第八節 食事
見知らない廃屋らしき場所で私は目を覚ました。
どこかは全く分からなかったが、時刻は夕暮れに差し掛かろうというところだ。
辺りからは何も聞こえてこないことから、聖都の郊外に位置している場所なのだろうと 私は思った。
自分がどれくらい寝ていたのか、まったく見当が付かない。
私はあの化け物のことを思い出し、自分の体を見る。
着ていた修道衣と外套はそのまま、土の汚れはあっても液体がかかってできたと思われる汚れはなかった。
私は一つ息を吐く。
「夢……だったのね……」
恐らく途中で歩き疲れて寝てしまったのだろう、そういえば最近疲れが溜まっていたように思う。
私は顔にかかった髪を掻き揚げ
「でも、ここはどこ……?」
私は辺りを見回して呟く。
まず焚き火が目に入ってくる、やはり倒れた後に私を誰かがここに運んできたらしかった。
さらに視界を巡らすと次に視界に入ったのは薄汚いズタ袋、中に何が入っているのか知らないが、パンパンに膨れている
そして、最後に目に入ってきたのは、鎖で雁字搦めにされた黒塗りの箱……
棺だ。
「よう、やっとお目覚めか」
突然にかけられた声にそちらを向くと、こちらに向かってくる人影が一つ。
あの白尽くめの男だ、棺は持っていないが、その代わりに生きた鶏を一羽手に提げている。
私は思わず
「……この前会ったときといい、やはり覚えてねぇようだな、まぁいい、それよりそう構えることもねぇだろ、せっかく助けてやったんだからな」
男は言って左半身を覆うマントの下から左腕を出す。
それは、人間の腕からはかけ離れたものだった。
そう、昨夜あの化け物を握りつぶした異形の腕だ。
私はその時あの出来事が夢でなかったことを確信する。
次の瞬間、男は何の
「!」
私は思わず目を背ける。
私が恐る恐る男に目を向けると、凄惨な光景が飛び込んでくる。
私がまた目を背ける中、男は血抜きを続け、羽毛を剥はいで鶏を捌さばき始めたようだった。
私は耳を塞ふさぎ男が鶏を切り裂く音を遮さえぎる。
やがて男は鶏の肉を串に刺して焼き始める。
その様子を私は遠巻きにして見ていた。
暫しばらく気まずい静寂が流れる。
やがて、肉の焼ける臭いが辺りに漂い始める。
「おい、こっちに来たらどうだ、そろそろ焼けるぞ」
男が声をかけてくる。
「……いらない」
私は男の誘いを断る。
「やれやれ、せっかくテメェ等流のやり方で料理してやったんだがな」
男は言って串のうちの一本を手に取り、かぶりつく。
「野蛮だわ」
私の言葉に男は肉を咀嚼そしゃくして飲み込み、
「ほう、まぁそう言うんならそうなんだろうな、あんたが今までどれだけお上品なものを食ってきたのかは知らねぇが、俺にとってはこれが生きるということだ、鶏だろうが麦だろうが何かを殺して糧にする、そうしてしか俺達は生きられない、違うか?」
男の皮肉と問いかけに、私は反論しようとするが
グウゥゥ
私のお腹から音が漏もれる。
私はみるみる顔が赤くなるのを感じる。
そういえば、私はどれくらいの時間気絶していたのだろうか、少なくとも今は夕暮れ時だ、夕食もとっていないことを考えると相当な時間何も口にしていないことになる。
男は懐ふところに手を入れ一切れの乾パンを取り出し
「肉が気にくわないなら、こいつでも食うんだな」
言って私に乾パンを放る。
私は慌ててそれを受け取り
「食べ物を放るなんて……」
私は言葉と共に非難の眼差しを男に向ける。
「せっかく用意した食い物を食わないやつよりはマシだ」
男は言ってまた肉にかぶりつく。
私は立ち上がり男の傍かたわらに大股で近づき、乱暴に座る。
そして、肉の刺さった串を手に取り、私はそれにかぶりついた。
何の味付けもしていない粗野な料理……これが、私が生まれて初めて口にした肉だった。
「やればできるじゃねぇか」
男が笑う。
私は不機嫌に男から顔を背け、肉をまた口にした。
食事を済ませ、私は少し落ち着いてくる。
辺りは都の中とは思えないほど静まり返っている。
聞こえるのは火が爆ぜるパチパチという音だけだ。
「……あなたは……何者なの?」
私は男に問いかける。
あの異形の腕といい、白尽くめの出で立ちといい、何より私を知っているような口ぶり、只者ではないのは確かだ。
そういえばさっきまで気付かなかったが男は公用語ではなく私のいた地方の言葉で話している、しかも
男は問いかけに答えず暫く火を見ていた。
だが、ふと私に目を向け
「さぁな、あんたは俺が何に見える?」
男の意外な言葉に私は返答に
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