第一節 目覚め

暗い部屋の中、私は体の自由を奪われ鎖で床に貼り付けられていた。


 周囲にいくつか配された蝋燭ろうそくの淡い灯火ともしびが闇の密度をいくらか緩和かんわしているものの、その明かりの外には深い闇が広がっている。


 床にはよく見えないが血のようなもので幾何学的きかがくてきな図形と意味のわからない文字が書かれており、動けないことも合わさって私の恐怖心を煽あおる


 コツ


 頭上から聞こえた音に私は肩を竦すくませてそちらを見ると、そこにはいつの間にか二人の男女が立っていた。


 どちらも普通の服を身に着けている、しかし、顔だけなぜか靄もやのようなものがかかっていてよく見えない。


 男が両手を振り上げる、その手には手斧が握にぎられていた。


 そして、斧が私めがけて振り下ろされる。


 バッ


 私はベッドから飛び起き、荒く息を吐き出す。


「……また、あの夢……」


私は乱れた髪を掻かき揚あげ、呟く。


全身に漂う倦怠感けんたいかんに軽い頭痛、悪夢の後はいつもこうだ。


そして、同じ夢という確信はあっても決まって内容は思い出せない。


私は体に鞭打ってベッドから起き上がる。


隣のベッドに目をやると、一人の少女(といっても私と同い年なのだが)が気持ちよさそうに寝息を立てている。


「まったく、のん気なんだから……」


 私は少し恨めしい気持ちで呟き、窓まで歩いていく。


 窓を開くと同時に、差し込んでくる朝日に私は目を細める。


 太陽はもう昇っていた。


 私はその様を少しの間見ていたが、すぐにあることに思い当たる


「ち、遅刻だっ、タニア早く起きて、遅刻よっ、タニアってば」


 私は慌てて少女の名を連呼して彼女の体を揺さぶる。


「う~ん、もうあとちょっと……」


「そのちょっとがないのっ、私、先に着替えるからねっ」


私は忙しく着替えを始める。


黒い飾り気のない服をまとい、やはり黒いレースを頭に被り、首に四枚の翼を象った聖印せいいんのペンダントをかける。


「あー、何でこんなに日が昇ってるのっ!?、何で早く起こしてくれないのよケイト」


ようやく起きたタニアが私に対し非難の声を上げる。


「私も寝坊したのよっ!!タニアが起きないのも悪いんでしょ!わたし先に行くからねっ!!」


 私は言い放ち部屋を出る。


「ちょっ、ちょっと待ってよケイトっ、お願い!」


 タニアの呼び止める声に私は仕方なく立ち止まる


「早く着替えてよっ」


 私はタニアをせかした。

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