第2話 公爵とメイドⅠ 〜ティータイム〜

 ゾフィーの背を超え、執事のアルフレッドの背もはるかに超えて、本棚は闇に吸い込まれるかのように高く聳え立つ。ステンドグラスを拵えた窓を避けるように本棚は取り付けられ、さまざまな色に輝く光が怪しさと興味深さを引き立てている。二人は窓際にある豪華さを控えめにした円卓に腰掛け、ティーポットから注ぎたてのアールグレーティーと焼き菓子を嗜む。


「皇女様、お味はいかがですか?」

「まぁまぁってところかしら?それよりも、小耳に挟んでしまったのよ!特大のネタかもしれないわ。」


 ゾフィーはティータイムには必ず、俗世の話を欲する。それは噂好きとも言えるが、謎解き好きとも言える。何でも追求する性格であり、探偵ごっこでは飽き足らず、アルフレッドを悩ませる。とは言えど、何処かで楽しんでいる。


「バラ園で使用人たちの噂話を聴いたのよ!」

「そうでありますか。それはどんなもので?」

「シュタット公爵家の使用人が消えたと思ったら、二ヶ月後また戻ったらしいのよ。」


 シュタット公爵とは、シュライヤークラウト皇帝の妃、マリア皇妃の父であり、ゾフィーの祖父である。その邸宅で働くメイドがある時、突然姿を消したのだ。仲のいいメイドも知らず、街や村など領内を探し回ったらしい。しかし、その二ヶ月後、何事もなかったかのように戻ってきたのだ。


「でも、口を聞けなくなってしまったみたい。とても気の毒よね。」

「皇女様、私アルフレッドめはわかりますぞ。…臭うってことですよね?」


 姿を消し、口が聞けなくなった状態で戻るとは、何とも都合の良い話である。仲の良いメイド以外の使用人が、その事実を報告しないのも不思議だ。何か嫌な予感がする。


「アルフレッド、調べてみましょうよ!ね?」


 ゾフィーは、お決まりのおねだり顔でアルフレッドに強請る。こうされて仕舞えば、アルフレッドの立場ではどうしようもなくなる。小悪魔的な皇女に振り回される従者とは、気の毒ではあるがそうでは無いとも言える。アルフレッドは、ため息を静かに吐き出しながら頷いた。そして、二人は公爵家を訪問して探ることにした。

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