第15話 熱い告白

さてさて、いい感じに敵の腹をえぐれたね。

致命傷だけど相手が魔法を使う以上、何をしてくるかわからない。


「クヒィちゃん、とどめを刺しておしまい」


「ぎょい」


なんか”御意”って前世で視てた医療ドラマでよく言ってたから医療用語なんだとずっと思ってた。

そんなこたぁどうでもい。


「はぁ‼‼」


クヒィが放った火炎弾は一直線に敵の方向へ飛んでいき、炸裂した。


「いやぁよくやったよ」


「ありがとうございますぃ!」


僕はクヒィをよしよしする。


「ほら見てみろ、あいつもう目も当てられないくらいにめらめらと燃えて……」


目も当てられないくらいにめらめらと…


「燃えて!!??!?」


森が赤々と燃え滾る花を咲かせている。


「なんてことをしたんだっ‼‼」


僕はクヒィをぺんぺんする。


「ぃたっごめんなっいたっさいっぃいたい……」


カミィ、もといヴァルテン消防団発足!



シューーーーーー



「放火魔によるセルフ消化とか…いよいよ歩く環境破壊と化してきてる…」


「ふみまへん…」


というわけで身勝手な船乗りシンドバッドになってもらいました。


そんでもって鎮火完了


「あぁりゃりゃ、跡形もねぇべさ」


黒装束だったからなぁ。まぁどっちにしろ殺すつもりだったけど何かしらの情報を掴むべく持ち物とか顔とか把握しようと思ってたのに…


「丸焦げだべさ!」


「だべ……はいっふみまへん」


ちなみに僕は北海道に行ったことがないだべさ。


まぁ倒せたからよしとするか。


「まぁ、こないだ倒した魔物と対峙した時にぃって説明すればいいよ」


「パァアアア」


あんまそれ口でやる奴いないけどな。


「よしっそうと決まれば今日中に街に行くぞ!」


オオォォォォォォォォォ…




―――――――――――――――――





日もすっかり落ちて…


「つ…着いたぁ…」


前の街とは少し感じが違う。なんというか、おしゃんてぃ。

街灯もあって家々には光が灯る。何ともまぁロマンチック。


「とりま旅人宴バンクエットに行って金を得てから宿に行こう」


「ねぎまっ!」


ねぎ……そう、僕たちには金がない。正直そんなに金は要らないんだが、羽休みの間に何かといるからね。


というわけで


「おかえりなさいませ」


「おぅただいま」


クヒィがきょとんとしている。


「こちらはヴァル様のお家でいらしたんですか?」


「ちゃうちゃう、ここではそー言われんの」


道中で旅人宴バンクエットを含めある程度の常識は叩き込んできた。



~かいそーしーん~



「いいか、食い物以外は食ってはならん!」


「えっ!」


「トカゲは食いもんじゃない!」


「えっ!」


「調味料を使って素材の味を楽しみ過ぎない!」


「えっ!」


「肉は焼いて食う!」


「えっ!」


「服と体は洗う!」


「いやそれくらいは知ってますけど」


「えっ………」




~かいそーおわり~



とまぁそんなわけだ。前世の常識はこちらの世界でも基本常識のようで、さして困るようなことはなかったのだが…

どぅにも元動物のクヒィにとってはそれがそうでもないらしい。


本能のままに野山を駆け抜けふるさとを感じていたかつてとは異なり、人としての秩序を意識し、それに囚われる身になったのだから。


「成果報告をしたいと思いましてね」


「でしたら倒した対象の証明となる部位をお見せいただければ」


そう来ると思いましてとっておきましたよっ!

こないだ倒した魔物化したオオカミくん。その四肢。


「なっこれっっ‼‼」


そういうと受付のレディーは「テンチョー」と叫びながら奥の方へ行ってしまった。



数分後



「おっお待たせいたしました…」


出てきたのはカッコイイ老紳士。おそらく彼が店長マスターだ。


「それで店長マスター、いかがかな?」


「マス…はい、こちらをどこで…」


むっ、こやつ疑っているのかぇ。


「あそこをバァっていったとこでぶん殴った」


「な、なるほど…君、この方々を奥の部屋へお連れして」


え、事情聴取ですか。褒めてよ。





「改めまして、ここの支店を任されております。店ちょ…」


「マスター、堅い挨拶はいいさ。それでどうしたってんだぃ」


「マス…はい、貴方様…ヴァルテン・ヴァーレン様がお倒しになったのは魔物であると見受けられます」


ほぅ、なかなか見る目あるじゃない。


そもそもあれを見分けるのって簡単ではない。

何も知らない君たちに教えてあげるがね、魔物は元動物と言えど見た目こそそのままだが根本的にはその原型をまるで留めていない。


でなきゃちょっと魔力を手にしたからってあんなに強くなるわけないじゃない。

簡単に言うと、生物的に進化を果たしたといった形かな。戦闘特化として。


だから見るやつが見れば魔物の肉塊かいなかなんてのはすぐわかる。僕みたいにね。


だからこのマスターと、特にあの受付の娘が見極めたってのはなかなか眼が肥えてるってことだ。職業柄かな。


「いかにも、そうであるが」


すると眼をギラつかせながらガタンと机を両手で叩き、マスターが前のめりに出てくる。


「やはり……やはり私の眼に狂いはなかった」


な、なんか眼がこわいんすけど……


マスターのメガネがキラリと光る。











「私、ヴァルテン・ヴァーレン様のことが大好きになってしまいました」











「………店を間違えました」









それは

風の吹き抜ける涼し気な陽気の季節

眼鏡をかけたイケオジとも言うべき老紳士マスターからの

熱い告白でした。

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