第六節 失踪

 それから一週間が過ぎ、行方不明者は五名に上っていた。


 さすがに教会の雰囲気も変わってきている。


 シスター見習いばかりが立て続けに五人も消えればうわさも立つのが普通だ。


 休み時間はその話題でもちきりだ。


 逃げ帰ったという者もいたが、五人とも孤児だという話だったため、行く当てなどないはずだ。


 中には殺人鬼に殺されたというものあった。


 タニアはこういった話題が好きなので、自由時間は私から離れ、熱心に噂を集めている。


 私はさらにあの“見られている感じ”が強くなったように思っていた。


 というよりは何か"人間でないもの"の気配というべきだろうか。


 タニアの言ったとおり私には神経質なところがあるように思う。


 だが、“何かがいる”と私の本能が告げている。


 ふと、私は教室を見回す。


「……タニア?」


 私は小さく声を上げた


 タニアがいない


「ねぇ、タニアを知らない?」


 私は立ち上がり、さっきまでタニアが話していた一団に話しかける


「さっきトイレに行くって出て行ったけど」


「ありがと」


 私は短く礼をいい、歩き出す


 嫌な予感がした、どこへ行くにも私と行動を共にしていたタニアが一人でトイレに行くなど普通はない。


 動悸どうきが早くなる。


 私がトイレに着くと……タニアは手を洗っていた。


「あ、ケイト、どうしたの?」


 手を拭きながら呑気のんきに言ってくるタニアに私は肩すかしを食らったような気になり眉間みけんに指を当てる。


 心配した自分が妙に腹が立つ。


「……なんでもない」


「あ、もしかして心配した?」


 聞いてくるタニアに私は苛立つ。


「してませんっ」


 言って私は大股でタニアの横を通り過ぎ歩き始める。


「ちょ、ケイト待ってよ、ごめんってばぁ」


 ついてくるタニアに私は振り向き


「中まで入ってくる気!?」


 私が言うとタニアはシュンとする。


 私はため息を吐き


「いいから、外で待ってて」


 私は言ってトイレの個室に入った。


 そして一つため息をつき、何もせずに出てきたとき、タニアはいなかった。


「待ってて、って言ったのにまったく…」


私は呟いて、教室に戻るが、タニアの姿はない、もう次の授業が始まるころで、全員移動を始めていた。


(部屋にいるのかな……?)


 私はそう思い、自分の荷物を取りに行き、あることに気付く。


 タニアの荷物がそのまま置いてあったのだ。


 私は奇妙に思うがタニアの荷物も持ち、部屋に戻る。


 しかし部屋にもタニアはいなかった、それどころか次の時間に必要なものもそのままある。


(……まさか)


 私の胸に不安がよぎる。


 私は祈るような気持ちで次の教室へ急いだ。


 だが、そこにもタニアの姿はなかった。


 結局、タニアは見つからず、失踪者のひとりとなった。


 その夜、私は独りになった部屋で泣いていた。


 夕食は摂っていない、それどころではなかった。


(あの時、意地を張らずに心配したと言って一緒にいればよかった……)


 そんな思いが私の胸を締め付ける。


 そして、この聖地の教会で何かが起こっていると確信する。


「何かが……起こってる」


 私は呟く


 そして、あることに思い当たる。


 あの棺を背負った白尽くめの男だ。

 

 あの男と会ってから失踪者が出始めた、無関係とは思えない。

 

 私はいてもたってもいられず、寝巻きから修道衣に着替え、配布されている外套がいとうを引っ張り出して羽織り、教会から抜け出した。

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