第3話 うわぁぁぁぁぁぁああああああ‼

 そして僕は8歳になった。

 すくすくすくすく育ち、あっという間の5年間。とはいえ、地道に行った基礎的な魔力操作はそれなりにコツを掴み、それに並行して魔法への知識も増やしていった。

 魔法に関して分かったことはいくつかある。

 まず魔法には属性がある。火、とか水みたいなありがちなものばかりで、人によって適性が存在するようで、それに伴い扱う魔法や役職が決まったりするようだ。それを自覚するのは8歳頃らしく、魔法を使用できる人と練習を重ねるうちに属性ごとの得意不得意がはっきりしてきて結果的にそれが適正審査となるようだ。

 あと魔力による身体強化だが、これは少し勝手が難しい。これは僕一人で練習したので手探りの情報ではあるが、現段階で分かることをまとめておこう。

 この身体強化というのは強化を施した部位に魔力がまとわり、薄い被膜のようなものを形成する。感覚はとても質の良い手袋をしているようで、打撃威力、防御力、脚力など基礎体術に使える者は基本強化できる。魔力をまとっても触れたことは理解できるが、痛みは感じない。おそらく魔力の被膜が肩代わりしているのだろう。それを突破されたら I will feel pain.

 身体強化の強度自体はその圧縮の具合で決まるようで、より長く、より多くの魔力を注いだ身体強化は、より強固なものとなる。おそらく幼くして僕が家を跳び箱が如く跳び越えたのは注いだ魔力量がえげつなかったのだろう。加減というものが必要らしい。

 とはいえ基本的な身体強化で組手などをする分にはさほど圧縮は必要なく、圧縮するにしてもかける時間は最大でも1分といったところだろう。それ以上圧縮量の限界のようでやっても変わらない。そもそも1分も圧縮すれば一撃必殺にもなりうるとんでもない威力だし、なんなら戦闘中にそんな暇はないだろう。まぁ1名を除いてですけどもね。えぇ、まぁ、どうもどうも、えへへ。

 あと魔力と万象途絶は無関係である。魔力が枯渇していても万象途絶は発動可能だし、元来魔力の無い前世で使用できた時点で全く別の能力であることは明白だ。故にこの能力はいったい何なのか、謎は深まるばかり。まぁかっこいいからどうでもいいや。

 とりあえず本や実体験でわかるのはこのあたりか。あとは経験者に実際に魔法のイロハを教えてもらうとしよう。


―――――――――――――――


「カミィ、起きなさい。カミィ」


母の声がする。あと3回僕の名前が呼ばれるまでに起きなければ、凍ったパンが飛んでくる。なんて英才教育なのでしょう。


「カミィ、今日牧師様のところ行くのでしょう。早く起きなさいカミィ」


「ふはぁ―い」


元気ハツラツとした返事をした僕は両親のいる居間に向かう。ゲームに出てくる木造の宿屋のような家だが、僕は嫌いじゃない。それにこの村の家は大体こんなものだ。


「お、今日はパンにこの謎の青い液体をかけて食べるのか。とても食欲をそそるね」


「それはマッモイっていう植物の実でこのあたりで良く採れるのよ」


「ハハハ、それはまた良かった…」


つまりこの青いマッモイとかいうやつが僕の主食のお供になるわけだ。笑うしかない。

 そもそもジャムをこよなく愛する僕としては、例え朝食がご飯であっても不服なわけで、あろうことかマッモイなど、到底許されない。


「おいしいでしょう。爽やかな風味だから朝ごはんにうってつけなのよ」


「へ、へぇ...」


 それすなわちこれからの朝ごはんのマッモイ化を意味するわけで。ではなぜこれをこの歳まで食べさせなかったのか。決まっている、大人の味とかいうやつだからだ。

 この世界では8歳というのが年齢的な層の区分のひとつのようで、それにはやはり魔法適性によるものが少なからず関与しているのだろう。

 それにしてもこのマッモイ、なんだか性に合わない。何がムカつくって別にそんなに不味いわけではないことだ。不味けりゃ食べるのを敬遠する理由にもなるが、それさえもできない。なんというか、当然舐めたことはないのだが、きれいに掃除した銭湯の床のような味だ。いや決して不味いのではない。でもなんというか、うん...後を引かないことこの上ない。銭湯の床舐めたことないからな!


「ご、ごちそうさま...」


「はい、早く支度してらっしゃい」


「了解です」


そういって僕は一目散に自分の部屋に戻って動きやすい服に着替えると、今度は玄関を目指して駆け出す。そこには外出の用意をした父がいた。


「お、カミィ。準備できたか」


「もちろんでさぁ」


「おっしゃ、じゃあ行くか」


 そうして意気揚々と我が家を後に、父と二人で村のはずれにあるにある教会に向かう。そこには村で唯一魔法が扱える牧師様がいらっしゃる。先の適性審査もこの人が承ってくれる。まったく、牧師様が亡くなったら誰が審査をするのか。牧師様だって若くない。若くないというのは言い過ぎた。結構な歳だ。だから跡目を見つけなければいけないのはそう遠くない話だ。

「おやカリズさん、おはようございます。今日はどのようなご用向きで?」


「おはようございます牧師様。今日はこの子を…」


「あぁ、魔法属性の適性を調べに来られたのですな。でしたらこちらに」


そういって僕らは教会の中に通される。なんだかおっきい人の像が何個かある前に僕は立たされた。


「ではこれより魔法の適性を調べます」


「はぃ」


きたきたきたぁ‼ここで僕の魔法適性が晴れてわかるわけだ。いやぁなんだろう。全属性持ちとかもかっこいいけど特化属性とかもいいよなぁ。いいねぇ。


「では簡単な詠唱をおこなってもらいます。ここに書かれた文字を読み上げてください」


そう言って牧師様は石像に刻まれた文字を指さす。僕は書かれている通りに読んでいく。


「火よ、我が呼びかけに応えよ」


「.....................」


「では次を」


そう言って牧師様は横の石像に刻まれた文字を指さす。僕は書かれている通りに読む。


「水よ、我が呼びかけに応えよ」


「.....................」


「では次を」


―――――――――――――――――


結果、無属性。...................え?

 いや、人は基本、扱う魔力量が足りないにしてもなにかしら属性を持っているはずだ。なぜ僕は...


「いやはや、めずらしいですな。無属性の子は初めて見ました。でも魔力量が莫大なだけもったいない」


 そう、僕の魔力量は常識を逸するものであった...とはいうものの、それは一般人としてであって、強い部類の冒険者の平均といったところであった。本で見た。なので目の玉が飛び出るだとか、そんなレベルではない。まあなかなかいないのは確かである。普通の村人なら冒険者になるのも心細いような魔力量しか持っていないのだ。それを考えたらまぁ恵まれてはいるのかもしれない。上の中といったところだ。後天的に増えるのを期待しよう。

 

帰りがけに、父は僕を慰めるように話しかけてきた。


「そんなもんだぜ?理由は何であれ、結局村のみんなは魔法使えねえんだから。魔力がある分お前は身体強化とかはできるだろう。よかったじゃねぇか」


「まぁ…」


 

 結構ショックである。魔力量の多さは薄々自覚していたが、まさか無属性とは。これでは火の息吹とか雷の剣とか氷結とかできないではないか。マイドリームがあぁ。

 だが僕には万象途絶がある。これを駆使すればカッコイイ旅人も夢じゃない。切り替えていこうじゃないか。

 15歳になったらこの世界では成人する。そうすれば旅にも出られる。それまでにしっかり訓練して、親孝行して、戦闘のイメージとかも掴んどかないと。

やることはいくらでもある。さっさととりかかろう。


「じゃあ今日はマッモイの収穫を手伝ってくれよな」


「えへへ」


うわぁぁぁぁぁぁああああああ‼

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