第13話 理系
「クヒィちゃぁん」
「はぁい」
我々が現在こんなにも腑抜けた会話をしている理由は、そう疲れたからだ!
早く休みたい、ふかふかのベッドが欲しい、今っ‼ここにっ‼‼
「私、波動みたいなの撃ちたいのだけれど」
そう波動。ビームとかそういうの。
「あらやだヴァル様、そんな欲をお持ちで?造作もないことですけれど」
この人簡単に言ってくれてますけどね、それはあんたが魔法の天才だからそう思うのよ。
僕らは今、街を目指している。まぁ街を目指してるのは年中なんだが、前回のとこから最も近い街を目指し日々歩を進めている。
馬車とかで行ってもしょうもないもんなぁ。旅ってのはぁ自分の脚で歩かなきゃぁね。
それにこういうのって一回甘えると二度と戻れなくなるからな。一回目をしないことが長続きの秘訣だよ。
でもそろそろ辛いんだ。まともな風呂、食事、寝床etc...とりあえず屋根が欲しい!
ほんとに宿屋さんに洗濯の魔石を買っといてよかったのだ。これのお陰で少なからず爽快な気持ちで毎日生きていられる。
そのお礼をするためにも、倒した魔物とかを早く
で、話を戻すと、前にも言ったが僕には身体と魔力を切り離すという感覚が分からない。
故に無属性だとしても撃てるであろう魔力を飛ばすだけという簡単なお仕事さえも僕にはままならない。つまりは僕に波動は撃てまへんってこった。なんてこった。
「なんというかイメージがわかないんだよなぁ。魔力って僕ん中じゃぁ血液みたいなもんだと認識してるし」
「そぉですねぇ…端的に言えば物を投げるのと同じような感覚ですが」
クヒィが首をかしげてそう答え、続けてひらめいたように目をかっぴらいて手をポンと叩く。
「あ、そうだ!物に魔力をこめて投擲してみるというのはいかがでしょう。それか得物に魔力をまとわせて放つ、とか」
「にゃるほど」
確かにそれなら僕にもできる。元より身体強化は僕の十八番だし、物に魔力をこめるのはさして難くない。投擲もそうだが、得物…例えば刀とかに魔力を注いで放つ感覚が分かれば斬撃もできるかも。
武器持つの荷物が増えるからぃやだったけど、そういうことなら話が変わる。それに鞘とか腰にかけてたらかっこいいしね。
「次の街で武器屋に行ってみるか」
「はぃ♪」
自分の意見を採用されたからか、いつになく嬉しそうなクヒィくんですねぇ。
「でもいつか飽きた時とか持つのめんどくなりそぅ」
僕がそう言うとクヒィはぼけぇっと空を視ながら口をあんぐり開けてよだれを垂らしている。
これは彼女が考え事をするときの癖だ。そんな矯正させるほどのことじゃないかと思って特に何も言っていないが、毎回クヒィのよだれを拭くのは僕の係だ。
「それなら…」
僕が口元を拭いてやろうとハンカチを持って近づいた時、ふいにクヒィがつぶやいた。
「それなら闇系の魔法で圧縮すればいいんじゃないでしょうか」
こいつさらっとえげつないことを。
「んなことできんのか」
「えぇ、なんとなく今思いつきましたけど」
魔法のことが全然わからないあなた方のために解説しますけどもねぇ、魔法ってのは創るもんじゃないんですよ。
生まれた時そこに大地があるように、人間が考えたり存在したりするより以前に魔法ってのは概念としてこの世界にあるものなのだ。
つまりは魔法にはトリセツがあって、それに則りかつ最大限引き出した者を優秀な魔法使いと呼ぶ。
だのにこいつぁ、思いついただと…?
「して、その要領は?」
「えぇっと、要は物体の中心に引力のようなものを作用させて、全角度全方向から同等の力が加わればギュッと縮まるかと。元に戻すにはその逆をすればよいのです。同じ力で全方向から引っ張ってやれば」
「それぶっ壊れんじゃ…」
「いえ、厳密には自然的なソレではなくて、あくまで私が意図的に発生させた擬似的なものですのである程度融通が利きます。だから分子、原子レベルで均一に動かして……」
「理系はだまれ‼」
「つ、つまりは金属が凹んでも元に戻る的な」
「理解してしまった」
ま、そんなこと武器買ってから考えればいい話。いまはまず街に行きたいんだぁ!
ここから街までだいたい…地図的には…そうだな…まぁ頑張れば…今日中に…着く…かも…?
そんなことを考えていた矢先だったよ。邪魔が入ったのは。
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