないのです。召喚陣は一方通行で一度入ったら元には戻れません。あちらの世界からこっちの世界とを結ぶ召喚陣を作れば可能ではありますが。」


戻ることはほぼ不可能ということか。


この世界で生きていくしかないのだとすれば、魔王の討伐を抜きにしても強くなっておく必要があるな。

だとすると、従うフリだけでもしておくのが良いかもしれない。


「分かりました。俺も魔王討伐の参加をしましょう。」


「7人全員から参加の意思を聞かせていただけるとは。本当にありがとうございます。」


国王は自らの頭を深々と下げた。


まだ魔王を討伐できるかも分からない俺達に対してやけに腰が低いのに違和感を感じながらも、俺達は国王の言葉に耳を傾けた。

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