第12話 勝手が良すぎるシンドバッド
クヒィと出会ってはや三日、僕たちは戦うことになりました。
というのもですね、よくよく考えてみればこの娘、元は野性なわけで僕なんかより自然に馴染んでるんですよ。どうにも癪だ。僕がこれから旅先輩としてあることないこと教えようと思ってたのに…
んで、なんかこう、マウント取れるもんないかなぁって考えてたら思ったわけだ
――こいつ
そゆことで今戦ってみようということになりました。
「遠慮はいらないから全力で来なさい」
「承りました」
お互い
僕は全身へ魔力を循環させ身体強化を施す。気持ちィ
クヒィが両目を開けた……来る‼
「
良い名前してんじゃない。いつの間にこんなん考えたのさ。
こいつ全力とは言ったが魔力を全解放するとは思わなんだ。イカレテル。
「ッ‼‼」
この娘、魔力量だけなら僕以上だ…
なんだこの迫力、濃さ、質感は。とんでもなく凄まじい。もし僕を殺せる者がいるとすれば…
「行きますよ!」
バシュッ
そうクヒィが言った時には既に僕の拳は彼女の眼前に来ていた。
「ん~溜めが長い」
「んなっ‼」
グーがあたる直前でクヒィはなんとか身をかわす。いい柔軟性だ。とはいえこの娘、これだけの魔力をもってして僕の動きについてこれないとは組手の才…身体強化の才が無い。
魔力とは感覚そのもの。具現化できないし言い表しようもないパッとしないものだ。強いて言うならそれは身体の一部で、言ってみれば原材料が”僕”でできた鎧や武器みたいなもんだ。その感覚が無い限り、身体強化は使いこなせない。
ただ、それはあくまで身体強化での話。魔法としての身体から分離された構造としての魔力はその感覚を必要としない。
逆に言えば魔法を使えない僕からすれば「魔力を身体から切り離す」という感覚がわからにゃい。
そしてそれはこの娘の場合…
「
「あてはまんねぇよなぁ‼」
やはりクヒィの得意は魔法か!良い、凄く良い。そのまま僕を楽しませろ!
「
「ほぉ」
クヒィの周りを水が囲ったかと思えばその髪色が澄んだ水色に変わっている。
服も蒼を基調とした船乗りを彷彿とさせるデザインに変化している。そいやぁこいつの服って魔力でできてたなぁ。
「水鉄砲っ!」
クヒィの手元に透き通った水でできた銃が生みだされる。んで僕に連射してくるわけですよ。
「っぎ」
これ速いし連続でくるし避けるのがっ…きついっ。
ふと水鉄砲の当たった背後の木を見る。
「おま、これ強すぎんか」
なんと木に数個穴が開いているではありませんか。
こりゃ当たればやばいなんてもんじゃない。
「え、お前仲間だよな?」
「えぇ、全力でやってます」
これ残弾数とかいう概念ねぇな!無限に生み出される水とは相反して水弾の生成に要する水の量が少ない。待っていても仕方ない。
とりあえず射程が長い相手には、間合いを詰めるのが定石!
僕は間髪入れず飛んでくる水弾をかわしながらクヒィに近づく。
「んじゃあこっちも
「っん、グハッッ‼‼」
一発腹にいれたったど。
さぁ攻撃当てたなら引きましょう。なにも遠距離攻撃だけがクヒィの全てじゃない。でかいの一発0キョリでぶち込まれたらたまらん。
「ヴぁるざまぁあ////////////!!」
えなに、なんでクヒィは腹パンされて赤面してんの?
こわっ。
「え、いや、やばいやばいやばいなにその背後のでかい水の塊」
クヒィの後方に文字通りでっかい水塊があれよあれよという間に集まっていく。
それで僕をどうしようと…
「
クヒィは二本指を立て、それらの指先を水塊に向け、そして…指先を僕に勢いよく向ける……
「おいおいおぃ…」
振りぬかれたクヒィの腕に呼応するように、滝が如くすさまじい水圧のレーザーともいうべき多量の水が僕に迫る。
「スンスン…潮の香り…?」
そうか、純水だと思っていたこの水は海水だったのか。
てことはあれだな、これ浴びたら僕の服がベトベトになる。これで確実によけなきゃならなくなったわけだ。悪質な嫌がらせしやがる。
「…ん?ちょったんま」
これはぁ…
「?はぃ」
よしよし良い子。さっすが、発動済みの魔法も静止させられるとは恐れ入った。やはり魔法の才が桁外れだ。存在が伝説級なだけある。
で、止めてもらったのは……こいつだ。
「クヒィ、僕から見て前方に魔物の匂いがする」
「んなっ」
何故僕が感知できたか、それは嗅覚も身体強化で研ぎ澄ますことができるからです。
「なぜ私は気づかなかったのでしょう…」
「魔物は元が動物なだけ強いがその肉体は動物の頃のものに依存するからなぁ。眼前の例外を除いて」
「てへぺろ」
そう、つまり魔力だけで身体が構成された”モンスター”とかなら魔法に敏感な者は感知しやすいがそうじゃない魔物は僕みたいなやつのほうが気づきやすい。
ま、逆に言えば僕はモンスターの気配とかぜんっぜんわかんないんすけどね!あいつら匂いとかないし。
「でどうする。多分襲ってくるが殺すか?それとも元魔物として胸が痛」
「
……えぇ
「いいの?感情とかもってるかも」
「いえ、魔物状態の時は喋るは喋りますが、自我はあってないようなものですから。相当心を揺るがす事が起きない限り私のように自我を確立しません。力に当てられて生き物を襲い続けます。なので基本全部害です。敵です。殺しましょう!」
よくしゃべるなこいつ。まぁ得意分野だと早口になるよなわかるわかる。
「じゃあ、いくぞ!」
緩んだ気を引き締める。
ガサガサガサ
草むらをかき分けて二足歩行の狼のような奴が飛び出してきた。
「へっへっへぇ、俺様に殺されるのはお前らかっ!」
うわ、自己肯定感高っ。これ絶対自分最強とか思ってるやつだ。イタいわぁ。一番強いの僕なのに。
「んだよ、オスの魔物ってのは全員一人称『俺様』なのか?」
「知りません」
「俺様をハブるなぁ!」
ま、二人で殺る分、こないだのくまさんよりは楽かな。
「僕が隙を作る。そしたらお前はそのでかいのをぶち込め」
僕はさっき僕をベタつかせようとした水塊を指さす。
「りょです!」
「おい、前見ろ」
二足歩行のオオカミくんがクヒィにとびかかってきていた。
「んなっ」
《神術 万象途絶》
――――――――――――――――――
どういうことでしょうか…?
私に向かって宙に飛び上がっていた筈の魔物が一瞬にして地面に打ち付けられている。
そして魔物の腹には無数に殴られた跡。
「一体、なにが…」
「クヒィ」
右に目をやるとヴァル様がこちらを見ていらっしゃる。ニコニコで。
「
はっ、そうだった。
「はいっ!」
「
――――――――――――――――――
お察しの通り、僕のせいです。
オオカミを一分間滅多打ちにしました。
いやまぁ正直僕が殺してもよかったんだけど、
クヒィが放った水はオオカミを跡形もなく消し去り、なんなら地面をえぐった。
「
そうクヒィが唱えるやいなや、容姿が元の白髪に戻った。
「それがいちばんバランスがとれてるわけだ」
「えぇ、この状態なら偏りなく攻守が可能です」
「よろしぃ」
今更だがクヒィに猫耳とかないからな。勘違いしてんじゃねぇぞ。
「お前の水が飲めたなら楽なんだがなぁ」
「飲めますよ」
「え」
こいつ僕に海水飲ませて脱水症状にする気じゃないだろうな。
「ろ過しますので」
「あらやだイケメン」
なんでも浄化する魔法が使えるんだとか。でもそれって別系統の魔法じゃ…まさか…まさかこいつ……
「全属性…持ち…」
「?」
まさか、まさかな…
「いや。水はできたか?」
「はい、どうぞ」
僕は口を大きく開ける。
「あぁ~」
そこにクヒィが手をかざす。
「いきますよ」
「あぃいふほほうぁははひはへはぉぅ(湧き水のような優しさで頼む)」
ゴクッゴクッゴクごくごくごく……
「っぷはぁ、いやぁうまかった」
なかなかでした。
「んにしても早く言えよな。どんな顔して僕が川の水をむさぼっているのを見てたんだよ」
「いやぁそいえばそぅでしたね」
飲み水があるってことはもうこの旅勝ち確や。なんかそれが印象に残りすぎて今日何してたか忘れた。まいっか。
宿屋でもらったこの石どうしよ。ま、服洗うのはこの石の方が楽だしこっち使お。
だが「
全く、うちのシンドバッドときたら。勝手が良すぎる。
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