第14話 消える魔球

前方約2キロメートル先に魔力確認

射出速度、進行方向、移動性質から我々への攻撃と認識


「クヒィちゃん、やっておしまい」


「ぎょい」


無系統じゃないな。この速度、正確性。

光の如く、鋭く迫る魔力の塊。


対するは迎撃体制に入ったクヒィちゃん。


「ふぇ!」


クヒィは天を仰ぎ手のひらを迎撃対象に向けると多大な魔力を放出した。


先の眩しい魔力に命中、相殺した。さっすが


ただお相手さんはどっから攻撃してきたんだ?

最低でも2キロメートル以上は離れているらしい(クヒィ曰く)けど、肉弾戦に持ち込まないとなるとなかなか厄介だなあ。


「時にクヒィ君」


「なんでしょぅ」


「僕の故郷にはね、もともとパンピーだった奴が生まれ変わって意識そのままに最強になるっていうお話がいくつもあるんだ」


「??????」


クヒィは怪訝な表情でこちらを見ている!


「おとぎ…話的な感じでしょうか」


「その通りだクヒィ君。でだ、そういった最強となった主人公たちは当然現役でありながら指南役にも抜擢されるわけなんだが……あぁ迎撃しながらでいいよ」


絶えず降り注ぐ魔力弾をクヒィに全て撃ち落としてもらいながら、僕は話を続ける。


「たださ、理不尽なまでの強大な力を唐突に得た素人がさ、これはどうやったら真似できますか、強くなれますか、なんて言われて答えられるわけないじゃん。だって所詮スキルやら加護やらにふんぞり返って、持て余すに相違ない技術以上の才能で蹂躙してるだけだよ?教えることなんて何もないじゃない。え、一回死んで来世に期待しろってことですかぁ?」


「なぜ私に怒るのですか…」


「とにかく、いい選手がいい指導者になるとは限らないってのは、そいつがただの才能の塊だったってだけの話。教えられるような努力をしてねぇわけよ。つまりだな、努力だけじゃ才能を越えらんねぇけど、長い目で見ると努力した奴のほうが選択肢が多いってこった」


「つまりなにが仰りたいので…?」


さっき僕「つまりだな」ってかっこよく言ったよね?

もう結論づいた気がするが…


まぁ言いたいことを要約するとすれば





「僕みたいな才能あるやつが努力したのが最強なんだよ‼‼」





極眼きょくがん





毛様体筋…眼の水晶体の周りにあるこの筋肉が緊張したりゆるくなったりすることで、人間は水晶体の厚みを調節しているわけだが、このピントが合わせられなくなると、いわゆる”視力が落ちた”状態になる。


これを自力で治すことはまず無理だが、魔力を用いた場合、その限りではない。


眼に身体強化を施すことで先の工程を魔力で助長、それにより機能性のさらなる進化が可能なのだ。知識はないが、僕の緻密な操作と感覚的な試行錯誤を繰り返し、完成した視力を超アップさせる技、極眼きょくがん


ここなら山頂に近い分見渡しやすい。

ぐぐぐっと魔力弾が飛んでくる方向を逆算して森の奥を凝視します。


「あ、いた」


この魔力弾を放っているのは……人間?いやそんなことより…


「く、黒装束だぁ‼‼」


「なっあの時の」


とりあえず大体の方向を指さしてぇ…


「とりあえず撃ち返してみなさい」


「はぃ!」


ドンッ


「やっぱ避けられるよねぇ」


「タダノカンキョウハカイダァ」


あの時クヒィを襲っていた奴。なかなか手ごわそうだった。


とはいえ、前の時とは少し感じが違う。なんとなぁく違う。

もしかして別人なのか?だとすると、僕たちを狙ってくるあたりやつらは仲間か。

なんといっても服装が同じだし。


いずれにしろにしろこいつは遠距離型。


「なら間合いを詰めようの会、発足!」


僕とクヒィは山を駆け下り距離を詰めにかかる。

当然目を離さないようにしているわけだが…


「んもうっ、速いこいつ」


僕らとほぼ同速度で移動してやがる。

クヒィのスピードに合わせて僕がゆっくり走ってるとはいえ、それでも速い部類だ。

やはりこいつなかなかやりおるわ。


「ヴァル様、私は構いませんので、どうぞ先にお行き下さい」


「ん~」


パッと僕は急停止する。


「ぃやっぱやめた」


「んなっ、ヴァル様!?」


僕とは裏腹に驚きの色が隠せないという感じのクヒィ。


「崖の方に行くぞ」


「??…はぃ」






―――――――――――――――



「んん~ん、いい眺めだねぇ」


僕は深呼吸と共に目一杯背伸びをする。


「あのぉ…」


「ん、心配することないよ」


クヒィとは裏腹にさっきからニヤけがとまらない僕。


「全てえている」





 《神術 万象途絶》










―――――――――――――――――



「やつらがこちらに迫ってくる気配が無くなった。あの人間ともう一人…聞くにあれは元魔物なんだとか。あれほどまでに、いやそもそも本当に人型になっているとは。これはいい研究材料になりそうだ」


俺は、そう狙撃が得意。

 黒のローブを身に纏い、相手が距離を縮めらんねぇように素早く動いてこっちは遠距離から攻撃を続ける。

 俺は魔力探知に長けているから姿は見えないが魔力の形で遠くのもんも見えるし、端から遠距離練習してもねぇやつの攻撃を避けるなんて造作もない。


俺ほどノーリスクで耐久に持ち込み、ジリ貧で勝てるやつぁいな…


「ん?」


男の方が何かしてくるか?何か持ってるな。ん?こっちに投げてくるか。無駄だ。そんなもんヒョイと避けて……








その瞬間、俺の腹に風穴があいた








「んンがあぁあゔぁ!?」


何が起き…石?今石が俺の身体を通り過ぎていきやがっだ……

あいづらか…魔力探知…ん…?

男のぼうが…既に何がを投げ終わっだような体勢に…!??

あり…得ん…俺の魔力探知を潜り抜けで…ごの距離を…一瞬で


「お、おでの腹がぁ、ぐゔぁっ、どういうこ…」





バタンッ





――――――――――――――――――――――



そ、僕のせいです!

万象途絶使ってる間に石に魔力をこめて全力投球!


2キロメートルってことは大体120km/h で投げればちょうど一分で到達する。

無機物に魔力こめるってのはぶっつけ本番だったが、存外うまくいったな。これも幼少期から身体強化の研鑽を積み、魔力というモノの扱いに対する努力を惜しまなかったからこそ成せること。


んで、敵に気付かれる間もなく一分弱滞空した石はちょうど一分後にあいつの腹をえぐった。

まぁはたから見れば僕が石を投げたと同時に石が瞬間移動したように見えるわな。







そう、これこそが真の





「応用神術

 ―― 消 え る 魔 球 ――」

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