第11話 クヒィ・カリズ
街を出てから二日。
なんというか、なんも起こんない。こう、僕の心を揺るがす何かが起きないものだろうか。平和だなぁ。
ともあれ、僕はしげみのような、森のような、つまりは青々とした場所を歩いていた。
そんな時だ、僕の平穏な旅を揺るがしたのは。
クヒィイインん
?はて、なんのこえやら…
足元を見るに尾が九つに割れた犬や狐に似た珍妙な生物がズタボロになってうずくまっていた。
「おいお前さん、だいじょぶかいな」
クヒィ
こりゃだめだ。話にならん。さてどうしたものか。こいつを置いてくと人として何かを失うし、かといって僕に何かできることもないし。
「うーむ」
とりあえずこいつを抱くか背負うかして…
シュバッッ
背後に…背後に黒装束の男…‼?
まずい、ともかく間合いを…
僕は全力で地面を踏み切り、謎の男から距離を取る。
見るに、黒いローブをまとい肌が晒されているのは手と口元だけ。表情も読めない。
(こいつの気配はいったい…?)
なぜ僕に近づいてきた。なにが目的だ。何を考えている。
何もわからない。わからないがこいつからは嫌な感じがする。どこからともなく立ち込める陰湿なオーラ。ダークマターだ。
「っ…!」
ちがうっ‼こいつの目的は僕じゃない。この九尾の生き物だ!
こいつなにを…
キュィイいいいいいいイイン
《
「ぐゔはっ」
青き光が放たれた瞬間、間一髪で割りこめた。だが一秒弱程こいつの光線を浴びちまった。身体に赤き電撃が走り、肉体がっ…
「ぐはっぁはぁはぁ…」
浴びた瞬間に止めれたからいいものの、これをまともに食らってたらやばいぞ…
こいつの目的は不明だが、いずれにしろろくなことしようとしてねぇ。
「痛みを治めるのに結構時間使っちまったなぁ」
のこり数十秒で可能とすればこの光線の軌道修正ぐらいか。
僕は脚に集中して魔力を注ぎ込み、そして残り一秒!
回し蹴り上げるっ‼‼
カァアアアアアアアアアアアアン
「っな…!」
っぶねぇ、ぎりのぎりだ。驚いてるねぇ黒装束さんよぉ。
クヒィ!
おや、驚いているのはこいつもかい。この
いずれにしろこいつの目論見は阻止でき
振り返ると
(っ!甘かったっ‼)
万象途絶も連続使用はできねぇし…こ、これはさすがにやば…
クヒィ!
この謎の生物が、満身創痍なその身体で僕を跳び越え、放たれた光に突っ込んだ。
クヒィいいいいいいいいいい……
こ、こいつ僕を庇って…今もその光線の中で痛みに耐えているというの…いや!この光…たしかに青くはあるが、この生き物の場所だけ青というより…蒼く
ッバンッ
…終わった、のか?
シュー
光が全方向に溢れたと同時に、その場には煙が舞い上がる。
「お、おい!生き物!だいじょうぶか!?おいっ生き物‼」
おや?
「お…お……恩人よ!」
へ?いまこいつなんつった。恩人?ってえっと……え、ぼく?
「恩人!大丈夫でございますか!?」
「えぇ、まぁおかげさまで」
うわ動物がしゃべってる。なんていうか見た目も熊みたいな狐の豆柴犬てきな、まぁよおわからん感じなのがしゃべってる。
人語を解する人外…まさかこいつ、魔物化したのか!?
「ほぅ、これはなかなか…」
っ!
この
「なッ、貴様恩人に手を出す気か。来なさい私が相手を」
いいかげんその呼び方やめてくれませんかねぇ。なんというか、逆恩着せがましいというか…恩着せられがましいというか……
「ククク…いぇ、今日はこの辺で…クク…」
「んなっ、おい待…」
ところで全然関係ないけど今日万象途絶使うとき《-神術-》って言えなかったなぁ。まぁ急いでたからしゃぁなし。次頑張ろう。
「まぁ逃げっちゃったなら仕方ないさ。それよかお前…なんなんだ」
おどろいたという顔で、くりんとした曇りなき眼でこっちを視てくる。
「んなっ私は恩人に助けていただきました。恩返しがしたいです」
なんと横暴な。
「いやいいです」
そもそも僕も助けられたっちゃ助けられたし。
「そこをなんとか」
「いやです」
そもそもこんな得体のしれないもんをどうしろと。
「僕旅してるもんだから。ほらあっちいった」
「わたしもいきます」
万象途絶使って逃げるか…
いや、これだけ力がある獣なら荷物持ちとかにもできる。
「まぁ連れて行ってやっても…」
「あ、待ってなんか進化しそう」
「ほへ?」
進化しそうとは。おいどっかにBボタンないか。誰か連打しろ。
このなんとも言えない生物は先の蒼にも似た光を全身から放ちながらその原型をつくり変えていく。徐々に、徐々に大きくなり、手足が伸び、ウエストは引き締まり毛並みが頭部へ集中していく。
あの、これ何年かかるんですか。
かれこれ20分近く進化の過程をみてるんですけど。途中までは輪郭とかくっきり見えてたのに、光が増し始めてから全然見えないし。
あ、この間に逃げれば…
その瞬間、前世の死んだじいちゃんの言葉がよみがえる。
(「いいか
じ、じいちゃん…‼‼わかったよ、僕このおかしい生物の進化が終わるのを待つよ!それが何分だって何時間だって何日だって、僕はずっと待
「おわりました」
「殺すぞ」
人がせっかく偽善行為で気持ちよくなろうって時に…ん?こいつ…
「人型になってますやん」
まごうことなき人の子である。
そして女だ。さっき私って自称してたのは伏線だったのか。
なんというか、ゲームで仲間にしたモンスターがメスだった感じのFeeling blue.
仮に一緒に旅するにしても「熱き男の友情、群青、苦情の旅!」みたいなのができると思ってたのに。欲情、発情、劣情に満ちた旅は前世のラノベで十分だ。
「よろしくお願いします」
「誰が連れてくと言った」
おい人を指さすな。
「では参りましょう」
まぁ仕方ない、歩きながら考えよう。
この娘、見た感じは二十歳にいってるかどうかくらいの若さで身長は僕と同じほど。髪は白髪で長く、全体的にも色白い。眼も白ワインみたいな感じで白っぽい。
進化し終わったときには既に衣服を身にまとっていた。そうだよ、この作品には性的描写は含まれませんので、ありがたい。
おそらく魔力か何かで構築した服を模した物だろう。僕がよくやる身体強化に文字通り色を付けた感じの魔法か。今度教えてもらお。
そして何より、この娘はもとは動物だということ。これは看過してはいけない案件だ。
この動物が人語を解し、あまつさえ人型となるという事例。
ここから推測するにこの現象は…
「〈
「なにか言いました?」
「いえなにも」
伝説…伝説レベルの話だぞこれは。
うわぁめっちゃかっけえけどめんどくせぇ。
伝説のキャラが
なにより僕の名声よりそっちが轟いてしまう!
「ところで恩人」
「ヴァルテン。ヴァルテン・ヴァーレン」
「ところでヴァル様」
「縮めんな」
「私の名前は…?」
こいつ…こういうときだけ小動物ぶりやがって。そんな泣きそうな子犬のような眼でこっちを視るな……ペットショップが恋しい…ん?
「あ、そうか。おまえ"名前はまだない"状態だったのか」
コクッ
「じゃあ”マダナイ”とかは…」
ブンブンブンブンブンブンッ
首を横に振るスピードが速すぎて残像が見える。阿修羅みたい。
そうだなぁ、なににしようか
(クヒィ)
「そうだ!じゃあクヒィ・カリズはどうだ」
パァアアアアア
喜んだようで何より。
「その”カリズ”というのは?」
「僕の本名」
「まさかの偽名だったとは…」
なぜそこでショックを受ける。
「まぁ僕のファミリーネームと同じなんだから良いだろ」
「えっ」
あ、勝手にファミ名なんてあげちゃっていいのかな。うーん。
ま名付けの親ってことならいいでしょ。
「とりあえず次の街まで行かなきゃなぁ。お前の冒険者登録しなきゃだし」
「ぼうけんしゃとうろく?」
「これ」
僕は得意げに金色のペンダントを見せつける。
まぁともかく、なんとかなるっしょ。
とりあえず今日は疲れたからちょっと行ったら休みにしよう。
クヒィに僕の美しいキャンピングテクを教えてやらなきゃな。
というわけで本日の成果
クヒィ・カリズ 仲間が増えましたぁ
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