第四節 邂逅(かいこう)

中庭の掃除は私とタニアを含め六人で担当している。


こういった仕事も見習いがやることになっている。


 一週間ごとに掃除の場所は変わることになっており、場所によって人数も変わる。


 基本的にルームメイト二名で行動するのだが、このときは他の部屋の同僚も一緒になる。


 彼女達と話しながら中庭につく。


 吹き抜けから砂漠の強い日差しが降り注いでいる。


 その中でなお瑞々しい緑と、咲き乱れる花々がその美しさを競っている。


 花達がその身を揺らすと、花弁が舞い散り吹き込んできた風を彩った。


息を呑むほどに美しい光景だったが、その感動はそれを大きく上回る異質なものの存在で打ち消された。


「棺ひつぎ……?」


 私は呟いた。


 目に入ってきたものは私の言葉通り鎖でがんじがらめに巻かれた棺だった

 それを背負っている男も十分に目立つ、遠目から見ても背はかなり高く、棺で視界が遮られているものの、その服装はどうやら・・・白尽くめの旅装束ようだった。


 白尽くめの旅装束は死体にしか用いない、穢けがれなき白をまとい聖天使の下に旅立つという意味があるからだ。


「なんか、やばそうだよ……」


 タニアが少し下品な物言いをして私の腕にすがる


「人、呼んでこようか……」


他の部屋の娘が言う。


私は、意を決してタニアの手を解き一歩踏み出す


「ケイト、危ないよ、人を呼ぼうっ!」


 タニアが大声を出したため、男がこちらに振り向く。


服装はやはり白尽くめだった、白いマントで左半身を覆っており、さらに髪の色は白に近い銀。


顔つきはややきつい印象だが端正で、透き通る様な白い肌に空色の瞳・・・


身に纏うもので白でないのは、棺と額に巻いている赤い布くらいだ。


場の全員が思わず息を飲む。これほどにインパクトのある外見の生きた人間を見るのは恐らくここにいる全員が初めてだろう。


「俺に何か用か?」


 だが、端正な顔つきとは裏腹に言葉は少し、いや、かなり汚いといえた。


 しかし、私の喋る公用語のように訛りはなく、いたって流暢りゅうちょうだ。


「……ここは、一般の方が立ち入れる場所じゃないんですが……」


 私は勇気を振り絞しぼって声を出す。


 こんな男に襲いかかられたら、この場にいる全員でも止められないだろう。


「ほう、そいつは気がつかなかったな、立派な庭だったんでつい、な」


 男は興味もなさそうに庭を一瞥し、私の顔を見る


「それよりあんた、もしかして……」


 男は言葉を途中で切り意味深げな笑みを浮かべる


「いや、なんでもない……じゃあ、お呼びでないようだからお暇するか、悪かったな」


 男は言って少ししゃがみ、そして跳ぶ。


 男は宙を舞い中庭に聳そびえ立つ壁の上に着地し、そのまま姿を消した。


「嘘でしょ……」


 誰かの声が耳に入ってくるが私は呆然と男が消えた壁の上を見ていた。


(あの人……どこかで……?)

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