第4話 第二の誕生

そうゆうわけで、なんだかんだ15歳になりましたぁ。


そう成人、大人なのだ。


 大人というのは数多の制約が解除される代わりに、ある程度の節度が要求される。


 まぁただこれは僕の持論だが、やったことの重要性よりそれに伴う責任の方が重要で、例えばいかなる大事を起こしたとしてもきちんと責任を負ってそれ相応の誠意を見せれば、まぁ大丈夫でしょって話。


 この世界の中では尚のことである。


 ここではある程度の法や決まり、禁忌などはあるが基本はモラルで判断し、道徳で人を裁く、なんとも人間的で無秩序な、それでいて慈愛と策略に満ち溢れた世界。


それが今僕が立っている、ココナッツ王国なのだ。


 なかでもここはその辺境の村。

たまぁぁあぁぁぁああぁにお国の役人が来てこの地特有の作物とかいろいろ渡して、お金をもらったりしているようで、友好的な関係で成り立っているようだ。


 おそらく王都にてそれを販売し、それを儲けとしているのだろう。


 王国自ら卸売りとか小売業をすることで、税負担を可能な限りかけさせないようにするという国の配慮とみえる。 まぁなんだっていいんだけどね。


 でだ、15歳になるまで家事、村の整備、地域貢献、清掃、村民の手伝い...孝行という孝行をこれでもかと親と村に捧げまくり、もうこれから僕が何しようと誰にも何か言われる筋合いは、まっったくない。

のでので、吾輩は旅に出たいと思うのね。


 「親父殿、少しばかりお時間よろしいでしょうかぃ」


 「うむ、申せ」


 「拙者も先日15になりました。もういっぱしの男...否!漢でごわす。おいどんもちと親元を離れまして、世の中というものをこの目で見てみとぉなりました」


 「おう、何を言っているのかよくわからんが、続けよ」


 「つきましては、今度の誕生祭にて立派に大人として生れ落ちました暁には、私旅に出ようと思っております」


 誕生祭…それは生物学的な誕生ではなく、社会的な誕生、すなわち大人に成ったというわけで、つまりは成人式のことである。


 毎年冬(この世界には四季のようなものが存在するが、呼称は定かではないので前世の記憶のもので呼んでいる)が明け、陽気が温かくなり始めると、村の人たちが祭りの用意をし始める。

その日は成人する子を中心にして昼夜問わず大いに盛り上がる。


そもそも若者が多い村ではないが、だからこそ盛り上がることができる。少ないとはいえ毎年必ず成人する子はなんだかんだ一人はいるから毎年開催されている。


僕もこれまで年上の人が成人していく様を何度も見てきた。


というかそもそもこの世界の人は伸びやすく老けにくいんだ。

15歳でもう20手前ぐらいに見える。



おっと話がそれた。話題と目線を父に戻そう。



 「え、うん。え…えぇぇえええ‼旅に出るのか我がせがれよ。なんともまぁ...‼昔はあんなにちっさくて…」


 驚くのも無理はない。だって今からマッモイの世話をしに行こうとしてただけなのに、そんな重要な話をされたんだから。


 「いや、だがこれは漢が決めたこと。漢として、俺にはお前を送り出す義務がある!行ってきなさい、我がせがれよ‼」


 「と、父さん...!」


 僕たちは泣きながら抱き合う。漢泣きだ。なにも恥ずかしいことではない。


 「なにやってんのさ、あんたたち」


 後ろに母さんがいた。


 「親子が抱き合って泣いて、恥ずかしい。するなら家の中でやんなさい、何玄関で親子愛確かめ合ってんのよ」


 「それが、母さん。僕旅に…」


 「え…えぇぇえええ‼旅に出るの、私の息子。なんともまぁ...‼昔はあんなにちっさくて…」


 ……ね。


 「ど、どうしたんだ親子三人玄関に泣き崩れて!」


 近所の人が驚いて走ってきた。


 「それがこの子、旅に出るみたいで」


 「え…えぇぇえええ‼旅に出るのか我が村の子よ。なんともまぁ...‼昔はあんなにちっさくて…」


 ………………………ね。


 「ど、どうしたんですかあなた。カリズさんのお宅で大声上げて。何かあったんですの?」


 今来た人の奥さんも来た。ついでに他の村の人たちも集まってきた。


 「それが、カミィ君、旅に出るらしい」


 「え…えぇぇえええ‼旅に…」


 割愛


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 そして誕生祭当日


 僕は明日出発する。僕意外に成人する子は今年はおらず、それは同い年の友達がいないことを意味する。

 これはそんなに珍しいことでもないし、一つ上にも、一つ下にも友達はいる。


 「カミィ兄やん、ほんとに行っちゃうの?」


 そう目を潤ませて聞いてくるのはビーフ家の兄妹、ストロガノフとナベビーフ。


 「あぁ、たまに帰ってくるから心配すんな、ガノフ、ナベ」


 ガノフは僕の一つ年下で、背は僕より少し低い。髪は茶色で少し逆立っている。

 なんというか、サッカー部の後輩みたいな感じ。ちなみに僕にサッカー部の在籍経験はない。


 ナベは二つ年下。兄のガノフと異なり大人しい子だ。

 兄と同じ茶髪は茶髪でも男と女だとここまで差が出るのかというほどになかなかきれいな髪質だ。


あと、あんま名前イジっちゃいけないんだろうけど「ビーフ・ナベビーフ」ってのはどうなんだ…?


 この村では子供が多いわけではない故に必然的に他の家族の子供とは兄弟のような仲になる。



 「ほんと?約束だからな」


 「あぁ、約束だよん」


 微笑ましい兄妹を眺めていると、一人の男が近づいてきた。


 「よぉ、カミィ。成人おめでとう。明日発つんだろう」


 「ワッサンさん。ありがとうございます。明日の朝には。これまでお世話になりました」


 クロワッサンさん、通称ワッサンさんは僕の一つ年上の男性。

 背が高くて、年齢よりも大人びているので見た目以上に大きい存在のように思える。

 昔から僕の面倒を見てくれいる兄のような存在だ。


 「ったく、俺はこんな場所にまだ残ってるってのに、いいなぁ。楽しい旅の始まりってのは。ま、俺にそんな度胸ねえけど」


 ワッサンさんは笑って僕の背中をたたく。


 「ワッサンさんなら大丈夫でしょ」


 「ははっ、でも俺が旅に出たいっつったとこで許してもらえねぇだろうよ。お前みたいに手伝いなんぞやったことなかったからな」



 ワッサンさんの自虐はあと三ターン続いた。



 「まあまぁ、あまりご自分を僻まずに。里帰りはするつもりなので、いずれまたお会いできるかと」


 「そうか。ま明日からは危険な旅だ。だから今日ははしゃごうな!」


 そう言ってワッサンさんは村の人たちが飲んで騒いでる方に歩いて行った。


 いや僕といっしょにいねぇのかよ。


――――――――――――――――


 「はぁい、ちょっといいか。これからカミィの誕生の議を行う。それに皆も知っていると思うが明日カミィは旅立つそうだ。その安全を祈るのとか、まぁもろもろ込みで行う」



適当過ぎじゃ…

夜になると、村長(自称)が火で照らされた木のステージというか台というか、そんな場所に立って話を始めた。


 「カミィ、こっちへ」


 「はぃ」


 僕は言われるとおりに壇上に上がり、胡坐あぐらをかいて座る。牧師様が僕の背後に立っていた。そして叫びだす。


 「これよりカミィ・カリズは誕生する。子としてではなく大人として、生まれ落ちる。唯一子供のままなのは、親の前のみである。ではカミィ君、復唱を」


 「これよりカミィ・カリズは誕生する。子としてではなく大人として、生まれ落ちる。唯一子供のままなのは、親の前のみである。ではカミィく…」


 「いや、そこはいい。ッゴホン。そして新たなる旅立ちに、神のご加護があらんことを。カミィ、人に成ったと告げなさい。それで誕生は完了です」


 僕は一息吸って言われたとおりにする。

 

 「私は今、人と成った!」


 うぉおおぉぉおおぉおぉ!!!


 周囲が歓喜の叫びをあげる。


 「ああぁ、カミィ。大きくなって....」


 父母が号泣している。


少し宗教染みているので恥ずかしいが、これがこの世界というものなのだ。


かつて、科学が無かった時代に説明できない事柄は神格化され、ある意味言い訳のように片付けられていた。


そして科学が発達し、今となっては科学を用いず、神を用いることは少なくなった。


それが、僕が元居た世界。


だが、この世界は科学というものでは到底言い表せない文字通り魔法の国であり、神秘的な意味ではなく事実として神の加護が存在する。

属性の適性検査もその一つだ。


だから宗教というより、食べる前に食材に感謝するような、そんな感覚でこの世界の人々は神を崇めている。


その後、僕はたくさんの村人に囲まれ、食べたり飲んだり、未成年が摂取しちゃいけない物も食べたり飲んだり、大騒ぎをし、誕生祭を終えた。




 人は二度産まれるらしい。一回目は存在するために、二回目は生きるために


 カミィ・カリズ 第二の誕生である。

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